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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
秘境の英雄編
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第十三章 「幕開け」 1

 物語には起承転結がある。

 けれど人生にはない。

 仕組まれた話ではないのだから、盛り上がりに波はあっても、それを起承転結とは言わない。


 ひょっとしたらソロモン・グランディの一週間を連想する人があるかもしれない。


 月曜日に生まれた。

 火曜日に洗礼を受け、

 水曜日に嫁をもらい、

 木曜日に病気になった。

 金曜日に病気が悪くなり、

 土曜日に死んだ。

 日曜日には埋められて、

 ソロモン・グランディは一巻の終わり。


 これに起承転結をつけることは可能だ。

 なぜなら実際の人間を一週間に例えたものだからといって、全ての人間がこうであるとは限らない以上物語に過ぎないからだ。

 無駄なことを全て切り取って、おおまかに、面白く、表現しているだけなのだから。


 ある事件をつづったノンフィクション小説があったとしよう。

 その小説には起承転結がつく。

 さらに例をあげるなら、その事件はAが信用していたBが実はスパイであったというものだとしよう。

 AはBと出会う。これが起。

 AはBとともにCを負う。これが承。

 AはCが実は存在しないことに気が付く。これが転。

 BはスパイであることをAに明かす。これが結。

 結果が変われば転も変わってくる。この場合BがAに逮捕されるのがオチなら転は前述の結の部分が入る。


 でもこれは著者が事件を面白くみせるように添削をした物語だ。キャラクターはあくまでも駒であって、著者の記した言葉通りにしか動けない。

 けれど実際は違う。

 実際の事件に起承転結はつけることができない。

 AとBとCはそれぞれ同じ時間を過ごし、それぞれ同じ時間に別々な行動を取っていて、結果Bがスパイだったというだけなのだから。

 前述のように項目に起こすことはできても、それに起承転結をつけることはできない。

 しかし、これは言い過ぎだ。もう少し詳細に説明せねばなるまい。そのためにはまずはじめにこう言うのだ。


 終わらない物語など存在しないように終わらない人生など存在しない。


 完結しても未完結でいても、決め台詞で括られても会話文の途中でも、文が無限に羅列することはない。必ず終わりは存在する。


 物語に必ず「結」があるように、人生にも必ず「結」が存在する。


 けれど必ず承と転があるとは限らない。

 ある事件があったとする。それは複雑怪奇な殺人事件だ。

 事件は起こった。捜査官は事件の真相を調べた。結局未解決事件のまま終わった。


「物語に起承転結があって、人生にはない。その理由を教えてあげようか?」

 目の前でただ延々と、永遠と、一生口を動かしているサテル・ヴァロンツェッヒが口をひん曲げてにたりと微笑む。おれはこれ以上悪に満ちた表情を知らない。今後一生知ることはないだろう。


 サテルは二度手拍子をしていつでも永遠に失いそうなおれとユリアの意識を強制的に起こし、それはね、と続ける。


「起承転結のない物語は面白くないからだよ」







 別荘に到着したおれたちは疲れていた。しかし何も食べないわけにもいかなくて、アーマードさんの別荘にいるメイドが作ったという料理をご馳走してその日は寝ることにした。


 ぐっすり眠ることができた。

 目覚めだけは最悪だった。

 アンナが「朝だぞー」なんて軽い声で、全力で腹を殴ってきたのだ。嫌でも目が覚める。


「なんだ、アンナ。おれはべつにあんたのことは好きじゃあないんだが」

「酷いなあ、ツンデレみたいな言葉使って」

「ん? あんたに、いやこの世界にツンデレとか萌えとかの文化ってあるのか?」

 異世界には普通ないはずなのだが。

「そういえばナース服があるといったよな、あれっていつ使うんだ?」

「きみはひょっとして馬鹿か? ナース服は病院で使う以外ないでしょ」


「病院! この世界に病院なんて建物があるのか?」

 異世界は普通医療所とか宿屋とかそんな感じだと思っていたんだが。

 この朝だけでこの世界のイメージが崩れていく。


 少しこの世界の文化が気になったので色々こいつを使って調べることにした。

 おれは(ぐー)を前に出して二度ほど小さく振った。


「お、喧嘩か? 上等だこらぁ」

「なんでそうなるんだ……」きっと元の世界の住民、外国は知らないが日本人ならわかるはずだ。「じゃんけんだよ」

 おれはアンナの返事も待たずにゲームを開始する。

「最初はぐー、じゃんけん、ほい」


 おれはぱーを出し、彼女はちょきを出した。

 ちょきなんて複雑な手の出し方をするんだ、これはこの世界にじゃんけんが存在することを意味している。

「よっしゃ勝った、金貨一枚頂戴」

「やらねえよ」


 なら、このゲームはどうだ、と拳を二つ前に出した。

「なんだまた喧嘩か? 上等だこらぁ」

「だからなんでそうなるんだよ、このアホが」

「なんだと!」


「こっちでも正式名称がなんていうかわからないんだが、〝勝負、何〟と宣言して親指を上げる。その本数が場に出た親指の本数と同じなら一つ拳を下げる。両手が下がった人が勝ちのゲームだ」

「うむ、あたしもそのゲームの名前には困っていた。あたしは勝手に状況予想簡易有限確定完全情報ゲームなんて呼んでるけど」

「おまえ、ひょっとして頭が良いキャラだったりしないよな」


 どんな長ったらしいゲーム名だよ。

 ……ん?

「おまえてきとうに言っただけだろ、このゲームにおいて運の要素が伴うんだから確定じゃないし、過去誰が何を言ったところで意味ないんだから完全情報ゲームでもない! やっぱりあんたは馬鹿だ」

「気付いたか、よくやった、きみは頭が良いなあ、お礼に銀貨一枚くれ」

「やらねえよ……おい待て、そろそろツッコミ疲れそうなんだが、なぜおれがあんたに金をやらにゃならん」

「頭が良いことを気づかせてやったお礼だ」

「嫌だ、あんたに頭が良いと言われるのだけはなぜだか嫌だ!」

 とりあえず日本ですら地方でかなり色とりどりなゲームもこの世界には存在する。やはりこの世界はよくわからない。


 ドアからノック音がした。

 返事をするとユリアが入ってきた。


「そろそろ朝食」と相変わらずの声色で伝える。

 おれとアンナが実は結構近い位置で話し合っていることには何も突っ込んでくれなかったのでそれはそれでショックでもあったりする。

 アーマードさん、今日帰るというのに朝食まで作ってくれるのか。まあ作るのは彼じゃなくてメイドだし、感謝すべきはメイドさんの方なんだが。別れ際挨拶しておこう。


「そのことだけど、外はご覧の通り大雨なので今日も泊まっていけとのこと」

「は、いや、そんなの彼に悪い」

「リーナもそう直接言ったそうだけど、アーマードさんがみんなの身を案じすぎて、拒否できなかった」

「まあ、リーナならそうなるな。しょうがない、この世界でのやるべきことが済んだら改めてしっかりとお礼をしに行こう」


 おれは一伸びして客間から出、階段を下りて食堂の席に着いた。

 文章がいちいち豪華だが、気にせずおれは朝食を取った。


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