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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
秘境の英雄編
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第十章 「たまには平和な日常」 2

「なんとなくだけどおれっておまえと話すときくらいしかシリアス以外の会話をしないよな」と翌日の朝、アンナに言う。

「なんだと? あたしが馬鹿だって言うのか?」

 貴様は猫系女子のなりぞこないのようだ。


 今日おれたちは英雄の証を手に入れるためにサーシャルトスのもとへ行く。


 とでも言っておけば本当に冒険記のようだが、今のところアーヴァシーラを拠点にしてあっちへこっちへ行っているだけなんだよな。

 冒険らしい冒険と言えば牢獄から東都までの道程だけだ。


 リーナとユリアが続いて庭に集合する。

「リーナさん、ついてきて大丈夫か?」

「大丈夫」とリーナはむんと頑張るそぶりを見せた。


「そういえば」と一度ユリアに耳打ちして許可を得てからきく。「リーナさん、あなたの巾着の中身を見せていただけませんか?」

「え、ええ」と渋々巾着を開く彼女。


 中には輝いた小さめのクリスタル。

 剣にはめるにはちょうどいいサイズである。

 間違いない、忠誠の証――努力者の証だ。


「おれたちはそのクリスタルを集めているんだ、できればおれにくれないか?」

 どうせこうなるのだ、早めに回収した方がいい。


 しかし彼女は怪訝ではなく恐怖の表情を浮かべていた。

「ごめんなさい、これを手放すのは怖くって、最後でもいいかな」

「あ、ああ、そうか、すまない、大切なものだからな」

 タイミングが遅くとも無事集まればいいさ。


「さて、目指すはディザム、北西だ」

 と歩き始めると同時、ユリアが俺の肩をたたく。

「なんだ?」

「ごめん、ディザムまでの地理情報がない」

「地図ならここに」と地図を見せる。

「違う、塔の周りには樹林が広がっている」

「それが問題なのか?」

「塔まで時間がかかるから覚悟して」

 ああ、そういうことか、と理解した、しかしその直後。


「その心配はないよ」

 と若い男の声がした。

 振り向けば見知った顔。


「アーマードさんじゃないか」とおれは名を呼ぶ。

「やあ、突然失礼。ディザムまでの地理情報は持っているつもりですが、よければご一緒しましょうか?」と頼もしいことを言う彼。

「ああ……? いいのか? 王の立候補がおれたちに付き合うなど問題だろ」

「今日明日休暇でしてね」

「なら、お願いするよ。大丈夫か、ユリア」

 彼女は頷いた。


「アーマードさんどうしてこちらに?」リーナがしかし全く訝しむ様子もなく問う。

「休暇ということで貴族街を散歩していると偶然装備を整えたあなたたちが見えまして。ご挨拶しようとしたところあなたたちの話を耳にしたのですよ」

「ご協力下さりありがとうございます」

 彼女は深々とお礼をした。


 かくしてアーマード・ケルビンズを含めた五人――ハズネ、ユリア、リーナ、アンナ、アーマード――太陽の塔ディザムに引きこもっているという英雄サーシャルトスの元へ向かうことになった。


「しかしユリア、どうしてサーシャルトスがディザムにいるなんて言えるんだ?」

「書籍によればサーシャルトスはディザムに影人狩りに出たきりで行方をくらましているという。なぜだか関連する情報がとても少ないのだけど」

 なるほど。ならディザムに向かうのが一番か。


 そういえばもう感覚が狂ってしまったのだが今日って異世界に来てから何日目だ?

 初日はスークロック近くの草原で寝た。

 二日目はヴォルステックの店で。

 三日目はヴァラウヘクセ邸の客間で。

 四日目は草原で。

 五日目は客間で。

 ということは六日目か。無論人生で最も長い五日間だった……いや、実はこの世界はすぐに日が落ちるのでそうではないのか……けれどこの世界は失格であっても幻想的で、まるで幼少期に見た夢のようだ。


 幼少期か、と不意に過去を思い出す。

 今も頭がいいわけではないけど、幼稚園生くらいのときのおれは地球が丸いことは知っていても世界地図を知らなくって、アフリカを異世界と言っても過言ではないほど遠い人類未踏の大陸であると思っていた。

 まあ今でも、神奈川県民にはわるいけど、神奈川という名前より横浜という名前の方が有名――おれの脳内で――だから是非横浜県に変えて欲しいと正直に思うほどなんだが。


「ああ、そうだ」と脳内文章で疑問が生まれる。「リーナさん、そのクリスタルはいつ頃にもらったんだ?」

「え? ええと……まだアンナとは会っていなくて……多分十歳頃だと思うよ」

 十歳、小学四、五年? おれもあまり記憶にない。自分も思い出せない古い記憶を相手に思い出させるのは駄目だ。仕方がないさ。

 けど当時は羽捻学斗なんて名前でいじられて――ん?――なんだ?――なにか見落としている?――なんだ、この嫌な感覚は――予感は――。

 しかし、リーナは今何歳なんだ?

「しかし、リーナは今何歳なんだ?」


 ……あ!

 声に出てた……おい、かの正義の味方かよ……おれは何様だよ。


「すまん、口が滑った」というとしかし彼女は頬を膨らませ、腕を組んで答えた。

「十七歳よ」

 え、マジで、と語彙力のない驚きが心の中で発される。十七歳か、一歳下だ。だからどうってことはないのだが。

 彼女は見た目が大人っぽい、つまり綺麗系美人だが年齢は低い。

 きっと幼馴染のユリアも同じだろう。


 おれはアンナに視線を送る。

「な、なによ、あたしは十八だからね」

 きっとこいつおれより年上だと思ったのだろう胸を張っていた。

「おれも十八だ。――アーマードさんは? 見た目かなり若いけど」二十五ぐらいか?

「二十四ですよ」と彼は笑顔で答える。


 年で気になったことが一つ。

「王家はいつ頃断絶されたんだ?」

「約一年前」とユリアが答える。

 一年か。影は一年で世界の半分以上を消滅させたのか。

 あれ、この話はビルじいさんから既に聞いていたか。最近どうにも記憶力に優れないな。


「よし行こう。英雄に会うんだ」

 嫌な予感がしたが、おれは気にしなかった。

 その予感につき無意識にトワイライトの剣を握ったことを全力で誤魔化して。

 何より、ナイフではなく不思議な剣を握っていることを嘘だと怒鳴りつけて。


 おれたちはヴァラウヘクセ邸を出た。

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