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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
秘境の英雄編
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第十章 「たまには平和な日常」 1

 おれはこの世界について何も知らない。

 未だに影が何か理解していない。未だに王の支配力を把握していない。未だに追放者という組織の真相を知らない。

 だから日記をつけるわけではないが、メモをすることにした。


「ユリア、すまない、ペンとメモ帳のようなものはないか?」

「ある」といって彼女は客間の机の中から万年筆と紙を取り出した。

「ありがとう」礼を言って受け取る。

「もう使わなくなったものだから持っていて」

「いいのか? ありがたく受け取っておくよ」とペンを貰った。


 図書館からヴァラウヘクセ邸に戻り、明日の準備を客間でしていたところユリアが遊びに来たので色々と話していた。

 おれはこの世界に来てから得た情報をなるべく思い出して書き連ねることにした。


〝トワイライト・マックスフォードは現『追放者』の長サテライト・マックスフォードの親族であると考えられる。追放者の監獄で影に飲み込まれた。自称ディシヴァシーラの遣い。影が効かない(飲み込まれはするものの、影が他のものへ齎した影響は受けない)。〟


「わたしから見たら何もかもわからない」

「そりゃ、影に飲み込まれているからな」


〝リーナ・ヴァラウヘクセは貴族。巾着を常に持っていて、その中身は恐らく努力者の忠誠の証であると考えられる。

 ユリア・アンツヴァイはリーナの幼馴染にしてメイド。

 アンナ・ヴァルシアはアーリーの影人の制御方法を知っているような奇妙な、リーナの友人。

 バルサネ・ブルーノは『影の世界』の長であり、現在の最高権力者。


 ハズネ・ガクトは時間の巻き戻りを伴うリスポーンができる(通称『いろは』)。この国の遣いということになっているが、裏切っている。敵の死を把握できる。影が効かない。〟


「人物はおおよそこれくらいだろう」

「わたしの説明が短い」

「別にどうでもいいだろう……」


〝この世界は今まで王の元に成り立っていたが王家の断絶により影が侵略を始める。

 影とは「反物理的物質」である。飲み込んだものの存在を消す。侵略の速度は不変であり、『いろは』の影響を受けない。

 影を吸収した人間は影人となる。影人も矛盾した存在であり、外には内(心臓に杭打ち)、内には外(四肢切断)で殺害できる。

 この世界ではカオティック・レコード理論が有力である(元の世界には、少なくとも日本には無い)。世界は唯一無二、更新によって運命が変わる。〟


「そういえば、カオティック・レコード理論では世界が更新されると過去も未来も変わってしまうそうだが、世界を更新した人間の記憶も改変されてしまうのか?」

「わからない。けれど記憶を保持できる『イレギュラー』の存在も否めない」


〝王の証とは王の権力を示すクリスタル。忠誠の証とは〟


「忠誠の証って結局何なのだ? 王の証が消える前からあったようだが」

「王の証の光――ルミエルテルを得たクリスタルのこと。あなたの持つレプリカはルミエルテルを吸収するためのもの」

 ルミエルテル……ネーミングセンスだよ、ルを三回言ってるよ……ルミエルテで終わらせておけば語呂がいいものを。


〝忠誠の証とはルミエルテル(王の証の光)を得たクリスタル。おれは王の証を完成させるために忠誠の証を集めている。〟


「このヴァラウヘクセ邸には忠誠の剣があると言っていたが、それには証はないのか?」

「証は普通、剣についているもの。ただし残念ながら、昔はこの屋敷にも剣があったらしいけれど、今はなくなっている」

「そうか。でもそれじゃあどうして巾着の中が忠誠の証だと考えるんだ?」

「わたしの知る限りクリスタルは王の証か忠誠の証しかない。だから、きっと忠誠の証を知っている人が御加護として剣から証を外し、リーナへ渡したのだと思う。あるいは証を証と思わせないように上手く隠すため、逆に巾着という目立つところにクリスタル単体で持たせた」

「いずれにせよ、誰かが関与したというわけか」

 ユリアが頷く。


 さて次はおれ自身の『いろは』について書いておかねばならない。これに関してはユリアから聞くことはないのでささっと書き終わらせる。

〝いろはとは死んでは過去に戻り同じ時間を繰り返す現象のこと。カオティック・レコード理論に従い、現世界の運命に沿わない場合はその日の夜に死亡する。〟


「もう一つ聞きたいことがる。『影の世界』の長のブルーノの目的は王の証を復活させて、新王を作り、証と新王を支配することで世界を救う、ということでいいんだな? 確か一度影の世界について教わったことがあったと思うが、いかんせん記憶がすぐれない」

「おおかたその通り」

 なるほど、院政みたいなものか。逆に言えば、ブルーノを縛り付けることができればこの世界は救われる。肝心なのは王の証を完成させることではなく、その後か。

「あれ? ブルーノの手下はおれ以外にもいるよな? そいつらが忠誠の証を持っていたらどうするんだ?」

「どちらかが気づいて戦闘になる」

「ならいいか」痛いのは御免だが。


〝『影の世界』とは王の証を完成させ世界を支配しようと企むブルーノの手下。〟


「トワイライト……いや、サテライト・マックスフォード率いる『追放者』というのは何なんだ?」

「わたしも詳しくは知らない。追放者はあなたが言うにはきっと元々は西都が結成した組織で、主に影人の討伐をしていた。アーリーが追放者だったかは知らないけど、追放者は彼の影人封印法を使って討伐をしていた」

「影人は王家が断絶される前から存在したのか。まあ、そうだろうな」


〝『追放者』とは影人を討伐する組織。アーリーと関係がある可能性が高い。〟


 ここまで書き連ねたところでリーナが部屋に入ってきた。

「ガクトくん、ご飯食べる?」

 そういえばこの頃一口も食事を取っていないなと思い出し、誘いに乗った。

「ありがとう、言葉に甘えて食べるよ」

 ペンと紙をポケットにしまい、剣を持って三人で部屋から出る。

「ユリアもありがとう、まだ書くべきことはありそうだが、この辺にしておくよ」


 今、影はどこまでこの世界を侵略しているのだろうか気になりながら昼食を取り、他愛もない会話をリーナとユリアと交わし、今日を終了させた。

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