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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
東都編
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第九章 「コーザリティワールド」 2


 アーヴァシーラ、ヴァラウヘクセ邸に帰還するまでに草原で夜を越すこととなった。

 以前のループではここで死んだ。原因不明だ、今回は死なないことを祈ろう。


 おれはポケットから王の証のレプリカを取り出す。クリスタルの中はより強く輝いている。幻想的だが、これがある所為で今となりでうとうとしているユリアを殺人者にしてしまったと思うと叩き割りたくなる。

 レプリカに収納されている忠誠の証は二つ、ウォルシンガムの貴族の証、アーリーの堅実者の証だ。残る三つはサーシャルトスの英雄の証、聖職者の証、努力者の証。今さら思い出したがユリアはリーナの巾着の中のクリスタルは忠誠の証と言っていたので、実質持ち主がわかっていない忠誠の証は一つ。


 寝袋などはないので、木を組んで火を作り、その周りで寝ることになった。衣装にこだわりがある彼女は後悔の表情を浮かべたが翌日に洗濯すればいいかとなんとか我慢している。

 ユリアは小柄な少女だ。身長は目測百五十センチ。対してリーナは目測百六十五センチ、アンナは百六十センチなのでより小柄に見える。その華奢な体の彼女がうずくまるとより小さくなる。

 彼女は色々と謎な存在だ。あまり会話をしていない上に意味不明な行動しか取らないアンナの方がよっぽど謎だが、おそらくおれはあいつとあまり関わる機会がないと思うので除外して、ユリアは何を目指しているのかよくわからない。

 リーナの友人と言うがなぜ彼女の館で生活しているのか。メイドとして働いているだけなのだろうけれど。なぜ手榴弾やナイフを所持していたのか。これは本当に謎だがいかんせん怖くてその入手経路を彼女から聞くことはできない。おれとレプリカを管理してくれと頼んだのはおれだが、なぜ文句も言わずにここまで付き合ってくれるのか。恐らく彼女は仕事くらいしか暇を潰す方法がなくて、その上ミステリー好き少女っぽいのでこの世界の危機と聞いて行動力を取り戻したのだろう。そしてなぜ彼女はあれほどまで戦闘慣れをしていたのか。


「うにゃ……」声が聞こえて驚いたが、この声はどうやらユリアのものだった。

 常にクールな彼女も眠気に襲われるとこんな声を出すのかと思いつつおれも寝ることにした。肌身離さぬよう剣を握り、目を閉じた。


 結果、おれとユリアは死亡せずに朝を迎えた。朝霧もない晴天下の草原。どこかのゲームで見た光景だが、気にしないでおこう。何度でも言うが、他人のアイデアを盗む小説かなんかがあったら訴えればいい。つまりおれの見ているものは作品ではないのでただの既視感で解決するが、もしおれが体験談と称して販売し、しかし体験していないのにもかかわらず他人のアイデアをパクっていたらそのおれの体験談を訴えればいい。が、おれはシュミレーテッド・リアリティなんて信じていないのでおれが自分の体験談を書くならともかく、おれが他人の作品のキャラクターであるとは思わない。


「一度ヴァラウヘクセ邸へ戻ってから次にサーシャルトスへ会いに行く予定だが――」

「着いて行く。サーシャルトスの行方はおおよそわかっているから」なんと言ったらいいか言葉を濁しているときユリアがそう返した。

「ありがとう」

 おれは礼を言って未体験の一日を始める。


 歩き慣れた所為かアーヴァシーラまでの道のりは短く感じた。過去改変位前の街は爆発事件で騒がしかったが、今は何もなく平凡な一日が演じられている。

 ヴァラウヘクセ邸へ戻る前に見晴らしの丘の塔で影の侵攻状況を確認したが、やはりこちらへ近づいていた。

 館に帰るとリーナが迎えてくれた。

「二人でどこ行っていたの?」という彼女の質問にユリアは事件を解決してきたと答えた。


「そうだ、ガクトくん、今日の昼頃時間はある?」

「ああ、もちろん」と言いながらそういえばリーナがおれへ連れて行きたいところがあると以前言っていたことを思い出した。


 昼まで時間があるのでおれは庭に出て剣を振っていることにした。

 剣を握ってトワイライトの顔を思い浮かべる。彼女は死んだ、あのとき死んでいなくとも影に飲み込まれている。おれには奇妙な能力が幾つかあるが、その内の一つに影が齎す影響を受けないというものがある。もしおれにその能力が備わっていなければ、おれはこの剣が誰のものだったのかすらわからず、彼女の顔を思い出すことすらなくここで生活していたと考えると切なくなる。

 そういえばおれのその能力はトワイライトにも備わっていた。そもそも西都の話題を出したのは彼女だ。そのときには既にディシヴァシーラの存在はこの世界から消えていて、誰も思い出すことができなかったはずなのに彼女は憶えていた。おれが西都の存在を何の不思議も覚えずに頷いたときに彼女は明らかに驚いていた。今になって考えてみればそうだ、自分だけしかそれについて知らなかった、あるいは信じなかったのだから、おれが聞き返しもせず真面目に頷いたことには衝撃だっただろう。

 しかしこの世界には魔法はおろか、魔獣すらいない。ハイファンタジーの面白味は複雑な魔法による戦闘が定石というか定番だろうに、この世界には一切存在しない。それだというのにおれとトワイライトは能力じみた何かを持っている。


 しばらく重い体を動かしていると見覚えのある少女がヴァラウヘクセ邸へ訪れた。

「なんだ、アンナか」

「なんだとはなんだ、あたしはきみに用はない。ユリアに用があるの」

 ああそうかい、それならメールでも……と頭の中で呟くと、ふと思い出した。そうだ、ここにはパソコンもスマホもない。引きこもりだったおれは今の今までパソコンもスマホも触れずにこの世界を生きていたのだ。久しぶりにアニメを見たくなったが、実はこの世界での生活は特別嫌いなわけではないのでまあいいかと自己解決した。


 剣を構えればまるで竿を握っているように剣が軽く感じた。しかしこれはただの錯覚で、いざ振ってみれば体が重く上手く腕が使えない。その割には反射神経が異常に良いのだが。

 まるで壊死するのではないかと思うほど冷え切った両手でバッドを握り、まるでフルマラソンを走った後十分な整理体操をしていないときのような重い足で立ち、まるで説明書なしにエスエフの戦闘機のコックピットに乗り込み画面に表示される数多のウィンドウの所為で忙しくしている目でボール見て、しかし必ず打ち返してしまうバッティング練習をしているようなそんな感覚だ。


 アンナがユリアと少しの間言葉を交わした後のんきな表情でアンナが戻ってきた。

「アンナ、ちょっと聞いていいか」

 とおれがたずねると彼女ののんきな表情は一瞬で真面目な、むしろ怪訝へと変わった。

「アーリーは影人を作らまいと四肢を切断し心臓に杭を打つという方法を考えたという。あんたもアルルカへそれを使っていた。奴は影人なのか?」

「なにを言っているの、アルルカを殺したのはあたしではなくてレーゼでしょう?」

 しまった。そうだ、成功したループではアンナから逃げた奴はレーゼに殺されたのだった。

「すまない、そうだった」


 頬を膨らませて帰って行く彼女を再び呼び止めた。

「なに」

「おれは明日にサーシャルトスへ会いに行くつもりだ。できればあんたにも着いて来て欲しい」

「その話をユリアとしていたの! もう、あたしも行くわよ、王の証を集めているのでしょう? それだったらあたしは協力せざるをえないから」

「そ、そうか、それはありがたい」ではなぜその会話におれを誘わなかったと思いつつ礼を言った。


 アンナがヴァラウヘクセ邸から去った少し後、リーナがおれの元へ来た。

「素振りお疲れ様。ごめんね、実は連れて行きたい場所があって。大丈夫かな」

「もちろん」


 しかし二人きりとはならずユリアも同行した。理由を聞けば例の悪戯っ子の顔で「自分を管理して欲しいと言ったのはあなたでしょう」と答えた。その通りだった。

 おれたちは昨日の最初のルートを歩いていた。やはりルート通りおれはナイフを買い――ここでもやはりリーナは金を出すと言ったがおれは断った――爆発がないのでその道を進んで行った。


 大通りに出た。

 おれがこの国へ来たときに通った、リーナと初めて会った、やたら貴族が集まる、王城への、今となっては懐かしき道だ。

 まさかブルーノに身を突き出されるのではないかと一瞬懸念したが、彼女は王城など興味ないようであった。


「これはこれはヴァラウヘクセのリーナ様ではないですか」

 と横から声がした。驚いて振り返ると、どこだか見た気もする顔の男が笑顔で立っていた。特別若いわけではないが特別老いているわけでもない、言ってしまえば学校の教師のような年齢に見える。服装は背広、恐らく貴族だろう。いや、どう考えても貴族だった、腰に剣を携えている。

「こんにちは、アーマード・ケルビンズさん」

 とリーナは丁寧にお辞儀をしていた。


「奴は誰だ?」とユリアにたずねる。

「王の立候補者」と彼女は答えた。

 なるほど、それでどこか見たことがあったのか。おれは一度立候補者全員の顔をポスターで見たことがある、どうやら似顔絵を描いた人が相当上手かったのだろう。

 いや待てよと自分を制す。

 おれはそこまで記憶力が優れている人間ではない。

 少し記憶を探っていると思い出した。そうだ、ヴォルステックの湖で演説をしていた奴か、こいつは。どおりで見覚えがあるわけだ。


「見かけない顔の方がいますね……服装は騎士に見えますが」

「おれか? おれはハズネ・ガクトだ、よろしく。まあ騎士と言えば騎士になるが、特別な訓練とか受けていないから狩人とかと思ってくれ」

「そうですか、よろしくお願いいたします」


 アーマードなる男と別れおれたちは道を進んだ。王城に近い場所でふとリーナが立ち止まると、左側に見える建物を指差して到着と言った。

 そこはどうやら都立図書館であった。


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