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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
東都編
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第八章 「回り始める歯車」 2


 何故死んだのかもわからぬまま、怒鳴りはしなかったが、同じようなことをリーナとユリアに言って屋敷を出て行った。


 今手元にない手紙が気になってしかたがない。あの時のおれは思考がよく行き届く状態ではなかったのかもしれない。

〝好きな人間は誰だ〟

 何故恋愛に変わる。今まで残虐なハイ・ファンタジーものだったろ。それに、性格が底辺のおれに恋人ができるなど予想もつかない出来事なので、基本好きな人間などいないのだが。

 それと、好きな人間が誰だか知って何になるというのだ。この状況を打破することなどできるはずもあるまい。恋愛が世界を救う? まぬけもはなはだしい、そんなの夢と希望で満ち溢れているようでいざ現実的に考えると最も人が触れられたくはないものだろうに。


 考えながらおれはユリアの正体を暴く時と全く同じことをしている。一人でヨーステン夫婦のいる道を通過し、ナイフを買って、とにかくずっと走り続けた。色々な意味で時間がない。

 もし影がこの世界を覆って、おれが消滅したらどうなるのだろう。リスポーン地もなければ、おれという存在もなくなる。死んでは生き返って死ぬ、永遠の地獄が始まるのだろうか。


 爆発事件が起こる場所にやってきた。

 ユリアの姿を探す。シュンイェルを連れてここに現れるはずだ。それが運命なのだから。人が予想以上に多い。よくぞこれで二人以外の死人が出なかったものだ。


 シュンイェルの手を引いて笑顔で歩くユリアを発見するなり人混みをわり入る。

「ユリア!」

 とにかく必死だ。なんだかんだおれに逃亡できる権利など存在しないのだ。彼女の手をおれが握り、安全地帯への非難を強制する。


 直後、世界が揺れる。


 おれたちは爆風に薙ぎ払われ、危うく衝突で向かいの建物を破壊するところだった。さすがに彼女から手は離れており、体のいたるところが痛んだ。

「ガクト様?」心配そうに倒れるおれの体を持ち上げる彼女。

「シュンはどうした」

「後ろ」彼女の後ろからシュンがおれを見ていた。

 ここで初めて気づいたのだろう。急に心配は焦りに変わり、彼女の顔に汗が見えた。おれも初めて痛みに気づく。

 左腕がなくなっていた。綺麗さっぱり吹き飛んでいる。

「なにが起きた?」ユリアはたずねる。

「それよりも犯人を捕まえるべきだ」と立ち上がるも、全身から音が出るほど激痛が走った。ここで犯人を逃してはならない。とりあえずさっき買ったナイフを彼女に渡し、おれはトワイライトの剣を構えた。


 裏路地に入る際は注意し、攻撃がないことを確認した上で、今度は走って進む。どうせもう一度ここに来ることくらいわかりきっている。左腕をなくした痛みは、もはやどうでもよかった。

 その場を立ち去らんとばかりの勢いで裏路地を駆ける、おれと同じくらいの身長の人間を発見した。


 走る速度を上げて、犯人と思しき人間との距離を詰める。手榴弾を投げられたが、ユリアはナイフでそれを上へ弾き飛ばす。

 あっという間に追いついて、二人がかりで拘束した。


「なぜおれを助けた」と犯人の話に入るより早く彼女へ問うた。「おれを影の世界と疑っていたのではないのか」

「本当にそうなら、わたしにレプリカを渡すのは自殺行為。奴の性格からしてわざわざこんな演出はしない。あなたは安全な人物。そうなったら、あとは人を守るのは当たり前」

 人を守るのは当たり前か。おれは、知らずのうちに人を助けている、そう自惚れている。しかし当たり前なことをして自惚れてもなんの意味もない。

 つまり彼女は、おれがブルーノを裏切ったという証拠があればおれのことを敵として見なさないのか。


 ハッピーエンドが見えてきた。


 同時に新たな発見があった。この爆弾魔のコートの襟で見覚えのあるバッチが輝いていたのだ。

「フェルセマフィ!」とつい声を上げて驚くと爆弾魔はにやけ、次の瞬間犯人の自爆により視界を閃光で消される。


 ユリアの、まずい、という声が聞こえたが、その後意識を取り戻すとヴァラウヘクセ家の屋敷の中にいた。


 油断したということか。

『いろは』が発動した、つまり死んだ。


 しかし今回は違う。今回で終わらせるのだから。

 裏切りによって解決し、犯人はフェルセマフィにある。


 少し経てばリーナがこちらへ買い物に誘ってくるはずのところ、おれは踵を返して客間に飛んで行った。

 もちろん、ユリアを残して部屋を出たため、まだ彼女はそこへいた。再びこの部屋に訪れることを考えていなかっただろう彼女は驚いていた。

 顔を見た瞬間、おれは言う。


「ユリア、一目惚れした」


 さらに彼女の驚きの表情が強まる。

「な、なん……」

 あまりに唐突だったもので彼女も混乱しているようだ。

「聞いてくれ。おれは影の世界の人間ではない」と宣言するとようやく彼女から怪訝の表情が伺えた。

「どうして」

 その言葉を待っていたと、おれは彼女に王の証のレプリカを差し出した。


「こいつと、おれを管理してくれないか」


「な、なにを言っているの」

「おれは今さっきまで、ブルーノからレプリカをもらった人間が影の世界とは知らなかった。そのせいで君を殺人者にはさせたくない。おれは君にもリーナにも危害を与えるつもりもないし、おれは君と仲良くなりたい」

 なにか、あの理解不能な手紙の内容と合致した気がした。

「けれど君の警戒心を解くことなんてできなかった。今もそうなんだろう? 後ろに隠しているバッグの中には、投げナイフや包丁や手榴弾が入っているんだろう?」

 眉が動いた。

「ただ、君の警戒心を解く唯一の状況を知った。おれがブルーノを裏切るということだ。だから、これとおれを管理してくれ。今日限りでもいい、明日にはブルーノに直々に裏切りを宣言してやってもいい。おれを信じてくれ」


 ようやくレプリカがおれの手の内から消えた。

「わかった。信じる」

 そう言ってバッグの中のものを床にうっちゃる。

 ありがとう、と反射的におれは礼をしていた。



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