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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
東都編
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第七章 「見たことのある状況」 2



「あれ、どうしたんだろう」と急にリーナが立ち止まり言った。

 見たことのない道、時間に余裕を持っていた。武器屋の周りはおれが今着ている防具を買った店とはかなり違うが、だからこそそこへ近づいているかどうかくらいは判断できた。

 確かに近づいてはいるが、どちらかというと見晴らしの丘よりの場所だ。けれどここが彼女にとって馴染んでいる道のようで、文句を言わずについてきていたのだが、彼女はちょっと待ってと言って走り出してしまった。

 待ってと言われておきながら少し遅れておれもつづく。


「リーナ!」と若干青がかった黒髪の女性と同じく若干青がかった黒髪の男性のうち、女性にリーナが呼ばれた。どうやら彼女の友人のようだ。

「マリ、どうしたの? 慌ててるようだけど」

「シュンを見なかった? シュンイェル」

「え、わたしは見なかったけれど、まさかはぐれたの?」

「うん、シェパーシェあたりではぐれて、こっちに走って行ったのは見たんだけど……」


「もしまだシェパーシェ近くにいるなら危ない、すぐに見つけ出した方がいい」

 と彼女らの会話に割って入っておれが告げた。

「すまない、おれはハズネ・ガクト、リーナの連れだ」

「……は、はい。わたしはマリべル・ヨーステン。こちらが夫のファリザ」

「子とはぐれたのか?」

「ええ、活発な男の子でして……」

「いくつだ」

「八つです」


 見かけたか、記憶を探る。今までに活発な八つほどの少年を見たか。リーナを初めて見た時のあの餓鬼くらいしか見てないし、例えそいつがシュンイェルだとしても今どこにいるかなんてわかりゃしない。

「すまない、記憶にない。見かけたら事情を話して安全なところに移動させます。ええと……」どうこの夫婦に子を連れて行けばいいのやら。

「じゃあ、その時はわたしが直接家に届けるわ」とリーナ。


 頷いて「とにかく早めに見つけて下さい。シェパーシェ付近に行く時は十分に注意して」と言ってその場を離れた。


 武器屋に到着してもシュンイェルなる少年は見かけなかった。ああ、なんだろうこの異常なほど強い嫌な感覚は。


 とりあえず前回と全く同じナイフを購入し、不謹慎だが爆発が起きるまでリーナと会話して待った。


 前回は気づかなかったがちょっとした揺れが起こり、煙が立ち上がった。


 さらに少し待ち、ペシャワールだのグランダルスギッドだの聞こえてくるまで裏路地に集中してじっと待っていた。

 誰が通る。何が起こる。それを確認するんだ。


 向こうの光が一瞬遮られた。

 あれは、ユリアではない? では誰だ、やはり犯人か。


 一歩一歩慎重にその場を離れ裏路地に入っていく。手榴弾らしき爆発物に注意しろ、前回おれはそいつに殺された。二度目は恥ずかしいぞ。

 裏路地に人気はない。人の気配はあるが。

 今しがた購入したナイフを構えて踏み入る。


 手榴弾が落ちるような音がした。足元に何かが転がってくる。我ながら優れた反射神経を活かして蹴ろうと試みる。

 間一髪か、手榴弾らしき爆発物を蹴り飛ばすことができた。


 だが、自分の目の前、目と同じ高さにもう一つ手榴弾が投げられていることに気づかなかった。

 なんてやつだ、相手が自分の手を読んでいることを知っていたかのように、予防線を張っておいたのか。


 またもう一度――――


 爆風がおれの体を吹き飛ばした。


「――――?」疑問符が頭に浮かぶ。

 痛い、が痛くない。背中が痛い、が腹に重みを感じる。死んでない、が生きている心地がしない。

 空? やはり死んでいない?


 視界に見たことのある顔が映った。いやおれを覗いた。


「――リーナ!」思わず叫ぶ。

 彼女の顔は血だらけだった。なんだ、何が起こってやがる。徐々に感覚が戻っていき一つの結論に至る。

 仰向けのおれにまたがる血だらけのリーナ。おれの腹を赤に染めていく。爆発した側に彼女がいる。


「リーナ? どうして……」


 彼女がおれをかばったのだ。


 後ろに引っ張って、盾になろうとした。おれと彼女は吹き飛び、彼女が特に怪我を負った。

 怪我どころではない、真正面から受けたら即死の爆弾を背中で受けただけだ。

「どうして!」

「…………」彼女はおれの叫びに応じた。


「君は……命の恩人……だから」


 だからって、こんなのはないだろ!

 命の恩人に命で恩返しするのか? そんなのおかしいだろ! 勘違いもはなはだしい。なんなんだよ、十秒前ぐらいまでは綺麗でいられたおまえが、なんで死ぬんだよ。

 

 こんな運命なんて狂ってる!


 痛みなどどうでもよくなって立ち上がった時には既に彼女は動かなくなっていた。

「誰か……誰か! 助けてくれ、彼女を! リーナが爆弾魔に――」

 叫んでいる内にだいぶ前に一度浮かんだ選択肢が脳裏をよぎった。

 その前に犯人を確認しておかなければならない。なんのために爆弾なんて投げたのか確認しなければならない。


 十字路の右を見ると、茶色のローブをまとった、小柄な人間が走り去っていた。間に合うか、近くに転がっていた、リーナに買ってもらったナイフを拾って追う。


 裏路地を抜けた。しかし見失ってしまった。

「畜生! なんなんだよ!」

 おれはリーナの元に舞い戻り、一つしかない選択肢を実行した。



 ナイフで自分の首の動脈を断ち切る。



 血が溢れ出し、壁と地面を赤くしていく。意識が遠のいていくのを感じながら、自分の「紋章」をつけば手っ取り早かったかと思った。


 死ぬ寸前、人間は異常に賢くなると聞いたことがある。

 ガセではなかったのか、おれは次のループで何をするべきか、犯人は誰なのか考えずしてアイディアが浮かんだ。


 ここまで来れば死ぬことにも慣れてきた。『いろは』が何回限りの能力か、考えるたびぞっとするが、この世界にておれにはマイナスなことしか起きない。ゆえに、この悪夢のような能力はおれを苦しめるため無限に続く。

 絶対に助けてやる。

 おれはやはりヴァラウヘクセ家の屋敷の廊下で意識を取り戻した。


「あ、ガクトくん」

「リーナさん」生き返っている。とりあえず彼女は屋敷の外に出さなければ死なない。あの場で急がなかったおれが悪いだけなのだから。走って裏路地に入っていればおれだけが死んでいた。

「時間ある?」

「申し訳ないけれど、ちょっとヴォルステック付近に用事があって」

「そう、わかった。今日もここに泊まって、明日行きましょう」

 リーナが笑顔でそう言う。


「外出?」と後ろからユリア。

「ああ、ちょっとヴォルステックに用事があって」

 彼女は無言で頷いた。

 二人にいってきますを言って屋敷を去った。今回はおれ一人だけでエントランスを抜け、庭園を抜け門をくぐり、前回のルートでまずは武器屋を目指した。というのも、武器屋がちょうどヴォルステックの湖への方角と同じだからだ。


 武器屋に行く途中シュンイェルを探すヨーステン夫婦を見かけ、リーナがいない状態でほぼ同じやり取りをした。

 武器屋に到着し、ナイフの値段を確認し、おれの今持っている全財産で何故か買えることが発覚し、購入。一文無しとリーナに言ったが、おれが少し金を持っていることくらい彼女も知っている。ただの言葉の綾だ。


 なるべく前回と同じことをすることを意識する。が、前々回前回共にユリアは事件前に解散していたし、リーナは外に出ると運命の強制力で死んでしまうかもしれないので誘いには乗らない。


 武器屋から引き返し、ヴォルステックの湖とは真逆かつヴァラウヘクセ家とは離れた方向へ進む。


 ヴォルステックなんて場所に堂々とは行かない。誰も予想だにしない場所に行く。元々その予定だった。


 今回確認すべきことは、爆弾魔による仕業だったのか、少し自意識過剰な話だが、おれを狙っての爆発だったのか、である。

 爆弾魔がおれの姿を見て手榴弾を投げたのなら、爆発は一回だけだし、例えおれを見た云々関係なく武器屋の前で爆発させることが予定だったとしてもおれは死なない。

 もしおれを狙っていたのなら、おれをつけて今向かっているヴォルステックとは真逆の位置にある場所に現れるはずだ。


 運がいいことに、おれがついた街、東都の中でも最南西にある街はほぼ無人の状態だった。


 ここからではシェパーシェ付近の爆発が起きたか確認できないが、まあいいだろう。


 さあ、来るなら来い!


 心の中で叫んだ直後、何かがおれの腕をかすめた。というのもお得意の反射で避けきれなかっただけだが。

 かかった、おれを狙っている奴がいる。

 誰だ!


 舌打ちをして登場した茶色のローブをまとった人間。その手には手榴弾、包丁。

「おまえは誰だ、何が目的だ!」


 ローブのフードに手をかける敵。顔があらわになる。


 綺麗な顔、綺麗なアッシュブロンド。小柄で見たことのある少女。


「おまえ、なのか――」


 予想はしていた。けれどいざ的中してしまうとやはり悲しい。嫌な予感は当たっちゃいけないんだよ。


「――ユリア」


 リーナの友人でありヴァラウヘクセ家に勤める博識な少女。おれに色々と知識を与えてくれた少女。

 そのユリアがおれに向かってナイフを投げ、手榴弾を見せ、包丁で威嚇している。


「どうして! なんでだよ、ユリア!」

 何故彼女はおれを殺そうとしているのだ。そこまで仲悪かったか? 一度顔を合わせたことがあったはずなのに。


「とぼけるな!」

 初めて彼女の叫び声を聞こえた。口数が少ないわけではないが、彼女の声はいつも細く弱い。


()()()が〝影の世界〟の一人だからだ」


「影の世界……?」

 アルルカが所属していた機密機関。王に従わず王国を支える暗部。

「おれがアルルカの仲間だって言うのか」


「そうだ。おまえはアルルカの仲間だ」

 どうしてと言う前に考える。心拍数が異常に高い。

「確かにおれもあいつも王の証を集めているが、影の世界は王に従わない組織で、おれはブルーノから証のレプリカをもらった」

「アンナが知らなかっただけだ。影の世界は王に従わないけど、今この瞬間に王なんていない。アルルカ・ヘルビエナもバルサネ・ブルーノから命令を受け王の証のレプリカを手にした」


 ということは、まさか、ブルーノは影の世界のリーダーで、その上最高権力者だというのか。

「おまえはブルーノの手下。ゆえにおまえは影の世界」

 彼女の言葉がおれの心をえぐる。


「おれは……あの瞬間から既に……だから嫌な予感がしたのか……」

「リーナの巾着の中は忠誠の証。おまえのような彼女に危害を及ぼす可能性がある人間を生かしてはおけない」

 おれが彼女を人殺しにしたのか。おれが彼女をこれほどまで苦悩させたのか。


 ポケットにあるおれの王の証のレプリカを見やる。

「これが悪いのか、こいつがあるせいでリーナともユリアとも仲良くできないのか……なんでだよ、どうしてこんなマイナスなことしか起きないんだ」

 彼女はおれに歩み寄る。


「おれはおまえと――――」


 悲痛の叫びもむなしく、彼女の包丁はおれの心臓を貫いた。


 もう一度言ってやろう。

 こんな運命なんて狂ってる。


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