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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
東都編
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第七章 「見たことのある状況」 1

 何かにつけて人間とは既視感を覚える生き物であると言えよう。目の前にあるこの武器屋についても、決しておれが今着ている服を買った店ではないのだが、どこかデジャヴを覚えてしまう。

 結論を言わせてもらうと当然、今後この武器屋に関わることがあったとしても絶対にこれ以前に関わったことはない。


 ナイフの中でも握りやすく値段の低いものを選んだ。どうせ戦闘は控えるのだから無駄に高級なものを購入しても迷惑だ。

 キャビローナイフという名のナイフがある。アルルカが使っていたものと同じ種類だ。恐らく元の世界にはないからくりの武器だろう。勢いよく刀身を振ると収納されていた刃が伸び、ファイティングナイフほどの長い武器へと変形する。

 そういえばアルルカのナイフは急に刃が長くなっていたなあ、と納得した。一つ謎が解けたような達成感さえした。


 まいどあり、と全世界共通の対応を受けて店を後にし、リーナの方へ向いた。おれは今しがた購入したナイフをシーフに納め、先手必勝と礼を言った。

 もうこの頃には既にユリアとはわかれ、リーナとおれ二人きりである。


「ガクトくん、すっかりユリアと仲良くなったね」

 笑顔でそう言われるのも何か違うと思ったがまあ悪いことではなさそうであるし、おれがどう頑張ろうとリーナがおれのことを意識することなんてありえないとわかりきっているのだ。

 彼女は友人が多い。お姫様でも巨人の女王でも魔女でもない彼女はただの女性だ。アンナやユリア、おれとなんの問題もなくすらすら会話できるのはコミュニケーション力が高いからと言って正解だろう。

 おれにはない能力を彼女は持っている。

 さて、もし、彼女がおれのことを意識してくれるのならどれだけ嬉しいことか。

 馬鹿にしないでほしい、おれだって中学生の頃恋人はいたさ。まあ彼女が欲しかったわけではないのだが、憧れの人物を眺め、その隣に立てるできることがどれほど幸せか知っている。

 リーナはおれが、彼女の死を書き換えたことを憶えていない。おれの努力を憶えていない。

 この世界にておれにはマイナスなことしか起きない。それゆえに、この『いろは』という能力もマイナスであると言ってあながち間違いではないだろう。


「そうだ、さっきの見晴らしの丘で君たちが何を話してたか全くわからなかったのだけれど、まあそれはいいとして、もし時間があったら付き合ってくれるかな」

「ん?」と急な誘いについて考える、というか先手必勝と言いながらわかれが言えなかったおれはどうかと思うが、まあ時間がないといえばないが、影の侵食はだいぶ遅かったし、なに一日くらい大丈夫だ、いざとなったら『いろは』で時を巻き戻せばいいし、「ああ、もちろん」

「そう、ありがとう」


「ところで、街が騒がしいのだが何かあったか?」と街で人が騒いでいることに気づき彼女にたずねた。

「そう言われれば変ね」

 耳を澄ませて情報を取り入れる。


〝爆発事件らしいぞ〟

〝本当か、こりゃ王候補もびびって引き下がるかもしれないなあ〟

〝急に建物が吹き飛んだんだって〟

〝え、なんだって? ペシャワールだって?〟

〝違うよ、グランダルスギッドだ〟

〝ウーズウだって噂もあるぜ、これは実際に行ってみるしかないな〟


 決して特別おれの聴覚がよかったわけではない。頑張れば人間は、二人同時に言葉を聞き取ることができる。流れ込んでくる情報がそれほどキャッチしやすかったということだ。ちなみに先に記しておくがペシャワールだとかグランダルスギッドだとかは国をわけた街をわけた地区をさらにわけた地名だ。

 リーナを見れば不安な表情を浮かべていた。まっさきに近くに立っている男性に近寄り、「爆発があったと聞きますが、どこで起こりましたか?」とたずねた。

 シェパーシェだとかグランダルスギッドだとかは色々飛び交ってるが、とりあえず死人はいないらしい、との男性の言葉を聞いて彼女はほっとしているようだった。

 ありがとうと言ってこちらへ戻ってきた。

「死人はいないみたいだから一安心ね」


「ペシャワールだとかなんだっけジュパースだっけ、とかよくわからないのだが街の地名か?」

「そう、ユリアが今日行くって言ってた果物屋がシェイリグスっていう場所にあって、ペシャワールの近くだから心配したけど、彼女なら爆弾があっても解除できそうだし大丈夫かな。あとジュパースじゃなくてシェパーシェね」

「そうか、確かに煙はあいつの行った方向で上がっているな」

 立ち上る煙を指さして言う。


 視線を落とすや否やおれは裏路地に向かって走り出す。人を無理矢理のけて、リーナの声も無視して、薄気味悪い狭い道へ踏み入る。


 あれは――いや、どっちだ?

 裏路地は十字にわかれている。確か右に行っていたはずだ。


 十字路に到着する。


 擬音語に表すと、カラン、という音が聞こえた。


 視界が一瞬真っ白になり、瞬きをするとやけに静かな、裏路地とかは広いが街の道よりは狭い空間の中にいた。


 ――!


 リーナの屋敷の廊下だ。いつだ、今は何をした後だ。

『いろは』が発動したことは言うまでもない。


 しかし何だったんだ? 何があったのかは憶えているが、何故そうなったのかは理解できない。

 あの瞬間、おれは暗い裏路地を駆けるユリアの姿を見た気がした。しかし、しっかり視認したわけではないのでひょっとすると爆発騒動の犯人かもしれない。あるいは犯人とそれを追うユリアの両方かもしれないし、全くの別人かもしれない。

 あの音、後の閃光からして恐らく手榴弾がおれを殺した。そうなると爆発騒動の犯人か。

 なんだろうか、この寒気は。

 つじつまが合わないでいらいらする気分に似ている。


「あ、ガクトくん」聞いたことのある言葉だ。「時間ある?」

「あ、ああ、もちろん」

 どうやら武器屋へ誘われる直前からのリスポーンらしい。

「ガクトくんは国の遣いなんだっけ。それで冒険とかするのかな?」

「多分そうなるかな、まあ早くてなんぼだ」

「そう。ならひょっとするとだけど、武器とかって必要ない? この前、君の剣が重そうに見えたから。短いものにしたら効率がいいんじゃないかって思って」

「ああ、そうだな、ファイティングナイフとかよさそうかもな、けど今おれは一文無しで――」

「お金に関しては気にしなくていいよ。わたしが出すから」

「いや、さすがにそれは」


 何を言われるか知っているのでリアクションに困る。

 そこへやはり彼女が来た。

「買い物?」背後から問われる。もちろんユリアである。「食料調達と、ガクト様に見晴らしの丘で確認してほしいことがあるので、そこまでついていってもいい?」


「いや、大丈夫だ。影が今どこまで侵食しているかは知っている」

「…………」やはり彼女は怪訝な表情を浮かべた。

「スークロックを侵食中だ」

「スークロック……反王政の村だっけ。それくらいしか知らないけど」

「そうだ」おれは必死だった。

「あと、食料調達は後で一緒に行こう、だから申し訳ないけどもう一日ここにいさせてくれ。明日になったら見晴らしの丘に行きたくなるだろうし。とにかくシェイリグス近くには行かない方がいい」

「……本当に謎ですね、あなた」


 なんとかユリアを隔離することができた。なんか可哀想に思えたが、これで彼女が爆発の犠牲になる可能性は消せたし、リーナが心配する原因もなくなった。

 しかし、おれは何故死んだか――いやそうじゃないな、裏路地を走っていたのは誰だったか確認しなければならないため、リーナの誘いは素直に乗る。


 今回はリーナとおれの二人でエントランスを抜け、庭園を抜け門をくぐり街を歩いた。

 武器屋までのルートは前回とは全く別で、全てが未知である。


 しかし、おれは全く楽しめずにいた。


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