第五章 「罪人」 3
レーゼの持っていた剣にはクリスタルがはめ込まれていた。これが忠誠の証、つまり王の証の一部らしい。
ブルーノからこれをどうしろと言われてはないが、何となく使い方を理解していた。そこでおれが取った行動と言えば単純で、忠誠の証を足元に投げつけ割っただけだ。
理屈は知らないが、ブルーノから貰ったクリスタルの中に弱い光が現れた。この世界実は魔法が存在するだろ。謎過ぎる。ちなみにこのクリスタルこそが王の証なので、ブルーノの命令を直訳すると少しおかしくなる。なのでニュアンスを理解すると「王の証を完成させよ」ということだ。
それを見終えたおれは膝から崩れ落ちていたと言う。
目が覚めればちょっとした絵が描かれてある西洋の部屋のような客間のベッドに横たわっていた。
なんだかウェブ小説で読んだことのありそうな展開だが、まあこうなるだろうさ。異世界でも現実世界でも変わらない。まあ基本的に病院なんだろうが、その設備が家に整っているのなればわざわざ病院に送る必要もない。
おれはリーナの家、まあ城というか屋敷というか、ともかくヴァラウヘクセ家に助けられたようだ。
『いろは』も発動していない。今日が何年の何月何日かなど知る由もないし、この世界の文字が一体どのようなものかも知らないし、勉強しようとも思ってないんだが、ただ今日がレーゼを倒した日の翌日だということはわかる。
ちなみにアルルカは、アンナによって瀕死状態になり時間をかけて神殿へ移動し、レーゼを解き放つため地下牢のドアを開けたところレーゼに殺された。
レーゼが外に出てきた理由はアルルカが解放したからであり、アルルカがレーゼを解放した理由は影人によって世界を混乱させようとしたらしい。
しかし疑問が一つ解消されていない。何故アルルカはリーナの巾着を盗んだのだろう。これについては目を覚ましてから数十分後にアンナから聞くことになる情報だが、〝影の世界〟も王の証を狙っており、ウォルシンガムの忠誠の剣から更新されたヴァラウヘクセの忠誠の剣にあるクリスタルつまり忠誠の証をリーナの巾着の中のクリスタルと推測したが為だという。ひょっとするとリーナの巾着の中身は忠誠の証かもしれないし、ただの御守り代りのクリスタルかもしれない。
話がそれるが、王の証や忠誠の証と言うが、これは使い分けが非常に面倒な為、特別使い分けたいとき以外は忠誠の剣のクリスタル(忠誠の証)もそれを吸収するブルーノから貰ったクリスタル(王の証)も基本的に王の証として問題ない。まあおれとしては我慢して使い分けたいところだが。
これで今回の事件が一つに繋がったはずだ。
整理しよう。
ウォルシンガムの墓参りに行ったリーナは、彼女の持つクリスタルを忠誠の証と推測されたがためにアルルカによって殺された上で奪われる。おれは墓参りを早めることでそれを回避した。
アンナが何者かは知らないが、〝影の世界〟と敵対関係にあり、アルルカを殺す。が、今回のループでは殺せずアルルカは逃げた。
逃げた先はレーゼト神殿で、影人となったレーゼによって世界を混乱させるため地下牢のドアを開けたものの、アルルカはレーゼに殺される。ひょっとしたら彼女は罪人の持つ忠誠の剣を奪いたかったのかもしれないが。
レーゼが外に出るとおれ達がそこに立っていたため、人間に憎悪を抱く彼はおれ達を攻撃する。
そこでおれがレーゼを倒し、彼の持っていた忠誠の証を王の証に吸収させ、力尽きて倒れ、今に戻る。
これ以上もないしこれ以下もない。謎はまだ多いが、この事件で言えることはこれだけだ。
さて、おれがベッドから起きようとしたその時タイミング良く客間のドアにノック。声はリーナのものだったが、入ってきた人物は二人、リーナとユリアだった。
なんか妙におれは女子と会っているような気がするのだが、まあいいか、今後戦闘がないのならまた嬉しいことだ。
心から言おう。
戦闘なんてもう御免だ。




