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ブックメーカー;設定失格の異世界冒険記  作者: 間宮三咲
ヴォルステックの湖編
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第四章 「家臣の湖」 3



 さて、本題を脱していた。おれはブルーノから「王の証を集めろ」と言われたのだ。今さら思い出したがそういえばあいつは半年までにとも言っていた。

 なるべく早くそれを集めないと殺されそうだ。まあこの世界唯一の特殊能力を持っているおれなら簡単に集められるはずだ。

 遺跡やら洞窟やらにある宝玉かクリスタルかを集めりゃいいんだろ?


 ということで一度演説会場で寝て、というのも演説は王候補全員を聞くわけで、二日にわかれているため客はレストランらしきこの建物に泊まっていくらしい。


 翌朝レストランから出ようとその時リーナとアンナを見かけたが、まあアンナがいれば大丈夫そうだなと何故か思い、結局話しかけずレストランから出た。

 おれがここへ来た目的はレーゼト神殿とやらに行くためだ。というか神殿なんて言っているのだから神を信仰する文化はここにもあるのだと証明できる。


 レーゼト神殿は湖を通り過ぎて間もなく建物の一部が森の木々の葉の隙間から見えた。思ったよりかなり近い。

 ここに王の証とやらがあるという確証はないが、流石に神殿だ、あっておかしくない。王の証という響きからどうせ宝だろう。


 少し目を離せば違和感を再び覚える。なんだろう、ここ最近このデジャヴのような違和感、いやデジャヴは既視感だが、何か腹の奥がひっくり返るような感覚に陥る。

 しかもその時に感じたことがそのまま的中されているのだ、いつも。

 嫌な予感が当たるというか、こうなっていては嫌だということが必ず起きている気がする。


 嫌だ、何かそうなると嫌なことがある。

 おれは無駄に緊張しながら道をそれて木々の中に入った。


 なんだ、死体がある気がしてならない。しかもそれを全く望んでいない。

 嫌な予感というものだ、こいつは。そうなっていてはならない、自分にとって不利なことが起こりかねない。


 予感は的中した。やはり、的中した。


 森の奥、崖にも見えるその下に四肢を失い心臓に杭が打たれて倒れているアルルカ・ヘルビエナの死体があったのだ。


 おれはこの世界に来てから何度死体を見た。治安が悪いとかそのレベルじゃない、何かおれだけが死体を人以上に見るルートを進んでいるように思える。

 死体なんて見て楽しくなるはずがない。例えリーナとおれを殺した奴のものだとしてもだ。


 おれが無意識の内に残虐な道を歩んでいるように思える。そんなことがあっていいものか。死体を見るのは「嫌な」ことだ。


 やはり自分にとって嫌なことばかりが起きているようにしか思えない。なんだこの感覚は、自分だけがこの世界で特別異常な存在に思えてくる。

 そりゃ勿論、異世界からやって来たおれはこの世界で特別な存在かもしれないが、そうではない。


 おれだけが誰かに操られているように、まるで物語の主人公のように動かされている。


 そう感じる。おれだけが、何か違う。

『いろは』もそうだし、紋章もそうだし、この嫌なことばかり起こることもそうだし、人間に感じる何かもそうだ。


 リーナは、守らなくてはならないと感じる。

 アンナは、おれ自身と同じような存在に感じる。

 トワイライトは、いつかまた会える気がする。

 アルルカは、おれと物凄く近い位置にいる気がする。

 ブルーノは、王なんてものどうでもよさそうに感じる。

 ウォルシンガムは、実際にいた気がする。

 レーゼは、まだ地下牢にいるような気がする。

 そして、ユリアは、何故か自分にとって大切な人間に感じる。一度も話したこともないのに。


 しかしこれらが全て「嫌な予感」というものだ。それら全てがおれの行動を制限し、もといと言うべきか、行動を決定しているように感じる。


 行動を決定される、それこそ操られている気分になる。

 人に対し感じるその全てが真実だというのなら、これ以上おれにとって「嫌な」ことはないだろう。


 さらに詳しく言えば、それらを守らなくてはならないと感じることだ。リーナを守らなければ、アンナと同じでいなければ、トワイライトにまた会わなければ、アルルカとおれのいる位置を知らなければ、ブルーノの野望を暴かなければ、ウォルシンガムが実際にいなければ、レーゼが地下牢にいなければ、ユリアが大切な人間でなければならない、そうでなくてはならない気がしてならない。


 そうでなければ、死よりずっと地獄に近い場所に堕ちていく。


 そう感じる。


 アルルカの死体を横目に元の道に戻った。予定通りレーゼト神殿に向かう。一応おれの知る限りおれやリーナ達を襲う人間はいないのだが、警戒は怠らない。


 レーゼト神殿には予想以上に早く到着した。

 元々は城だったとはいえ、かなり火事で燃えてしまったらしく、原型をとどめ残っているのは真ん中の塔だけだった。


 瓦礫はまあまあ撤去されているため、というか原爆ドームのような建物のため、城外に王の証とやらが落ちていないということはわかった。


 城の門は壊れ、実にウェルカム感を漂わせている。が、観光客の姿すら周りにはなかった。

 これほど綺麗な場所だというのに、何故人は訪れないのだろう。遠くもないし。


 城は無駄に敷地が広かったが、決して一、二キロあるとかそういう広さではなかった。城の玄関には鉄の扉があったが、簡単に開いた。


 城内を見渡すとやはり火災の形跡が残っていた。燃えて途中で途切れているカーテンやカーペット。大理石が焦げている。木でできていたと思われる机やら帽子立てなどは全て炭となっている。

 大火事はいつ起きたのだろう。百年前か、いやその程度なら伝説にはならないだろう。三百年か五百年は経っているはずだ。


 とにかくおれは城内を周り王の証らしきものを探した。

 エントランスからは幅の広い階段、別の部屋からは螺旋階段、燃えた寝室やレーゼが入ったという客間、炭となっているが王への忠誠の証である剣が立てかけられていたと思しき剣立て。城は広かった。

 ここで思ったが王の証というのは、王への忠誠の証なのだろうか。ならば、それを盗んだレーゼが王の証を所有していることになる。


 城内に王の証どころか、クリスタルの一つすらなかった。

 やはりこうなるか。


 また嫌な予感が的中した気がする。


 中央階段の脇にある鉄のドアを開けると地下への階段が見えた。あいにくおれは灯りを持っていないがこの際どうでもいい。階段を下りるとまたドアがあった。


 ゆっくりドアを開け、金具が軋む音を聴きながら開け切ると――


「――うわっ!」

 間抜けな声が出た。街の人々が一斉におれへ視線を集中させる。見ればわかるがここはアーヴァシーラだ。


 どうやら『いろは』が発動したらしい。そうでなければ地下牢への道から東都には行けないだろう。


 つまり、また死んだ。


 恐らくレーゼに殺されたのだろう、嫌な予感が的中しているのなら。

 レーゼはまだいる。しかし年が流れすぎた。地下牢の鉄格子も朽ち、簡単に壊せるようになったのだろう。だが、あのドアは内側にドアノブがないとかそのレベルで開かなくなっており、レーゼは地下から出れなかった。

 そこにおれがドアを開け、脱出するためにまずおれを殺した。道を塞ぐ形でおれが立っていたのと、人間が憎かったからなのだろう。

 それと、伝説もあってか、もはや神殿にすら誰も訪れなくなった。だから誰もいなかった。


 ちなみに現在は、前回『いろは』が発動された時と同じ場所でリスポーンした。ということはアルルカも生き返ったことになる。リーナとはまだ会話せず、アンナとは会っていないことになる。


 さてこれからどうするか。

 少し違うルートになるがもうカツアゲするか。


 あっという間に不良を見つけ、あっという間に金を手に入れたところでダッシュ、武具屋で全く同じ装備を揃えた。


 なんとかリーナと会う前に全てを済ませられた。


 これからどうするか。


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