転章
エコ 「そうか、ドリーが……」
シャロ「ごめんなさい……。私がドリー姉さんを信じれなかったから……」
エコ 「いや、いいんだ。ドリー自身がそう望んだんだろう」
ネル 「そうですよシャロ姉さん」
エコ 「しかしドリーが自分の身を犠牲にしてまでシャロを……。あいつも変わったな」
シャロ「エコ姉さんが知らないだけで昔からドリー姉さんはそうだったよ」
エコ 「そうか……。今後はそう言うところも知って行きたいな」
シャロ「今後、ねえ。ははっ、そうだよね」
エコ 「当たり前だ、私たちは生きるんだ。もちろんドリーも死なせるわけにはいかない」
ネル 「流石エコ姉さまです。それに見つからないプリン姉さまも気になりますしね」
シャロ「え、おてんば姫どっか行ったの?」
エコ 「ああ、さっきシャロが走って逃げたときに一緒に姿を消してしまったんだ」
シャロ「そうなのか……。私があんなことしたせいで……」
エコ 「もうそのことは気にするな。終わったことを言っても仕方ないよ」
シャロ「そう、だけどさ。やっぱり私があんな勘違いをしなければドリー姉さんはこんなことにならなかったんだよ。それは間違いない事実」
ネル 「シャロ姉さま。それはそうですけど、エコ姉さまの言うとおり気にし過ぎるのも良くありません」
シャロ「チビ姫にまで慰められるのかよ。凹むなあ」
エコ 「とりあえず誰かに連絡して医療班だけでも来てもらうか、ドリーを城の外へ連れて行ってもらうかしよう。そこの判断を急がないとドリーの命が危ない」
シャロ「そうだね。とりあえず電話をっと」
電話を掛けるシャロ。
しかし繋がらない様子。
シャロ「……なんかつながる様子ないんだけど。もしかして電気が死んじゃってたりするのかな……?」
エコ 「さっきまで繋がっていたのに急にか? 何が原因だ……」
ネル 「もしかしたら犯人が電源自体を壊したのかも知れないですね」
シャロ「おいおい笑えない冗談じゃないか」
エコ 「しかし繋がらないというなら調べないといけないだろう。主電源があるのはやっぱり」
シャロ「まあ、地下になるよねえ」
ネル 「行かなくては……いけないですね」
エコ 「じゃあ私とネルで行くか。シャロはここでドリーを見ておいてくれ」
シャロ「おいおい、いいのか? 犯人に遭遇したときのことを考えたら私とエコで行った方が安全じゃない?」
エコ 「だが、ネルがここで一人に残って犯人がこっちに来たら二人とも殺されてしまう可能性の方が高いだろう」
シャロ「それはそうだけど……。ドリー姉さんと私を二人きりにして信用できるの?」
エコ 「出来る」
シャロ「即答かよ……。はいはい、じゃあパパっと二人で行って来てよ。ついでにおてんば姫も探してきておくれ」
エコ 「ああ、わかった。じゃあここは任せたぞ、シャロ」
シャロ「へいへい、任されたよ」
暗転。
薄暗い地下。背景は上とあまり変わらない。
電気がチカチカしてる。
エコ 「地下だってのに置いてあるものはあまり変わらないんだな。と言うか……妙に生活感があるような」
ネル 「気のせいですよ。こんな地下で生活してる人がいる訳がないですよ」
エコ 「それもそうか……。ん、いや、待て。そう言えばドリーが気になることを言っていた」
ネル 「ドリー姉さんが……?」
エコ 「なんだったかな、確か『この城の中のくらがり』と言っていたような」
ネル 「へえ、そうですか……。ドリー姉さんはなにか知っていたのかもしれませんね」
エコ 「もしかしたらこの地下に何か秘密があるのかもしれないな……」
ネル 「そうかもしれませんね。もしかしたら、ですけど」
エコ 「しかし、予想はしていたが人影一つすら見当たらないな。プリンもここにはいないのかもしれない」
ネル 「あ、エコ姉さん。電気盤ありましたよ! やっぱり主電源が落ちちゃってますね」
エコ 「おお、ありがとうネル」
背伸びして電気盤を構うエコ。
ネル 「ねえ、エコ姉さま」
エコ 「なんだ改まって」
ネル 「もしも私たちがこんな城に何年も閉じ込められない、普通の女の子として、普通の姉妹として産まれていたとしても今と同じように接してくれていましたか」
エコ 「馬鹿だな。こんな城じゃなくて外の世界に行けたなら、普通に買い物や、普通に遊園地なんかに遊びに行ったりして今以上に妹バカになっていたに違いないよ」
ネル 「本当、信じられない良い姉ですよねエコ姉さん」
エコ 「ああ、良い女王にはなれないかもしれないが、良い姉になる自信はあるんだよ、不思議とな」
ネル 「だから本当に……残念です」
エコ 「え?」
物陰から男。
そのままエコを蹴飛ばす。
エコ 「痛っ……! 誰だ!」
グリー「誰だって言われたらグリドアさんですよーって答えるしかねえよなあ」
エコ 「グリドア……? しかもこの声は男か……?」
グリー「長ったらしいから縮めてグリーって呼んでくれよな」
エコ 「この城に男なんていたのか……! もしかしてお前門番か?」
グリー「ンなわけねえだろ! まあ、そこは説明すると面倒だからこの地下の住人だとでも思っておいてくれや」
エコ 「それが私たちに何の用だ」
グリー「鈍いなあ。俺がリゼやプリンを殺した犯人だってまっさきに思いつかないわけ?」
エコ 「はあ……?」
グリー「はあ?じゃねえよ! 俺だよ俺! テメエの愛しの妹ちゃんとリゼを殺したのは! あ、もしかしてプリンちゃんが死んだのはまだ知らなかった? そりゃあ失礼しちゃったなあ」
エコ 「プリンが……死んだ……?」
グリー「最後はあっけないもんだったなあ。やめて助けてって連呼してたくせして両足潰した辺りから観念したのか、静かになっちまいやがってさ」
エコ 「そんなことを言われて私が信じると思ったか? 口だけで動揺を誘おうって言ったって無駄だ。そんなすぐバレる嘘」
グリー「声が震えてるぜお姉さんよ! じゃあこれでも見たら信じるか?」
近くから袋を取り出す。
そこから薔薇のタトゥーの付いた腕を投げてエコに渡した。
エコ 「ひいいい!? こ、これは……?」
グリー「腕だけ見てもわかんないかねえ。ヒントはその薔薇のタトゥーだぜ」
エコ 「二の腕のこの位置にタトゥーがついてる人間……。そんなの……」
グリー「プリンちゃんしかいねえよなあ! だぁいせいかぁい! その腕はプリンのもんだよ」
エコ 「お、お前! どうしてこんなことをすることができるんだ! お前に情はないのか……!」
グリー「この地下で生きてるうちにそんなもんは忘れちまったなあ」
ネル 「グリー。もういいよ、早くエコ姉さんを殺してしまってください」
エコ 「ネル……? お前何を言ってるんだ……?」
ネル 「私は去年までの15年間ずっと地下で生きてきました。この薄暗い空間でずっと」
ネル 「それはもう生きてるか死んでるかもわかんないような地獄みたいな生活でしたよ。昔はプリン姉さんやシャロ姉さんともたまに会えてたけど、2人とも上へと出ていってしまいましたし、二人きりで生きるのは本当につらかった」
ネル 「ずっと耐えて、そしてようやく外に出たら見覚えのない姉がいた。しかもそいつは王位継承権1位だってさ。そんなの私たちからしたらさ、ふざけんな、でしたよ」
エコ 「私だってお前らと同じように地下できちんと能力を磨いてから出て来たかった! けど、それは」
ネル 「違う! 出てきて私はようやくわかったんですよ。『ああ、そうか。私たちは長女たちのリザーバーでしかないんだなあ』って」
エコ 「そんなわけがないだろう。ネルたちだって王位継承のチャンスは」
ネル 「ないですよ。私たちにそんなチャンスはないんです。それこそ――――上の姉たちが全員居なくならない限りはね」
エコ 「まさか……そのために……?」
ネル 「そのまさかですよ。私が女王になるために一人ずつ減らして貰ったんです。でもエコ姉さんとドリー姉さまは手ごわいですから最後まで待っていたんですよね。けど、ドリー姉さまがあんな風に退場するのは嬉しい誤算でした」
エコ 「そんなことのために! みんなは殺されたのか……?」
ネル 「そんなことって言いました!? 私は女王になってしたいことがあるんです! そのためになら……姉さまたちを殺してもらうことすら安い経費ですよ」
グリー「まったく酷い妹ちゃんだねえ。死ぬ直前に心まで折ってやるなんてさ。で、どうだいエコさんよ。妹が真犯人だった感想は?」
エコ 「は、はは……。正直悪い夢を見ているかのような感覚だよ」
グリー「そうかい。悪い夢を死んでも見続けろよ」
グリー、バットを振り上げる。
目を逸らすネル。
エコ 「だから、悪い夢は自分で払うしかない」
しかしエコは懐から拳銃を取り出してそれを向けた。
グリー「は、はあ? そんなもんどこから……」
エコ 「本当の切り札ってのは、常に隠してるものだよ」
ネル 「ど、どうして! 妹にも裏切られて、他の継承者は殺されていって! そんな状況なのにどうしてエコ姉さんは生きようとするんですか!?」
エコ 「ようやく気付いたんだよ。私がすべきことに。私は女王になる器だ。いや、女王にならなきゃいけない!」
グリー「なんで急にそんな考えに至るんだよ」
エコ 「私は今まで自分が養女であることから女王になるべき者だということから目をそむけていた。だけど、それは違った。私が女王になると意思をはっきりと見せつけないから! ネルはもちろん、他の候補者たちをこんな目に合わせてしまった」
エコ 「私は女王になる。そのためには……死ねないよ」
グリー「強がるのはいいことだけどよ。お前、それ撃てるのかよ。人間に向かって撃ったことがあるかあ!? その手に握れる小さなもので人の命一つ奪えるんだぜ? 怖くねえのかよ」
エコ 「怖いよ。今も震えが止まらないくらいだ」
エコ 「けど」
引き金を引き、グリーの右腕を撃ち抜く。
エコ 「私の作る国にお前みたいなのが生きることを考えたら、苦でもないさ」
グリー「あ、あ? いてえええええええ!! ああああ!? テメエ……! ふざけてんのかよ!」
グリー「お前えええ! 頭おかしんじゃねえのかよ! さっきまで絶望に打ちひしがれていた奴がよォ! 一瞬でそんな考え方を変えれるのかよ……!」
エコ 「私の考えは昔から何一つ変わってないよ。ただ今までは押さえつけていたんだ。私みたいなのが女王になっていいのかって遠慮からな」
グリー「はっははは! そりゃあ勝てねえわ……。お前みたいやつがいたならサンドリアも安泰かもな」
ネル 「ちょっと! 何あっさり諦めてるんですか。早く! エコ姉さんを殺してくださいよ!」
グリー「馬鹿言うなよ。俺みたいな半端な人間にこんなやつが殺せるか」
ネル 「それじゃあハッセとの約束は!? 私が女王にならないとダメなんです……!」
グリー「知るか。俺には荷が重い」
ネル 「グリー……!」
エコ 「それがお前の最期の言葉だな」
グリー「はは……ろくでもねえ人生だったよ」
引き金を引く。
グリー後ろに倒れ、絶命する。
エコ 「いい気分じゃ……ないな」
ネル 「次は私の番、ってわけですか……?」
エコ 「そんなわけないだろう。妹を殺す姉はいないよ」
ネル 「こんなことになっても私を妹として見てくれるんですね。私のことなんてどうだっていいでしょうに」
エコ 「姉のことを考えない妹はいても、妹のことを考えない姉なんていないさ」
ネル 「……はは、やっぱりエコ姉さんは女王の器ですね。私なんかじゃ超えれないや」
エコ 「さあ、ネル。帰ろう。私が作る国へ」
ネル 「…………」
エコ 「ほら、シャロとドリーが待ってるよ」
ネル 「いいえ、私は戻りません」
エコ 「そう、か……」
ネル 「やっぱり私は戻れないですよ。間接的にとは言え三人も手に掛けてるんですからね」
エコ 「そんなの関係ない! ネルが直接手を下したわけじゃないんだ。犯人だってもう死んだ。何も問題はないんだ」
ネル 「そういうことじゃなくて! 私はもう無理なんですよ……。もう、あの二人にも、エコ姉さんにも向ける顔がない」
ネル 「だから、さよなら、です」
背を向けて下手へと歩くネル。
エコ 「何時まででも! 待ってるから!」
ネル 「はい」
エコ 「お前はいつまででも、私の妹だよ」
ネル 「は……い……!」
エコ 「また、会えるよな?」
ネル 「さようなら」
下手へと消えるネル。
エコ 「泣くのは、これで最後だ……」
暗転。