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薔薇の姫  作者: しのみや
1/5

起章

 城の大広間。

女王候補五人がそれぞれの姿勢で立ち座りしている。


エコ 「では今日も女王候補による会合を始める。全員集まってるかな」

全員 「(それぞれ返事)」

ネル 「ってあれ? プリン姉さまがいないですよ?」

シャロ「おバカ姫のことだからどっかで迷子になってるんじゃないのー? ねー、姉さま!」

ドリー「シャロ、それじゃあ人が悪いわよ。おてんば姫、と言ってあげるのが良いと思うわ」

シャロ「あはは、それもそうだ。おてんばおてんばー」

リゼ 「2人ともやめなよ。プリンが遅刻するのはいつものことなんだからさ」

エコ 「そうだ。遅刻したのは確かに悪いがそこまで言ってやらないでくれ。悪気はないはずなんだ」

ドリー「そうね、少し口が悪かったかも」

シャロ「ごめんなさぁい」

ドリー「まあ、プリンちゃん無しで先に始めちゃいましょう。どうせ今日も決まらないでしょうし」

リゼ 「それはお前がエコの継承を反対するからだろ。継承序列1位のエコが継ぐことにすればそれで終わりだってのに」

シャロ「別に変なことじゃないじゃーん。継承に反対なんだから、反対って言ってるのに何が悪いの?」

リゼ 「そ、それは……」

ドリー「自分の意見を持たない中立ちゃんは生意気言わないで黙ってて頂戴。リゼのそう言うところ本当に嫌いだわ」

ネル 「ドリー姉さん、口が過ぎます……」

シャロ「なんだチビ姫ー? 継承権ギリギリの年の癖に生意気言うつもりかー?」

エコ 「静かにしろ! 女王が死んでからもう2週間も経ってるんだ。一刻も早く次の女王を決める必要があるのに、こんな無駄話をしている暇はない」

リゼ 「そうだ。プリンも来てないから、7姉妹で、と言うわけにはいかないが早く本題に入ろう」

シャロ「話し合いって言ったって、この2週間毎日のようにしてきたけどまるで進展してないじゃん? それなりの理由を出してくれなきゃ、私とドリー姉さまはエコさんの継承には反対だから!」

ネル 「逆に私とプリン姉さまはエコ姉さまの継承に賛成です。継承順位1位ですし、それに相応しいだけの実力も持ってます」

リゼ 「まあ、こうなるよな……。私と……。いや、私もエコの継承に賛成だよ」

エコ 「3人とも私を過大評価しすぎだよ。単純な能力で言えばドリーも私に負けてはいないのに。私は序列1位なんて柄じゃない」

ドリー「でも勝ってもいない、って?」

エコ 「今日は随分おしゃべりじゃないか」

ドリー「そろそろサンドリアにも女王が必要だと思ってね」


 不敵な笑みを浮かべながら睨みあう二人。

シャロはネルをいじりながら、リゼはどちらの側に着くかを考えながらそれを見ている。


プリン「み、み、みんなあ!!」


 下手から走ってプリンが出てくる。


リゼ 「血相を変えてどうした? 朝食のデザートでも落とした?」

プリン「ち、違うよ! し、し、死体! 死体があったんだ……」

ネル 「死体ですか……?」

エコ 「誰の死体だ?」

プリン「背中に……薔薇のタトゥーが入ってる死体……」

シャロ「なんだと……? お前言ってる意味が解ってるのかよ!」

ドリー「落ち着きなさいシャロ。プリン、薔薇のタトゥーが入ってると言うことは王位継承権を持つ誰か、と言うことよね?」

プリン「わから……ない。顔が潰されていたから誰かってのはわからないかったんだ」

リゼ 「顔が……。なんてえげつないことを」

エコ 「いや、おい待て。プリンが来たってことはここには全員の王位継承候補が揃ってるんだよな?」

シャロ「それがどう……。ああ、なるほど」

ネル 「そう言う……ことですか」

プリン「え? ちょっと話が見えてないんだけど! 何が問題なの?」

ドリー「考えて見なさいプリン。ここには王位継承者が全員そろってる。なのに見つかった死体には継承者のタトゥーが入っていた」

プリン「うんうん……」

シャロ「にぶいなあ、おてんば姫。私たちと死体を入れての7人のうちどれが偽物か、って話だろ」

プリン「……ああ、なるほど!」

リゼ 「私たち8人のうちの……。誰にそんなことをする理由があるんだ」

ネル 「考えられるのは……女王候補に成りすまして女王になりたい人……」

ドリー「もっとわかりやすい犯人候補があるじゃない」

エコ 「待て、ドリー。そこから先は言うな!」

ドリー「ほら、エコだって気づいてるんじゃない。他のみんなだって気づいてるでしょう?」

ドリー「こんなことするのは王位継承候補の7人のうちの誰かしかいないって」

全員 「……」

プリン「……な、なにそれ! 次の女王が決まらないから殺して人数減らそうってこと?」

シャロ「それ以外に考えられるのかよ」

プリン「じゃあわざわざ女王候補の振りをする意味は!? そんな面倒なことをする意味は!?」

シャロ「知らねーよ……。そう言うのは犯人に聞いてくれ」

リゼ 「とりあえず全員のタトゥーの有る無しを確認しておくか? 適当に近くの人が確認してやってくれ」


 全員がそれぞれのタトゥーを確認する。

やはり全員のタトゥーはあり、それぞれが元いた場所に戻る。


エコ 「みんなにタトゥーはある……か」

プリン「ほら、やっぱり偽物なんて」

ドリー「さて、どうかしらね」

プリン「だって、タトゥーのオリジナルは地下にしかないんだよ? 簡単に偽装できるものじゃないし、持ち出すのも簡単じゃない。」

ドリー「簡単じゃないだけで可能なんでしょ? 今は継承者会合の途中でこの城にいるのは私たちと数えるほどの人だけだし、人の目を盗むのは難しくないもの」

シャロ「そもそも死体を確認したのはプリンだけだしなあ。本当にタトゥーが付いていたかどうかも怪しいね」

プリン「私が嘘をついて、みんなを混乱させようとしてるってこと!? そんなこと私がする訳ないじゃん!!」

シャロ「どうだかねえ。継承順位1位の姉が邪魔で計画したとも考えられるし」

ネル 「プリン姉さまに限ってそんなことを考えるなんて思えません! プリン姉さまはちょっと抜けてるところこそありますが、優しいお姉さまです!」

プリン「ネル……」

シャロ「けっ、綺麗な姉妹愛だことで」

リゼ 「シャル、茶化すなよ。でも、シャルが言った通り死体をプリンしか確認してないのももっともだ。みんなで確認しに行った方が良いんじゃないか?」

エコ 「そうだな。死体なんて見たくないけど、死者を目立たない場所で静かに眠らせてあげたい」

ドリー「だけど全員で行くのは反対ね。この場所を空室にするのは危険だわ。それなら私は三家の長女以外で行くのが良いと思うの」

エコ 「私の直系の妹のプリンとネル。ドリーの妹のシャロで、ってことか?」

ドリー「ええ、なにか問題があるかしら?」

リゼ 「私もそれでいいよ。私だけに嘘を吐く、なんてことはないと信じてるから」

エコ 「なら三人にお願いしていいか? プリンは、何度も死体を見るのは嫌だろうが……」

プリン「ま、まあ2人で行かせるのも不安だし仕方ないね……。私はもう見てるから付き添いで行くよ」

シャロ「不安ってなんだ、不安ってー」

ネル 「では、行ってまいります」


 三人、下手から出ていく。


エコ 「……で、本題はなんだドリー」

リゼ 「本題?」

エコ 「まさかなんの意味もなく長女だけをここに残らせたわけじゃないだろう?」

ドリー「流石序列1位は察しがいいわね。もちろん狙いがあってに決まってるわ」

ドリー「……女王を決めるなら、間違いなく私たちの中の誰かよね?」

エコ 「さあ、どうだかわからんぞ。プリンはあの性格だから人望もあるし、ネルも継承権を得たばかりだが人の気持ちを考えられる子だ」

ドリー「そう言うのは良いから。私は総合力的な話をしてるの。あの2人が人望があって人の気持ちを考えられるとしても、あなたはそのどちらをも持ってるでしょ」

エコ 「それは買いかぶりすぎだよ。私は女王の器にはまだ遠い」

ドリー「へえ、それは……あなたが元女王の本当の娘じゃないから?」

エコ 「……」

リゼ 「はあ!? エコは女王の娘じゃないのか……? え、じゃあプリンとネルも?」

ドリー「いえ、あの2人はちゃんと女王の娘よ。それに私もシャロも女王の妹の娘」

エコ 「参ったな。どこでそんなことを知ったんだか……」

リゼ 「本当……なのか?」

エコ 「ああ……。私は女王に養女として貰われた身で本当の娘じゃあない。だから本来は継承1位はプリンになるはずなんだ」

ドリー「それはまた別の話よ。女王もあなたに才能を見出したから養女にしたわけで、そこはゆるぎなく1位でおかしくないわ」

エコ 「素直に褒めてくれてると受け取るよ」

ドリー「まあ、話を戻しましょう。この中で誰かが女王になるでしょう? で、2人は女王になったらこの国をどうしたいのか。それが聞きたいの」

リゼ 「女王になるための覚悟を聞きたいって訳か。茶化すわけじゃないがドリー、今日は本当によくしゃべるな」

ドリー「これから起こり得ることを考えたら早いうちに次の女王を見極めた方がいいんじゃないか、って思ってね……」

リゼ 「これから起こり得ること……?」

ドリー「なんでもないわ。じゃあ最初は言い出しの私から言うわね。私はこの国の公表できないようないわゆる暗がりの部分を全て無くしたいと思ってるの。それで全てを女王の目の下に置いたうえで、権力で支配する国にしたいわ」

リゼ 「ドリーらしいと言えばらしいね。確かに暗がりの部分が未だに残ってるのはあまり良いことじゃない」

ドリー「そう言う卑怯なことは許せないの、私。だからそこの排除は徹底してやるつもりよ。もちろん、この城の中の暗がりもね」

エコ 「この城の中?」

ドリー「そんなことはいいのよ。エコはどうなの」

エコ 「私はどんな小さいものの意見でも無視されることなく、誰もの意見がみんなに聞いてもらえるそんな国を作りたいと思っている。弱きものが弱いということを理由で虐げられない国をな」

ドリー「……継承順位一位の方は言うことも違うわね」

エコ 「茶化すな。そんな高尚なもんじゃない。前女王も願っていた、普通の国を作りたいだけだよ」

リゼ 「その普通を口にするのがどれだけ難しいのかエコにはわからないだろうね……」

エコ 「口にするだけなら自由だ。思っていることを口に出せないようじゃ、良い国なんて作れないよ」

リゼ 「やっぱり私はそう言うところがダメなんだろうなあ。私さ、2人と比べて突出した能力も、そう言う普通だったり、革新的な目標もないんだ。三女の娘だから、女王になれるなんて思ってなかったから」

ドリー「確かに上昇志向も自分の意思もないものね、あなた」

エコ 「ドリー」

リゼ 「いいんだ、エコ。返す言葉もないくらいその通りだよ。やっぱり私は女王なんて柄じゃ……ないんだ」

ドリー「考え無しに諦めてると思ったら、意外と考えてるじゃない。それならいいのよ」

リゼ 「まあ、そう言うことだから女王候補は二人で争ってくれよ。あいつらもそれで納得するだろうし」


 しばしの沈黙。

その後、下手からプリンらが戻ってくる。


プリン「確認してきたけどやっぱり……うん……」

シャロ「間違いない……。あれは正式なタトゥーだった」

エコ 「やはりそうなのか。じゃあ誰の死体なんだあれは……」

ネル 「誰の死体か、よりも誰が入れ替わってるかの方が重要かもしれませんね」

シャロ「私は……プリンが怪しいと思う」

プリン「なんの根拠が合ってそんなことを言うんだ!」

ドリー「そうよ、シャロ。怪しいと思うならそれに見合う根拠を言って」

シャロ「そんなの簡単だよ。じゃあプリン、お前なんで今日の集合に遅れたんだ? いや、そうじゃないか。なんであの死体があった場所にいたんだ?」

エコ 「どういうことだ……?」

シャロ「死体はさ、地下の檻の近くに置いてあったんだ。あんなとこ普通に生活してたら通る訳ないよな?」

プリン「そ、それは!」

ネル 「言えない事情があるかもしれないじゃないですか。そんなのは理由になりません」

シャロ「言えない事情ってなんだよ! わざわざタトゥーの隠してある地下に行く、言えない事情って」

エコ 「どうなんだプリン、言えないのか?」

プリン「言え……ない」

シャロ「ほら見ろ! やっぱりお前が犯人なんだ!」

ドリー「やめなさいシャロ。むやみに追い詰めるのは良くないわ」

シャロ「でも姉さま! 私は殺人鬼、それもあんな殺し方をするような人間となんか一緒にいたくありません……!」

リゼ 「まあ、シャロの気持ちもよくわかるよ。だからこうしよう、プリンを一日地下牢で拘束しよう」

エコ 「なんでよりによって地下牢なんだ? わざわざ現場に向かうようなこと」

リゼ 「地下なら入口に見張りもいるし、事情を話せば抜け出すことも簡単じゃないだろう? それに一応私が見張りとして一緒に地下に行こう」

シャロ「もしかしてリゼ姉さんも共犯なんじゃ……?」

リゼ 「むしろ私はその可能性は一番低いだろうよ。この中に私の姉妹はいないんだから他の姉妹と組んでもメリットがない」

ドリー「確かにリゼの言い分は正しいわね。で、プリン、あなたはそれでいいの?」

プリン「それで、私の疑いが晴れるなら」

ネル 「ではそれで決定ですね……。気は進みませんがリゼ姉さん、お願いします」

リゼ 「ああ。行くぞ、プリン」

プリン「エコ姉さん、私が拘束されてる間に真相を、お願いします……」

エコ 「任せておけ。そのための長女だ」

リゼ 「じゃあまた明日」

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