幸福の代償
「実はわたし、マヨネーズは嫌いになったんです」
江戸川コナミが発した一言に、私は衝撃をうけた。
「なぜなんだコナミ…あれほど無差別にマヨネーズをかけていた君が…目玉焼きは勿論、天ぷらにもサンマにも、カップヌードルにもマヨネーズをかけていた君がなぜ…?」
私が問い詰めるとコナミは、うつむきながら口を開いた。
「幸せになりたいからです…」
「幸せ…?」
「わたし、いままで四人の男性と付き合ってきました。同棲もしました。しかし、いずれも上手くいきませんでした。一人目は私がカレーにマヨネーズをかけているのを知った途端に離れていきました。二人目ナポリタンにマヨネーズ、三人目はカボチャ、四人目は明太子で。私がマヨネーズをかけているのを見ると汚物を見るような目で逃げていったんです」
「明太子にマヨネーズは旨そうだと思うんだが…」
「そして今、わたしは結婚して子供もできました。旦那に私がマヨラーであることを隠して…。私は幸せになるために、マヨネーズを捨てたんです」
幸せになるために、自分の好きなものを捨てる…。わたしにそれができるだろうか。目玉焼きにマヨネーズをかけられない人生を、わたしは幸せだと思えるのか?
江戸川コナミと居酒屋で別れた直後、携帯が鳴った。探偵の笹井からだ。
「わかりましたよ。あなたの奥さんと一緒にいた男性の正体が…その男性は…」
「なんだって…?」
私は笹井から、その男の住所を聞き出し、その男の元へと向かった。