優しい青年の短かった出会い
なんとなく書きたくなったので、書いてみました。
少しでも何かを感じてくださったら幸いです。
「やっぱり、ファニエルは優しいよね」
そう言って笑うマリサに、俺はいつものようにこう言った。
「俺は優しくないよ。 優しいってのは俺のような人間に使っちゃだめだよ」
「いっつもそう言うよね」
ちょっと不機嫌そうなマリサに、笑いかけながら、俺はこう答える。
「俺は優しいんじゃなくて、ただ甘いだけさ」
俺は、そういいながら、親子を襲おうとしている魔物を屠った。
「あっ、ファニエルさん。 お待ちしておりました」
いつものように、ギルドの向かうと、受け付けのサーシャさんが俺に話しかけてきた。
「サーシャさんどうしたんですか?」
俺は、サーシャさんの話を聞くために、早足でサーシャさんのところに向かった。
「ん? ファニエル? どうしたの?」
「あぁ、マリサか……。 いやな? 緊急の依頼があるみたいで」
俺がギルドに行ってる間に買い物を済ませたマリサがギルドにやってきた。
「ふーん。 それで、今回は何の依頼?」
俺に、緊急の依頼が入ることはいつものことので、特に何か聞くことなく、聞いてきたマリサだったが、次の俺の言葉でその顔を驚愕に変えた。
「うーんと、どうやら今回は水龍みたいだ」
「毎回馬鹿だとは思ってたけど、今回ほど思ったことないわ」
「それ、前回のリッチのときにも言ってたぞ」
ぷりぷり怒りながら、先に進むマリサに苦笑しながらその後を追いかけていた。
「あのリッチだって、どんだけ苦労したと思ってるのさ!!」
「あはは、だってあれ受けないとあの村が大変なことになってたでしょ」
前回のリッチのことを思い出してると、マリサがぼそっとこう言った。
「……ファニエルが全部抱え込まなくても……ほんとに優しすぎるんだから」
その呟きには、心の中で返事した。
俺は、優しいんじゃなくてとても甘いだけ、あの人に会えたら真っ先に怒られそうだ……。
「あれ? ここは?」
俺は、いつの間にか、この世界にいた。
いわゆる転生だとか、異世界召還だとかファンタジーみたいな話だ。
俺は、地球という世界で、高校生をやっていた。
しかし、朝目が覚めるとこの世界に飛ばされていた。
こちらの世界に来てから、にっちもさっちもいかなかった俺に救いの手を差し伸べてくれたあの人。
その人を俺は………………………………。
「…………ル」
俺は……。
「……ニエル」
あの時の俺の過ちのせいで。
「ファニエル!!」
「……んっ? あぁ、マリサ……どうした?」
気がつくと、マリサに覗き込まれていた。
「それは、こっちの話。 大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ」
「ほんと?」
心配そうにこっちを見るマリサの頭をなでながら、俺は今日も呟く。
「あぁ、俺は大丈夫だ。 『この世界は残酷だ。 でも、それなら私たちは優しくならないといけない』か。 まぁ、俺は優しくなれないから、せめて、甘くなるのさ」
「で、その結果がこの状態と……」
マリサがあきれてみた先には、水龍と戦った後だ。
そこら辺に、クレータができ、所々凍ってるところもある。
「まぁ、水龍葉倒したし、帰りますか」
「そういって、現実から目をそらすな!!」
俺は、マリサに怒られながら帰るのだった。
シイナ……君に助けてもらった俺は精一杯生きていくね。 そして、精一杯人を助けていくね。 それが俺にできる恩返しだから。
「ファニエル。 この世界は、とても残酷なの。 人の命は軽いし、たった一つのことで、すべてが消えるなんて、よくある話」
「そうだね……この世界の命はとっても軽い」
「だからさ。 だからこそ、私たちが優しくならないといけないと思うの。」
「シイナは優しすぎるよ」
「それぐらいがちょうどいいんじゃないかな」
「ほんとに、シイナはお人よしだよ」
……俺は、君みたいにはなれないけど、それでも、君が笑ってくれるように頑張るよ。
これは、優しい青年と優しい少女の短かった出会いの一部のかけらの話。
完