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第一話 ロボット

 そこに女の子がいた。

 放課後になり、荷物をまとめていた市川航太は、ドアの近くに立っているクラス一の美少女から声をかけられた。

「これから、あなたヒマ?」

 清流のように澄んだ声の赤川奈津美さんは、こちらへゆっくりと歩いてくる。

「も、もちろん! 今日からテスト一週間前だから」

 テスト期間なら勉強をしなくてはならないはずだが、そのせいで部活が休みのため、すぐ帰れるのだと彼は言いたかったのである。

「そう。なら、私の家に来てちょうだい」

 赤川さんが、航太の腕を引っ張って立たせる。その瞬間、彼の顔がぼうっと赤くなった。

 な、なんだなんだこの状況は!? 何か彼女に気に入れられるようなことでもしたか? 航太にそんな覚えはない。

「行きましょ、航太くん」

 彼は、あわててかばんを持ち、

「悠介、じゃあまた明日!」

 と、数日前からなぜか愛想が悪くなった親友に手を振り、赤川さんに連れて行かれた。


 家へ着くと、彼女がガラスコップに入れた冷たいお茶を出してくれた。

 すっかり体が火照った航太はコップを傾けると、立ったまま一気に飲み干してしまった。

「早速なんだけどね、見てもらいたいものがあるんだけど」

 そう言って赤川さんは着ているベストを脱ぎ始める。そしてリボンを外し、シャツも脱いだ。

 あまりにもあっさりとした脱ぎさばきだったので、航太は目をそらす暇もなく、ポカーンと口を開けるしかなかった。

「ええとね、航太くん。これを見てほしいの」

 赤川さんは彼に背中を向けると、ホックに手をかけ、ブラを外してしまった。芸術作品にも値するほどのきれいな肌を見て、航太は卒倒してしまいそうになる。

 すると、突然首元から肩甲骨にかけての皮膚が下へスライドし、体の中へ収納された。中には機械やコードがあり、チカチカとあちこちで電球のようなものが光っている。

「赤川さんって……、ロボットだったのか」驚きを隠せなかった。「やっぱりすごいなぁ。全然本物の人間と見分けがつかないや」

 現在日本の人口は、少子高齢化が進んだ影響で二十一世紀初期と比べて、約半分にまで低下してしまった。それを埋め合わせるかのように、次々とロボットが生み出されているのである。

「大学の教授をしてるお父さんが、今出張に行っていて、私の修理をする人がいないのよ。それで航太くんに声をかけたわけ。お願い、ロボット工学部部長のあなただけが頼りなの」

 顔をこちらへ向けて、困っている表情を見せた。ドギュンとハートを射抜かれた。

「で、でも。それだったらロボット病院へ行けばいいんじゃない?」

 赤川さんは首を横に振る。

「いやなの、知らない人に自分の体をいじらせるのは。航太くんにやってもらったほうが、私はとってもうれしいわ」

 断るより前に、航太はカバンに入っている工具へと手が伸びていた。どこが悪いの、と尋ねる。

「脳からの信号が左腕へ届くのに、少し時間がかかるのよ。だから、神経系に異常があるはずなんだけど……」

 航太は、虫メガネを使って探っていく。ロボットなのに、彼女からは女の子の匂いがしてくる。鼻血が出てきそうだ。

「あ、見つけた! 神経が老朽化してる。赤川さんをつくった人、ケチったんだね。新しいものと換えておくよ」

 額に汗を浮かべながら、作業を黙々と進める。他の神経を切ってしまえば、彼女の左腕はずっと使い物にならなくなる。慎重に、慎重に……。


 数十分後、作業を終えるとほっと胸をなでおろし、腰を下ろした。新しい飲み物持ってくるね、と服を着た赤川さんが部屋を出ていく。

 航太は、自分の手に残っている肌の感触を確かめていた。なめらかできめ細かく、温かかった。

 このあと、赤川さんをデートに誘ってみようかな。あっという間にホレてしまったのだ。

 おまたせ、とさっきと同じお茶を入れて戻ってきた。再び一気に飲み干す。

「それでね……」と突然、赤川さんが航太に詰め寄って座った。

「な、な、なに?」声が裏返る。

「脱いでほしいの」

「え?」

「だから、航太くんに服を脱いでほしいの」

 そう言って、航太のポロシャツを脱がしにかかった。慌てて阻止しようとするが、パワーでロボットにかなうはずがない。ズボンやパンツも奪い取られ、生まれた時の姿がさらされた。仰向けに押し倒される。

「あ、あ……」

 航太は、驚きでそれ以上の声が出せないでいた。

「これから私がいいことしてあげる」

 すると、赤川さんは左手を彼の喉元へ突きつけた。そして彼女の手がナイフへと変形する。

「本当はこんな物を出したくないんだけど……」と少し悲しそうな顔をし、「スムーズに事を進めるためには仕方ないの。許して」

「い、一体何をするつもり……?」

 弱々しい声で噛みまくりながら、かろうじて出た言葉がそれだった。

「あなたをロボットに改造するのよ。この世をロボットの国にするために、今世界中でひそかに人間のロボット化が始まっているの。すでに私たちの学校の人は、全てロボットだわ。あなたが最後の一人なの。ラストは私が飾りたいから」

 急ににこやかになる赤川さん。右手の指で、航太の正中線を胸から下へなぞっていく。彼は、恐怖で目が震えている。

「心臓と肺と脳以外は、全て機械になるの。そして改造された人間は、注入される麻薬で、人間へ戻りたいと思わなくなる。……心配しないで。苦しみなんて全然ないから」

 航太の手の指がピクピクと動いている。抵抗しようにも、体が言う事を聞かない。

「あなたも私のように、改造されて良かったって思わせてあげる!」

 航太の目が見開かれた。

「それじゃ、人間の航太くんにさようなら」

 赤川さんは、ポケットから取り出したスプレーを彼に吹き付けた。あっという間に意識がなくなる。

「お父さん、準備出来たわよ」

「うむ」

 様子をうかがっていたお父さんが入って来て、航太をかついで部屋を出て行き、地下室の手術室へと向かった。

※この先を読んでも、本文のネタばれにはなりません。


 どうも、読んでいただきありがとうございます。

 この企画、まだ始まったばかりですが、どうぞ応援よろしくお願いします!

 ところで、同じ書き出しのショートショート集って見覚えありませんか? そうです。星新一さんの『ノックの音が』です。「ノックの音がした」から始まる15篇の掌編が収録されています。それだけでも画期的ですが、そこに星新一クオリティが加わったものですから、あっと驚くアイデアと技力が満載です。

 そんなわけで、ぜひ自分でも同じようなことをやってしまおうと考えつき、こんなことをやらかしてしまったわけです。

 まだ未熟ですけど、私の成長を見守ってもらえればうれしいです。

 さて、次作にて再びお会いしましょう!

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