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第七話 世界一の手料理


「わぁ、おいしそう!」


 8人掛けの広いダイニングテーブルには、色とりどりの野菜サラダ、旬の素材を使ったオーブンサンド、自家製パンを詰め込んだバスケットに、ソーセージ、ホワイトベースのスープが並べられ、食欲を誘う匂いが立ちこめていた。


「おー。今日は朝から張り切ったなー、カミュ」


 朝の水まきを終えたラウが、首に巻いたタオルで汗を拭きながら、ダイニングにやってくる。


「そりゃあそうでしょ。なんせ、お姫様が仲間入りした最初の朝なんだからさ……ってかお前汗臭っ! 流してから来いよ!」


 おえっ、と首に回された腕を振り払い、手でラウを追い払う。

 カミュに邪険にされ、「そんなに汗臭いかー?」と自分の腕に鼻を近づけるラウ。


 席に着こうとしたユーリにすれ違いざま鼻をつままれ、ぱたぱたと手で空気をあおがれたラウは、憮然とした顔で来た道を引き返した。

 外に汗を流しにいくのだろう。


「そうだね。昨日はフィオナも疲れていたし、急で準備が出来なかったから……その分、今夜は歓迎のパーティを開こうか」


 ね、とすでに席についていたウィルが視線を隣に流すと、器用にそれを受け取ったヴァンが「好きにしろ」と呟いた。


「パーティか……何か面白い仕掛けを用意した方がよさそうだねェ」

「……今度はどんなガラクタ持ち出してくるつもりだよ……頼むから、オマエは何もすんな、ユーリ」

「おやァ? リッドが何か出し物をしてくれるそうですヨ、ウィル」

「おいっ、何でオレが……!」

「……ヴァン、手が足りないようなら付き合うぞ」

「ああ、そうしてくれ、ジーク。ウィル、取り急ぎ必要なものがあれば、午前中にまとめてくれ。午後にジークと出る」

「うん分かった。俺はカミュを手伝うよ。忙しくなりそうだしね」


 次々に話がまとまっていく。好き勝手に話しているようにみえて、彼らは各々の役割をきちんと振り分けていた。


 個性が強く、一見バラバラに見える彼らだが、実はとても連携が取れている。

 そのことに気付き、呆気に取られると同時に、フィオナは、早く自分もこの輪に入れるようになりたいと思った。


「ありがとうございます。置いてもらえるだけでもありがたいのに、歓迎なんて……」

「なに言ってんの。こんなむさ苦しい男所帯に、可愛い女の子が加わってくれたんだから、俺としては大歓迎! もっと堂々としてイイと思うぜ?」


 ニコニコとそんなことを言ってくれるカミュは、朝から上機嫌だ。


「そうそう! カミュの言う通りだ。君はもうちょっと厚かましくしていいと思うぞ!」


 バタン、と勢いよくドアをあけ、戻ってきたラウの声が飛んでくる。


「ラウ、早く席につけ」


 全員の着席を待っていたヴァンに急かされ、頭から水を被ってきたらしいラウはずぶ濡れのまま室内に上がり込み、さらにヴァンに怒られるハメになった。





 


「おいしい……」

「だろ?」


 騒がしく始まったモーニングで、カミュの手料理に口をつけたフィオナは、感嘆の声を漏らした。昨日のフルーツタルトを食べた時も思ったが、カミュの手料理は、城のシェフの腕に勝るとも劣らなかった。


 隣でカミュが、フィオナの幸せそうな顔を見て満足げに笑った。


「『カミュ様の料理は世界一!』だからな」

「『自称』な」

「あー? 文句あるなら食わなくていいんだぞ、野郎は」

「美味い美味い」

「あー、マジうめ。このポタージュ最高!」


 ひそひそと余計な事を言うラウとリッドを、ひと睨みするカミュ。

 わざとらしく視線を料理に戻し、聞こえる独り言を言い出す二人に、カミュがため息をつく。


 そんな彼らのやりとりを微笑ましい思いで眺めていると、カミュに覗きこまれた。


「何?」

「いえ、仲がいいんだなと思って」

「仲? あいつらと? ……まあ、悪くはないよな」


 そう言って視線を宙に向けたカミュの横顔は、少し照れているようにも見えた。


 艶っぽいアーモンド型の眼は、ルビーのような透き通った紅い色をしている。彼の持つ紅い髪と同じく、フィオナの住んでいる国ではまず見かけない、珍しい色だ。


 彼はどこの国から来たのだろう、という疑問がもたげた。フィオナの知らない、遠い異国の地かもしれない。


 そんなことを知りたいと思ったのは、フィオナの見たことのないその色が、とても魅力的に映ったからだ。


「何、俺の美しい横顔にみとれた?」

「えっ?」


 思わず手を止め、じっと見つめていると、紅玉がフィオナを映し、いたずらっぽく笑った。


「そう……とも言うかもしれません」

「え、マジで?」


 明らかにからかうつもりで言ったのに肯定され、さすがに驚いたようにカミュの目が見開く。フィオナとしては、瞳と髪に目を奪われていたのは事実なので、正直に応えたつもりだった。


「紅が、綺麗だなと思いました」

「アカ……って、あぁ、これ?」


 彼の『紅』を目で追いかけながら言うと、カミュがくしゃりと髪を触った。


「見たことのない色だったので、つい。ごめんなさい」

「いや? まあ、こっちじゃ珍しいからな。よく言われる」


 ニッと笑って見せたカミュの笑顔は、いつも通りだった。


 だがその後、再開した朝食の最中に、ふいに呟かれた声は、どこか乾いて聞こえた。


「……綺麗、ね……」




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