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前編

 ハルトは裁判官席をちらりと見遣りながら原告席へと向かった。裁判官は黒一色のラブラドールレトリバーである。

 対するハルトはチワワだ。裁判官がやけに大きく見えるのも道理である。


 傍聴席にいるのは三匹の犬。民事裁判で傍聴犬がいるのは珍しいらしいから、彼らは司法ナントカ生、つまり弁護士の卵か何かなのかもしれない。


 それからハルトは、裁判官を挟んで向かいの被告席に座する兄のユウキを見た。兄は始終、ハルトから目を逸らしている。その様が本当に腹立たしい。あれは悪いことをした、と考えている顔に違いない。


 観察はこれくらいにしておこう。間も無く開廷のようだから、気を引き締めねばなるまい。


 でも、こんなことで本当に裁判を起こしていいのだろうか。小さな不安が胸を掠める。

 そう、これはハルトにとっては初めての裁判なのである。


 裁判は比較的身近なものらしい。

 ハルトの同級生で裁判をしたというヤツの話は聞いたことがないが、近所に住む公園仲間の柴犬は、なんと三歳で裁判を起こしたのだと言う。

 内容は、ハルトと同じく姉犬とのイザコザ。お気に入りのおもちゃを巡ってのものだったと言う。


『ハルやんも兄貴に思うところがあるのなら裁判をしてみたら? 三丁目の公園でやってるよ。難しい? そんなことないよう。おしゃべりができるのなら何歳でも犬裁判は開いていいって決まってんだ』


 その言葉に背中を押されて初めて裁判に挑んだわけだ。


「全員起立、礼」


「えーそれでは、令和八年第○号、損害賠償請求事件を開廷します」


 書記官が静かな声で事件番号を読み上げた。


 ハルトは奥歯を噛み締めた。

 まったく腹立たしい。

 兄はツンとした顔で遠くを見ていた。

 スタンダードプードル。犬種は違うが仲良くやってこれたと思っていたのに……、あのあの兄ときたら、突然にとんでもないことをハルトに暴露したのである。


 まさか兄の口から「お前は俺の本当の弟ではない」などと告げられるとは!


 ハルトは三日三晩泣き続けた。


 兄の弟ではない——、それは即ちハルトが養子であると言うことだろう。

 パパが何も言わなかったと言うことは、つまりハルトに隠してきたのだろう、と判断したのだ。

 家族の中で、自分だけが血の繋がりを持っていないだなんて、とんでもない精神的ダメージだ。

 それを何の配慮もなくオヤツの最中に「でもさぁ、ハルトと俺、血は繋がってないじゃん」などと容易く口にしていいはずはない。


 裁判官は事件記録を手に取り、丹念に目を通していった。


「本件は、被告の発言によって原告が精神的苦痛を受けたとして、損害賠償の支払いを求める事案である——、間違いはありませんね?」


「はい、そうです」


 ハルトは短く返事をした。


「では原告、ご自身の主張を簡潔に述べてください」


「僕は……、」


 いつもの調子で話し始めようとして、ハルトは「おっと」と思い出す。そうそう、こう言う場では「私は」と言うのが望ましいと柴犬が言っていた。


「ええと……、私はユウキ……、被告である兄、ユウキから、『お前は実の弟ではない』と突然告げられました。その発言により、私は自分の家族関係や人生の前提を否定されたと感じ、強い精神的苦痛を受けました」


「俺は事実を言っただけだよ。わかるじゃん、俺はプードル、お前は……、」


「被告は私語を慎んでください」


「……はーい」


 被告席のユウキはため息混じりに返事をした。


 太々しい態度だ。ハルトはこんなにも傷ついているのに、ユウキときたらどこ吹く風である。


「原告、続けてください」


「……兄の発言は配慮に欠けたものであり、不法行為だと私は考えます。私は兄の言葉には悪意があったものと考えます」


 裁判官は頷くと、今度はユウキを見た。


「被告は……、陳述書によると悪意を否定していますね?」


 ユウキは再びため息をつきながら立ち上がった。それから困った顔でハルトを見たのである。


「はい。そんなこと……、弟に私が告げたのはただの事実です。私は彼が……、弟のハルトが、それをとっくに理解しているものと考えていました。彼はあと少しで十五歳になる。もうそれを理解しているのは当然の年齢だと考えていたのです」


「原告側に反論はありますか?」


「はい。兄は私と血の繋がりがないことを知らせる素振りがなく十五年間を一緒に過ごしてきました。しかし『でもさぁ、俺とハルト、血は繋がっていないじゃん』と兄が私に告げたのは、兄が私のお気に入りの本を噛んで破いて喧嘩になった直後のことだったのです。兄は私が本を破ったことに対して怒ったから、仕返しをしただけです。喧嘩の直後の暴露であることから、明確な悪意があったと私は考えます」


「だからさー、それは喧嘩が終わって仲直りした後のことじゃん」


「被告は私語を慎んでください」


 そう言われて、ユウキは鼻の頭をぺろりと舐めて「はぁい」と間延びした返事をした。


「……被告側、喧嘩の経緯から暴露に至るまでの経過は答弁書に書かれている通りですか?」


「はい。そうです。喧嘩は私がハ、いえ、原告の本に噛みついてしまったことが発端です」


「なぜ噛んだのですか?」


「……私が犬だからです」


 そんなこと言われても困る、と言うような顔でユウキは首を傾げた。


「普通は本を噛んだりしない! パパが俺に買ってくれた本だぞ!」


 ハルトは苛立ちで噴火しそうになった。あの図鑑は少し高くて、でもハルトがずっと欲しがっていたものだからとパパが奮発して買ってくれたものだったのだ。


「原告、落ち着いてください」


 傍聴席のジャーマンシェパードが「そりゃダメだ」と小さく言うと、裁判官が再びすかさず「お静かに」と言った。


 一度は許して仲直りをした。


 だが、今となっては許してしまった過去の自分さえも忌々しい。

 あんなことを暴露されるくらいならば、許したりはしなかった。


 被告席で呑気に前足を舐めながら「だって仕方ないでしょ。俺、普通の犬ですもん。時々いたずらしたくなることぐらいありますよ」などと言うユウキにイライラとした。


「被告は質問されたことだけを答えるように。被告はそれについて原告に謝罪をしましたか?」


「はい。ちゃんと謝罪しました。原告は暫くは怒っていましたが、夕飯の時間の前にはボール遊びに誘ってくれました。これって仲直りですよね? あ、ええと、なので仲直りしたんだな、って思って一緒に遊び始めました。その後で本当に私たちは仲のいい兄弟だなって思って、『血が繋がっていないけど、こんなに仲良くなれるならそんなの関係ないんだな』という意味で言いました」


「原告側は認否反論をどうぞ」


「確かに許しました。ボール遊びに兄を誘ったのも私からです。でも、私は……、許す代わりにちょっとだけ兄に意地悪をしたのです。おやつのササミを半分食べちゃいました。だから兄はそれに怒って……、怒って……」


 ギュッと唇を噛み締めていないと泣いてしまいそうだ。


 誰よりも長い時間を過ごした兄と血が繋がっていない——、本当は怒りよりも悲しみの方が強かったのである。


 パパはいつも仕事だ。ママはハルトの記憶が根付くより前に『誰かと生活をするのには向かない性質たち』だとか言って離婚して家を出たのだと言う。半年に一度の面会もそっけないもので、血縁を強く感じることは少なかった。


 つまり、決して狭くはないマンションの一室で、ハルトとユウキは誰よりも長く同じ時間を過ごしていたのだ。

 ついに涙がボロッとこぼれ落ちてしまった。


「ハルト……、」


 ユウキが困った顔でハルトを見ていた。黒いツヤツヤの瞳はその体毛と同じ色だ。その体毛はまた、ハルトともお揃いの色。


 だからこそハルトは、まさかユウキと自身が実の兄弟ではないなどと、思いもしなかったのだ。


「裁判官、いいですか?」


 ユウキが前足を上げて首を傾げる。


「どうぞ」


「……確かに私の発言は、配慮に欠けていたと思います。私はずっとハルトと一緒でした。パパは『お仕事』であまり家にいませんし、誰よりも近くにいた私を一番近い肉親だと彼が誤解するのも無理のない話……無理……、無理はないのかなぁ……うーん……、なあ、ハルト。わかるだろ。俺とお前、体毛の色はそっくりだけど全然違うじゃん」


「なんでだよ! 大きさがちょっと違うだけだよ!」


「ハルト、冷静になろうよ。昔パパが買ってくれた本、繰り返し読んだよな。スタンダードプードルとチワワの兄弟が協力して冒険する話。パパはそれをシリーズで揃えてくれたよな。だからお前、それを読んで俺と血が繋がっていると勘違いしたんだろ?」


 そうだ。ハルトもユウキもあの本が大好きだった。

 人間の王様の横暴な政治に逆らって、国を守ろうと奮闘する兄弟の話だ。

 あの本は、今でも子供部屋の本棚にある。

 ハルトとユウキは一緒に床に寝そり、顔をくっつけるのようにして繰り返し読んだのだ。


「……、ハルト、養子はハルトじゃなくて俺だよ」 


 悲しげにユウキがひん、と鳴いた。


「え……?」


 ただでさえ静かな裁判所が、更に静かになった。


「養子は俺。お前とパパはちゃんと親子だから安心しろよ」


「う、嘘だ!」


「なんで疑うんだよ。お前とパパ、そっくりじゃん。寧ろ俺が全然似てない。似てるのはそれこそ毛の色だけ」


 なんで、と考える。

 だって、パパとユウキはちゃんとした親の子はずだ。


 ハルトは妙な焦りに襲われていた。

 そんなことがあるはずがない。


 だって、だって、ハルトは時々パパに叩かれたのだ。

 ユウキが別の部屋にいる時にこっそりとゲンコツをした。なんでユウキのようにちゃんとできないのだ、と。

 そんなんじゃ、立派なプードルになれないぞと言ったのだ。


「だ、だって! パパが……、パパがよく『ハルト、立派なプードルになりなさい』って言ったんだ! そんなんじゃ、ちゃんとしたプードルになれないぞって! 俺が実の子じゃないからパパは厳しくしたんだ!」


 一気に吐き出すように叫ぶ。

 しかし失敗した、とも考える。何が起きたのかを吐き出すと、腹の中にモヤモヤとしたものが立ち込めたのだ。嫌な感じだ。このモヤモヤは気持ちが悪い。


 暫くすると、荒い呼吸が少しだけ落ち着きを見せる。

 呼吸が整えられていくと同時に、思考もゆっくりと落ち着いていく。

 そこでようやく、ハルトはこの法廷が静まり返っていることに気づいたのだ。


 いや、静まり返ったなどという生やさしいものではない。法廷の空気は、明らかに凍りついていた。


 裁判官が小さく息を飲み、それから書記官は小さなため息をついて「なんてことだ」と呟き頭を振っている。

 ユウキに至っては、瞳をうるうとさせながらハルトを見ていた。


 奇妙な緊張。なにかおかしなことが起きている。


「ユウキ……?」


 ハルトはこんな状況だというのに、助けを求めるようにしてユウキを見つめていた。


「ちょっと……、ちょっと待って、ハルト。お前、パパに殴られたの?」


「えっ、でも時々だよ、虐待とかそんなじゃないよ」


「怪我は?」


「してない! してないよ、あれは躾の範囲! 叩かれたって言っても次の日には全然痛くなかったし!」


「頻度は?」


「え? わかんない。たまに」


「いつが最後?」


 矢継ぎ早に質問をされて混乱する。全員が何を問題視しているのか、ハルトにはわからなかったのだ。


「ええと、二年くらい前? ね、ねえ、本当に怪我とかはないんだって! 病院も絆創膏も必要がない程度だよ!」


 その返答にユウキがホッと息をつくのを感じた。


 なにか変だ。そう気づいたが、複数の犬たちが何やらとコソコソとした声で囁いているその内容は、ハルトには聞こえない。


「ユウキだって、ちょっとコツンってされたことくらいあるだろ?」


「ないよ。一度もない」


「え?」


 なんだって? ハルトは混乱した。


 ユウキは叩かれたことなど一度もないと言い切った。そんな馬鹿な、とハルトは考えたが、大人たちはいずれも深刻な顔をしており、ハルトは何かが起きている事実に、当事者であるにもかかわらず困惑をするしかない状況だ。


 ヒソヒソ、コソコソ。

 何が起きているのだろう。


「裁判長」


 誰かがそう言った。ユウキだった。この不気味な空気をなかったことにしてくれるのなら、なんでもよかった。


 ところが、ユウキの顔は酷く深刻で、またもやハルトの中で不安が立ち込める。

 それからユウキは裁判官に向き直り、やけにはっきりとした声で、「罪を認めます。私は争いません」と言ったのだ。


 その顔は、兄らしいものだった。群れの中の、自分より弱いものを守らなくてはならないと決意した顔。


「弟にこんなところで話をさせたくない……」


 ユウキが小さく呟いた。


 なし崩しのように裁判は閉廷された。

 ユウキは和解金として、「三ヶ月の間、サッカーボールをハルトに譲る」と約束をした。あれはいつも取り合いになるのだ。


 だが、ハルトは困惑していて、和解金のことなどに拘っている余裕がない。

 何が起きている? ユウキが落とされた混乱の渦は深くてそこが見えなかった。

 


 別室に移動するのと、首に赤のリボン、青いリボンをそれぞれつけた、二頭のボーダーコリーに出迎えられた。


「はじめまして、ハルトくん、ちょっとお話を聞かせてもらえるかな? 私たちはパピーちゃん見守り隊の者です」 

 犬の世界では、こういうことが決まるのが早いらしい。

 つまり今、ハルトが「パパに叩かれた」ということが問題視されているのだろう、と結論づけた。


「あの、僕大丈夫です。怒られた時叩かれただけで……」 

「そうね、うん、状況は聞いているわ。パパがその時なんて言ったか教えてくれる?」


「ええと、ユウキみたいな立派なプードルになれないぞ、って」


「うん、よくわかったわ。教えてくれてありがとう」


 青リボンと赤リボンが何やら話し合っている。


「プードル……、……、なのに?」


「そう、これは……、……よ、至急ママさんに連絡を……、」


「何を話しているんですか?」


 たまらず、ハルトは二頭に話しかけた。何やら重い空気——、よくないことが起きる空気があって、怖くなったのだ。


「ハルトくん、あなたはパパと暮らすべきではないのかもしれない」


 青リボンがハルトの前に座って言った。


「え? なぜですか?」


「パパはあなたに『立派なプードルになれ』と言ったのよね?」


「そうです……」


「ハルトくん、あなたはプードルになる必要はないの」


「え? いや、僕は将来兄と同じような立派なプードルに……、」


「なれないのよ、他の種類からプードルにはなれないの」


「……え?」


「ごめんね、びっくりしたでしょう? パパはあなたにずっと立派なプードルになれって言っていたのよね? それじゃあ急にこんなことを言われても怖いわよね」 


「プードルになる必要はない……?」


「そう、あなたはあなたのままでいいのよ」


「だめ、だめです! 俺はちゃんとプードルに……!」


 青いリボンのボーダーコリーがハルトの顔に自らのそれを押し付けた。グリグリとされる。これは安心させようとしてくれているのだろう。だが、ハルトの心臓はドキドキしていた。


 ハルトがプードルになれないとしたら、ユウキとの関係はどうなる? 兄弟ではなくなってしまうのだろうか? 

 不安で胸が潰れそうだ。


「俺は、俺は……、」


「落ち着いて、ハルトくん。あなたが今のままでも、ユウキくんがあなたのお兄ちゃんであることには変わりないのよ」


 心のうちを見透かされたような答えが返ってきた。


「ユウキと俺は兄弟のまま……?」


「そうよ。だから大丈夫。でも、パパとは少し距離をおいた方がいいかもしれないって、私たちパピーちゃん見守り隊は考えたの。どうかしら?」


「なんでですか? 俺が叩かれたから?」


「違うわ……、それだけではなくて……、パパはなんというか、」


「パパと離れたら、僕とユウキはどうなりますか!?」


「……ママと一緒に暮らすことになるかもしれないわ」


 ママとは数えるほどしか会ったことがない。

 とはいえ、パパもママと同じような状況ではある。

 同じ家に住んでいるのだからママよりは会うけれど、それでも日常会話はそう多くない淡白な間柄だ。


「このままパパと暮らすとどうなりますか?」


「それは……、私たちパピーちゃん見守り隊はおすすめしたくない選択なのだけど……、ハルトくんがどうしてもと言うのなら、その気持ちを尊重するしかないわ……」


 赤リボンが困った顔でハルトを見た。

 家に帰らせたくない。そう物語っている表情だ。


「ハルトくん、一度だけユウキくんと一緒にママのところに行ってみてはどうかしら?」


「……ママのところ?」


 ママには数えるほどしか会ったことがない。

 一応のところ、半年に一度は会っているけれど、ユウキと違ってハルトは、ママと一緒に過ごした期間がとても短い。その間の生活さえ、あまり記憶にない有様だ。

 ハルトにとってママはただ「知っている」だけの存在である。ママなのだと思えたことはほとんどなかったのだ。


 できればママのところにも行きたくはない。


 いつでも遊びにきてね、などとママは言っていたが暮らすとなると話は別だ。毎日のようにママと暮らす——、それには抵抗があった。


「ママは……、誰かと一緒に住んでいると聞いたことがあります……」


「あらそうなの、困ったわね……」


 パピーちゃん見守り隊の二頭は互いに顔を突き合わせてなにやら話し合っている。

 二十分が経った。


「私たちはやっぱりハルトくんとユウキくんをそのままパパのお家に返すことはできないと判断しました。一度、ママのところに顔を出してください。それでママとも話し合ってください」


 おや? とハルトは考えた。

 彼らはママのところまではついてこないらしい。


「私たちは一緒には行けないのよ。ほら、私たちって犬でしょ? 私たち、こうして日中に、飼い主がいない時にお仕事をしているから、夜までには帰らなきゃ行けないの」


 夜——、そうか、もう昼を過ぎているのだ。


「ハルト」


 ユウキが部屋に入ってきた。大丈夫か、とハルトを気遣うような顔をして、それからハルトを見上げた。

 だが、何も言わない。


「俺、俺……」


 大丈夫だ、と言うように、ユウキの前足がハルトに触れた。


 ユウキはパパがハルトに告げた言葉や行動に、とても困惑しているようだった。可哀想なことをしてしまった、と二頭のボーダーコリーと話しているのが聞こえた。


 ハルトはユウキが大事だ。そのユウキが困っていた。あれはきっと、ハルトが置かれた状況に困惑し、悩み、そして悲しんでいたのだ。

 これ以上、ハルトはユウキを——、お兄ちゃんを困らせたくはなかった。


「……僕、一度ママのところに行きます」


 そういうと、パピーちゃん見守り隊の二頭はほっとした顔をした。心なしか、ユウキの表情も和らいだように感じられた。


 ママの家までは、電車で三駅だ。少し遠い。


 ママは在宅ワーカーだとかで、常に家にいるらしいからいつ行っても大丈夫だろう。ママは、あまり人と会うのが好きではないようなのだ。ハルトとユウキと会う時も、個室のお店が殆どだ。


 いつでも遊びにきてね、という言葉を信じて、ハルトはユウキと共にママに会いに行くことにしたのであった。

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