表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第7話 仕事としての撃破

 低く、腹の底に響く唸り声が、旧採掘跡に満ちていた。


 キングオーガは、ゆっくりと立ち上がる。


 その動きだけで、空気が重くなる。

 周囲の小型魔物たちが、無意識に距離を取った。


(……圧が違う)


 単に大きいだけじゃない。

 長く生き残り、力を蓄え続けた個体。


 “群れの王”として、成立している。


 正面からぶつかれば、致命傷は一瞬だ。


 だが――


(正面から、やる理由もない)


 レインは、足音を殺して動いた。


     ◆


 キングオーガが、一歩踏み出す。


 それだけで、地面が沈む。


 咆哮が空気を震わせ、

 採掘跡に残っていた小石が跳ね上がった。


(……真正面は論外だ)


 レインは距離を保ったまま、

 視線だけで動きを追う。


 力は規格外。

 だが、身体が大きすぎる。


(振りが重い。切り返しが遅い)


 キングオーガの腕が、横薙ぎに振るわれる。


 岩壁が砕け、破片が飛ぶ。


 レインはすでに、そこにはいない。


 足を狙う。


 深くは切らない。

 避けられない角度で、確実に削る。


 怒号。

 踏み込み。


 だが、脚がわずかに流れた。


(……来る)


 次の一撃は、上段。


 全体重を乗せた、叩き潰す動き。


 レインは一瞬だけ、踏み込んだ。


 衝撃が落ちる“前”。


 懐に入る。


 剣を、突き立てる。


 硬い。

 だが、通る。


 急所を外さない。


 キングオーガの身体が、ぐらりと傾き――


 重たい音を立てて、崩れ落ちた。


     ◆


 沈黙。


 そして――


 周囲の魔物たちが、一斉に動いた。


 逃げる。

 散る。

 森へ、岩陰へ。


「……逃がさない」


 レインは、息を整える暇もなく動いた。


 数を減らす。

 痕跡を断つ。


 集められていた魔物は、

 “核”を失えば、ただの獣だ。


 それでも、残せばまた集まる。


 だから――


 徹底的に、潰す。


 時間はかかった。


 だが、陽が落ちる頃には、

 旧採掘跡に動く影はなくなっていた。


     ◆


 ギルドに戻ったのは、日没直前だった。


 血と土を落とし、最低限整える。


 そのまま、執務室へ。


「入れ」


 低く、岩を削るような声。


 ギルドマスター・ドランは、

 机に肘をついたまま、こちらを見た。


「終わったか、小僧」


「はい」


 地図を広げる。


「中心は、キングオーガでした。

 特別個体です」


「……ほぅ」


 太い眉が、わずかに動く。


「サイズも、筋力も、

 記録にねぇな」


「ええ。

 周囲は、オーク、ホブゴブリン、

 グレイウルフの混成でした」


「だから、まとまりが良すぎたってわけか」


 ドランは、腕を組む。


「被害は?」


「死者は出ていません。

 巣作りの初期段階でした」


「……運がいい」


 短く、そう言った。


「原因は?」


「街道の活性化と、放置されていた環境。

 そこに、特別個体が入り込んだ」


「珍しくはねぇが……

 面倒な兆候だな」


 ドランは、地図を見下ろしたまま唸る。


「対策案は?」


「三点。

 間引き範囲の再設定、

 巡回頻度の増加、

 報告系統の簡略化です」


「ふん……」


 しばらくの沈黙。


 やがて、ドランは立ち上がった。


「よし。

 この件は、俺が領主に直接持っていく」


「……自分も同行を?」


「いらん」


 即答だった。


「お前は今日は休め。

 よくやりゃあがったが、顔が死にかけだ」


「ですが――」


「仕事は分担だ、坊主」


 ドランは、口の端を少しだけ上げる。


「叩く役と、話す役。

 両方やろうとして潰れられちゃ困る」


「……分かりました」


「明日は、何事もなかった顔で来い。

 それが一番、周りを安心させる」


     ◆


 執務室を出ると、

 カウンターの向こうで、ミレイと目が合った。


「……終わった?」


「ああ」


「無事?」


「一応な」


 ミレイは、ほっと息を吐いたが、

 すぐに睨む。


「あとで話、聞くから」


「覚悟しておく」


     ◆


 ギルドを出ると、

 夜の空気がひんやりしていた。


 街は、今日も変わらず灯っている。


 だが――


(北は、動いてる)


 静かすぎるのが、逆に気になる。


 レインはそう判断しながら、

 孤児院への道を歩き出した。


 この街を守るために。


 そして――

 次の“仕事”に備えるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ