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第2話 生まれ育った街

 この世界には、魔物がいる。


 森や山に巣食い、ときに群れを成し、

 人の暮らしを脅かす存在だ。


 だからこの世界では、

 「魔物にどう対抗するか」が、

 人の営みの一部になっている。


 そして――

 それに応える力として存在するのが、魔力だった。


 生まれながらに魔力を持つ者。

 訓練によって扱えるようになる者。

 剣に乗せ、魔法として放ち、あるいは身体能力を底上げする。


 剣、魔法、技術。

 それらを組み合わせ、魔物と向き合う。


 それが、この世界の“当たり前”だ。


 前世の世界には、なかった概念。

 だが、レインはこの環境を嫌いではなかった。


(努力が、そのまま力になる世界だ)


 やった分だけ、結果が返ってくる。

 失敗しても、理由が分かる。

 積み上げれば、ちゃんと届く。


 だからだろう。

 最初は興味本位だった鍛錬が、

 いつの間にか日課になり、習慣になり、楽しみに変わっていた。


 気づけば、人より多くの時間を費やしていた。

 気づけば、人より先に、見える景色が増えていた。


 結果として――

 十八歳の今、レインは「かなりの実力者」と呼ばれる位置にいる。


 ――神童。


 そう呼ばれてきた十八年間だった。


 嫌な響きではない。

 だが、自分で選んだ呼び名でもなかった。


     ◆


 ルミナ王国。

 その中央北部に位置する、グレイ伯爵領。


 レインは、この領地の中心街で育った。


 昼過ぎ。

 馬車が止まり、地面に降り立つ。


 その瞬間、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。


 焼きパンの香ばしさ。

 乾燥肉の脂。

 露店から漂う、少し強めの香辛料。


「……あー」


 思わず、息を吸う。


「やっぱり、いいな」


 王都は整っていた。

 清潔で、洗練されていて、合理的。


 だが、この街は違う。


 少し雑で、少し不器用で、

 ところどころ足りない。


 それでも、人の気配が近い。


(俺は、こっちのほうが落ち着く)


 レインは十五歳になると、

 領主の推薦で王都教育院に通った。


 三年間。

 学びは多く、成果も十分だった。


 それでも――

 卒業後は、この街に戻ると、早い段階で決めていた。


 ここで、生きる。

 ここで、稼ぐ。

 ここで、始める。


 冒険者としての人生を。


     ◆


 街の入り口から少し歩いた場所。

 孤児院の門は、記憶のままだった。


 古い木製の扉。

 ところどころ削れた取っ手。

 きしむ音。


 門を押し開けた瞬間――

 子どもたちの声が、弾けた。


「……あ!」


「レイン兄ちゃんだ!」


「え、帰ってきたの!?」


 一斉に集まってくる。


 抱きつく子。

 半歩遅れて、照れたように立つ子。


「背、でっかくなってない?」


「王都で何食べてたの?」


「ちゃんと寝てた?」


「質問多いな」


 笑いながら、順番に頭を撫でる。


 前世を含めれば、精神年齢は彼らよりずっと上だ。

 それでも、この時間は心地いい。


 肩の力が抜ける。


「レイン」


 奥から、落ち着いた声。


 マリアが立っていた。


 一瞬、視線がレインの全身をなぞる。

 背丈。

 肩幅。

 立ち方。


「……大きくなったわね」


「三年も経てばな」


「体も、一回り以上」


 言葉は淡々としているのに、

 その目は、どこか安心したようだった。


「無理してない?」


「してない」


「ちゃんと食べてる?」


「食べてる」


 わざと、軽く答える。


 心配されているのは分かっている。

 でも、気を遣わせないのも、大事な役目だ。


 マリアは、母親代わりだった。

 そしてレインも、それを分かっている。


「はい、土産」


 包みを差し出す。


「王都の焼き菓子。

 ほっぺた落ちるから、気をつけろよ」


 子どもたちの目が、一斉に輝いた。


「今日は泊まっていくんでしょう?」


「いや、宿を――」


「泊っていきなさいよ」


 間髪入れず、マリアが言う。


「子どもたちも喜ぶし……

 私も、王都の話を聞きたい」


 一瞬、迷う。


 気を遣わせたくはなかった。

 だから宿を取るつもりだった。


 だが――


(好意を、ちゃんと受け取るのも大事か)


「……じゃあ、数日だけ」


「ええ」


 マリアが、ほっとしたように微笑んだ。


     ◆


 レインは身なりを整え、孤児院を出る。


 向かう先は、領主館。


 帰郷の挨拶。

 そして、これからの進路の報告。


 冒険者として、この街に戻ってきたことを告げるためだ。


 変わらない街並み。

 変わらない人々。


(……十八歳か)


 前世では、

 後悔の始まりだった年齢。


 だが今は違う。


 後悔しないために。

 そして――楽しむために。


 レインは、歩き慣れた街を歩き出した。


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