X8話「転生なんて」
小児性愛は犯罪だ。
これは世界の常識だ。
だったら十八歳の私が、三十五歳の少年に押し倒されている状況は、この世界で何と呼べばいいのだろう。
全てが許されてしまう、このおとぎのの国で。
「これは正しいことじゃない」
「何回目? 私から誘ったじゃん」
「それでもだよ、俺はまた間違えるんだ」
私を押し倒す少年の大きな瞳から、大粒の涙が溢れていた。
私のほっぺに落ちて、ゆっくり肌を伝う感触が生暖かくて、ひどく生々しい。
これはきっと間違いだ。
私より背の低い少年は、たしかに三十五歳の情けないおっさんのような、くたびれた声で泣いていた。
どう見ても、十二、三歳ぐらいの少年が、顔をくしゃくしゃにして泣いている姿なのに。
歪で、おかしくて、私は思わず噴き出してしまった。
「ふっ……」
「えっ、なに?」
「男って弱いんだね」
「女子が強すぎるだけだろ」
「そんな事ない、私だって泣くもん」
「知ってるよ。何回も見た。いざって時に強いなって言ってるんだ」
「今がそのいざって時なのに泣いてんの、ダサ」
「年取ると涙もろくなるんだよ……」
「それ、今言っても説得力ない」
「だから……転生、……」
少年は何か言おうと口を開いて、迷ったように目線を泳がせる。そして目を閉じてしまった。
ここから先は、私が口にしなきゃいけない。
「好き、だいすき、私の初恋。私の初めて。……私のヒーロー」
少年の首に腕を回して抱き寄せた。
子供の体温は高くて温かい。
ゼロ距離でとくとくと、速い心音が伝わってくる。
わかってる。
これはきっと間違いだ。
でもここは、おとぎの国だから。
法も倫理も常識も届かない場所だから。
今だけこの間違いを許して欲しい。
法でも倫理でも常識でもなく、私は私に許しを乞うた。




