借金まみれ剣聖は、パーティーを追放されそうでされない~俺のクレカはとっくに限度額だ。リボ払いにしても、もう遅い!!~
「剣士レイクよ!
お前には今日でこの勇者パーティーをやめてもらう!!」
町の酒場の一角で、勇者クリスの怒声が響いた。
「な、何故だ!?
俺は世界一の剣士で、これまでの戦いにだって貢献してきたはずだ!」
突然の追放宣言に愕然とした剣士レイクは、必死にその理由を問う。
「本当に……。
本当に理由が分からないのか!?」
勇者の後ろでは、二人の会話を仲間たちが見守っている。
怒りの表情なのが、大戦士のカンサイ。
呆れの表情なのが、大魔法使いのマジョリーナ。
心配そうな表情なのが、大聖女のキラリである。
「はっきり言わないと分からないようだな」
勇者はレイクの胸ぐらを乱暴につかんで、詰めよった。
「お前が……。
仲間をマルチに勧誘したからだよおおおおっ!!!」
「違う!!!
ネットワークビジネスだ!!!!」
「一緒だわ、この馬鹿!!!!」
やれやれと頭を押さえるマジョリーナの隣をすり抜けて、聖女キラリがレイクを庇うように前へ出た。
「勇者さま、お待ちください!
このビジネスは先進的なスキームで最高の未来にアジェンダする……」
「お前も洗脳済みかよ!
なんでこのパーティーは知的負債二人も抱えてんだよ!!」
「ええ加減にせい!!」
今まで黙っていた戦士カンサイも、堪えきれずに前へと進み出る。
「勇者パーティー宛に督促状が届いとるんや!
給料差し押さえ命令ってなんやねん!
自分、いったい幾ら借金しとるんや!!」
「リーフ会員からフラワー会員になるために、毎月100セットの奇跡の香水を売る必要があるんだ!!」
「せやから! 売れてへんから、自分で買い取って借金地獄なんやろが!
お馬鹿!!」
「俺のクレジットカードはとっくに限度額だ!
リボ払いにしても、もう遅い!」
「やかましいわ!!」
「大丈夫です、大戦士さま!
私のようにフルーツ会員まで昇格すれば、インセンティブで借金なんてすぐにペイ……」
「キラリは無駄に商才見せるのやめーや!
だから、この馬鹿が勘違いするんや!!」
「はいはい、もう止め!」
パンパン! と手を叩く音が響く。
収拾がつかなくなってきた大騒ぎに、大魔法使いマジョリーナがようやく立ち上がったのだ。
「まず、レイク!
貴方は問題を起こすの、これで何回目なの?」
「えっ!? 2回……いや、3回目……?」
「どれのこと言うてるんや」
「俺の知る限り、マルチはこれで5回目。
あとは情報商材に引っ掛かったのが4回、他には魔石掘りの副業、魔獣毛皮転売、それから幸福の壺……」
「勇者さま!
あの幸福の壺の効果は本物でしたよ!!」
「ややこしくなるから、キラリはちょっと黙っとき!!」
「ええっ、そんなに失敗してた!?
でも、どれも頑張れば、成功するチャンスは……!」
――バァン!!
マジョリーナが冷たい笑顔を浮かべたまま、酒屋の机を殴り付けた。全員黙った。
このパーティーで、彼女に逆らえる人間はいない。
「お、だ、ま、り!」
マジョリーナは、腕組みをしたまま声を張り上げる。
「レイク! キラリ! 正座!!」
「ひいっ……!?」
「はいっ……!!」
恐怖に促されて、レイクとキラリはその場で床に正座する。
「クリスも正座!!」
「なんで俺まで……!?」
「ついでよ!」
「理不尽!!」
しかしマジョリーナに逆らうのが怖いので、クリスもそのまま正座した。
「いい? 私たちはね、勇者パーティーなのよ?
ウィーアー勇者パーティー! オーケイ?」
「「「イエス!!」」」
「それが、やれ副業だ、やれ借金だと……。
体裁が悪いったらありゃしない!!」
「め、面目ない……」
「次に問題を起こしたら、レイクはパーティー追放だって決めていたはずよ!
ねえ、クリス?」
「そ、そうだそうだー!」
(あかん、完全に勇者が三下みたいになっとる……)
「つまり、これでレイクはパーティー脱退。慈悲は無し。
それで良いわよね?」
マジョリーナがそう言い放つと、レイクもキラリも、クリスまでもが黙り込んだ。
「……さあ、私たちはレイクなしでダンジョン攻略するための、作戦会議でも始めましょ!」
マジョリーナが会話を促すような言葉をかけても、誰も話さない。
「……」
長く続いた沈黙の後、そろそろと挙手したのは勇者クリスだった。
「あ、あの、マジョリーナ……?」
「なにかしら、クリス?」
「確かにレイクは何回言っても学習しないし、俺もほとほと怒り心頭なんだが……。
しかし考えてみれば、諸悪の根元は、詐偽まがいのマルチ組織の方じゃないだろうか!」
「……つまり?」
「つまり、その……。
詐偽組織を叩き潰せば、今回の失態も、帳消しになるんじゃないだろうか……!!」
「クリス!!」
クリスの言葉に、レイクが目を輝かせながら顔をあげた。
「なんという慈悲深いお心でしょう、勇者さま!!」
キラリも感動したように目を潤ませている。
「「……」」
一方、マジョリーナとカンサイは、その一連のやりとりを、生温かい目で見つめている。
「そうと決まったら、行こう! 今すぐ行こう!!」
「うおおお、ありがとう、クリス!!
やはり持つべきものは最高の仲間だ……!」
「私もお供いたしますわ!
幹部であるシャイン会員の集会所も知っています!」
「でかした、キラリ!!」
三人は、わちゃわちゃと酒場を出ていった。
後に残されたマジョリーナとカンサイは、深いため息をつきながら、互いに肩をすくめあう。
「よくない、よくないでぇ。
このやり取り、何回目やねん!」
「結局、クリスが甘やかすから、レイクもキラリも学習しないのよ!」
「借金は身内が肩代わりしても、繰り返されることが殆どや。
みんなも、覚えといてな。
大事な相手ほど、ときには突き放すことも必要なんやで」
「……誰に話してるのよ、カンサイ」
「なはは、ちょっとな!」
そのとき、一度閉まったはずの酒場の扉がゆっくりと開いた。
顔をひょっこり覗かせたのは、大聖女のキラリだ。
「あの……、お二人も、ご一緒してくださいませんか?
やっぱり5人パーティーじゃないと、落ち着かなくって。それに、」
キラリは清らかな笑みを浮かべながら告げた。
「神は仰っています。あの団体、相当に”貯め込んでいる”と」
「「……!!」」
その言葉を聞いて、マジョリーナとカンサイの目の色が変わる。
彼らは杖を持ち、グローブを握り締めた。
「はは、やっぱり仲間は大事やからなぁ! わいが助けてやらんとなぁ!!」
「さあ行くわよ!! 富も名誉も、全部回収してくれるわ!!」
「わーいっ! これでみんな、一緒ですねー!!」
そうして、勇者パーティーは全員が酒場を後にした。
彼らは後に魔王から世界を救うことになるのだが、それはまた別の話である。
この世界にはクレカもリボ払いもあるようです。
多分、魔法で、なんかいい感じにしてシステム構築しているんだと思います。
FXや仮想通貨も出そうとしたけど、流石に作者が正気に戻って思いとどまったようです。
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