エピローグ
体育館の片隅。観客に紛れ、帽子を目深にかぶった男が腕を組んでいた。――遥の父。
「……やるじゃないか!」
誇らしげな笑みを浮かべ、しかし声は届かぬよう小さく呟く。
――そのさらに離れた観客席
ひとつの青年らしき人物の人影が、じっとゲームを見つめていた。
しかしその表情は観客の熱気から切り離されたように静かで、誰もその存在に気づかない。
ユニフォーム姿の遥に視線を送り、唇をかすかに噛む。
拳は膝の上で固く握りしめられていた。
――まだ自分は、彼女の隣に立てていない。
だが、いつか必ずその場所にたどり着く。
胸の奥に宿る決意は、観客席のざわめきとは無縁に、静かに、しかし確かに燃え続けている。
――都内のとある撮影スタジオ
煌めく照明の下、早乙女美月はファッション雑誌の撮影に臨んでいた。
スポットライトを浴び、カメラの前でポーズを決める姿は完璧なモデルそのもの。
だが、その瞳はときおり遠くを見つめる。
(あの子……あの戦い……まだ胸の奥で響いてる)
思い出すのは、バーチャルのコートで共に汗を流した日々。
華やかなステージに立ちながらも、彼女の心はもう一つのステージ――VBLに帰っていく。
(私は――これからも、あそこで戦い続けたい。もっと強く、もっと自由に。ファッションも、バスケも、私の全部だから)
微笑んでシャッター音に応える美月の姿には、モデルとプレイヤー、二つの顔が確かに重なっていた。
――そして、海を越えて、遠く離れた、バスケットボールの本場/ NYC,USA
WVBLのスター選手たちが、にぎやかに集まっていた。
「おい、聞いたか?今度、WVBL主催で“3×3ワールドカップ”が開かれるらしい!」
「マジかよ!こりゃ、世界中のプレイヤーが集まるぞ!」
「日本にも、ちょっと面白い奴らがいるって噂だぜ?ま、ちっちゃい体でコートをちょこまかと走り回る事しかできない奴だろ。俺たちには遠く及ばねぇだろうけどな!」
爆笑と軽口が飛び交う中――ただ一人、黙って彼らを聞き流している影がいた。
目つきの鋭い男。腕を組み、遠い東の島国を思うように視線を伏せる。
(日本……JVBLの中には、俺が求めるプレイヤーがいるのだろうか?)
彼の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
新たなライバルの予感は、静かに、しかし確実に世界の舞台へと広がりつつあった。
――リアルとバーチャルが交差するコートには、次にどんなドラマが待っているか?
――V.B.Lの物語は、まだ始まったばかりだ。