0004 警討課の人間
次の日、マカ、ガーノ、スイの3人は、電車に乗り、魔獣に狙われている可能性のある村へと向かっていた。
しかし、3人のの周囲は、何やら不思議な雰囲気に包まれていた。無言で頬を膨らませているスイ。冷や汗をかいているマカ。そして、ガーノ。
「スイサン」
「…ん?」
「…ナンデモゴサイマセン」
マカがスイに声をかけたが、スイが睨むので、諦めてしまった。
それを横目で見ていたガーノは、呆れた様子で聞いた。
「なんで怒ってるんだよ。スイ」
「ガーにぃ。マカ今何徹目だと思う?」
ちょっと予想外な質問に戸惑いつつも、彼は答えた。
「…3?」
その回答はすぐさま否定された。
「6」
「2倍だったか…」
ガーノは悔しんだ。
「いや、寝ろよ」
が、気を取り直し、その驚異の数字にツッコミを入れた。
「だってぇ〜」
「ガキの言い訳か」
「うるせぇ」
ガキの喧嘩のような会話をしている2人にスイがまるでお母さんのように言った。
「今日ばかりは寝なさい」
もう、誰が大人か分からない。
「偵察は?」
「ガーにぃとスイで何とかする」
その迷いのない返答に、マカは少しホッとした。
そこで、ガーノの優しさが珍しく発動した。
「なんならここで寝るか?」
「無理。寝れん」
「なんでだよ」
「しゃーないじゃん。幾ら起きてても眠くならないんだもん」
それはマカ特有の体質であるから、2人には理解ができなかった。そもそも、彼女には睡眠という概念が、必要ないのである。
「だとしても寝ろよ」
それでも、ガーノは根気強く、睡眠をするよう伝えた。そのしつこさに諦めたのか、マカはついに宣言をした。
「……わかったよ。今日は寝る」
「ならいいが……」
その言葉の珍しさに、嘘かどうか疑ったが、ガーノは諦め、引き下がった。
「ガーにぃ、あと何分で着く?」
気を改めたスイは、目的の駅までの所要時間を聞いた。
「ん〜?」
ガーノはスマホに目線を落とした。
「15分程度だな。そっから徒歩だぞ」
「わかった」
「頼りになるねぇ。ガーノちゃんは」
マカは、ただ純粋に思ったことを伝えた。
「心のこもってない褒め言葉はいらねぇよ」
だが、ガーノはそれを軽くあしらった。それは、誰もが…少なくともこのふたりが、マカの言葉と考え方の大半が嘘であると知っているからの行為である。
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それから15分後。
《次は、○○。次は、○○。お出口は右側です。》
「降りるぞ」
「うん」
ガーノを先頭に、彼らは電車からホームへと降りた。そこでガーノが、マカの視線が、何かを見ていることに気が付いた。
「マカ?」
マカが見ていたのは、ホームと電車の堺。そこには3人以外誰もいない。
マカはガーノの問いかけに気がついていた。しかし、あえて間を開けて、こう言った。
「僕らでよかったかもね。ここへ来るの」
ガーノにはその言葉の意味がわからなかった。
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駅を出て少しした頃、3人は、山道を歩いていた。
「…ねぇ、こんな所に村があるの?」
少し不安になっていたスイは、2人に向かって疑問を投げかけた。
「あぁ」
「結構歩いたけど…」
「もうすぐだから、安心しろよ」
スイの疑問に答えたのはガーノだった。それに続けて、マカが気遣いを見せた。
「疲れたなら僕がおぶろうか?明日になってみぃはいったら大変だしね」
「ん?」
「は?」
ふたりは、その言葉の意味がわからなかった。【みぃが入る】あまり聞き馴染みのない言葉だ。意味がわからない。
マカは2人の反応を見て、自分の言った言葉を振り返った。そして、誤ちに気付き、カァっと顔を赤らめた。
「……ッ筋肉痛!あんまり無理して明日筋肉痛にでもなったら嫌でしょ!?」
それは必死の弁解だった。
「わかった。わかったから」
ガーノは焦ったマカを見てその物珍しさに笑みを零した。
「またに意味わかんないところで出るよね。方言」
スイは、マカの気の抜けた発言に、少し和んでいた。
「あー、無意識だった…」
マカは少し後悔した顔をした。
「…そういやマカ、あれどういう意味だ?」
「あれ?」
ガーノの唐突な疑問にマカは戸惑った。
「ここに来たのが俺たちでよかったって」
「あー…」
「どーいうこと?どーいうこと?」
「スイはすぐにガーノちゃんに便乗する〜」
マカは内心めんどくささを感じながら、説明を始めた。
「……まぁ、トキさんもダギさんもそれぞれの役割のために残ったでしょ?そうなると、行く可能性があったのは、4人中2人」
マカは右手の親指以外の指を全て立てて、4。その後、薬指と小指をおり、2を表した。
「僕は今回、何がなんでも行くつもりだったから……僕の相方が、アムンちゃんか、ミューだったかもしれない」
そこまで聞くと、2人にもこの先の話の予想ができた。
「アムンちゃんは…この環境で数日間過ごすことは、難しいと思う」
「なるほどな」
ガーノは納得の意を示した。
「じゃあ、ミューねぇは?」
スイはその先の説明を求めた。
「ミューは、この状況下ではかなり有利になるだろうね。だからこそ、あいつは無茶するから、四六時中ピリピリしてると思う」
マカは眉を下げ、うっすらと呆れたような笑顔を浮かべた。
「だから僕らでよかったんだよ」
彼女の目は、間違えなくスイを捉えていた。
「まぁ…スイがいるけど。いや、居てくれるからかな。結構僕らは呑気だからね」
スイはようやく納得した。
「まぁ、それもそうだね。こういう任務で暇持て余せる人なんて、そうそういないし」
「うん」
マカは眉を下げ、少し気恥しそうに頷いた。
「まぁ、あとは…」
マカはガーノを目で捉えた。
「ガーノちゃんの気晴らしもあると思うよ」
「!……だからミューは俺を」
彼は目を見開いた。そして首を傾け、空を仰いだ。
「いつもは、結構嫌がってたしな。誰かがマカと任務に同行するの」
「そうなの?」
「そうだぜ」
意外そうな顔をするマカにガーノが答え、スイが少し茶化した。
「マカって自分のことになると鈍るよね」
「そんなの誰でもそうだろう?実際、今のガーノちゃんにも言えることだ」
「確かに…」
「あんま納得すんなって」
まるで普段と変わらない会話。だからこそ、彼らはそこにいる。改めて彼らはそれを自覚した。
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「家が見えるね。あれが例の村かな?」
あれから少し歩くと、木造の家が並んでいるのが見えた。
「そうだな」
「…まあまあおっきそうだね」
想像よりも栄えていそうな村。スイはその様子に感嘆した。
「ひとまず宿行こうぜ?」
「あぁ」
彼らは再び歩みをすすめた。
「結構人がいるな」
「だいたい平気レベルは4ぐらい?」
「そうだね」
村には軽く武装した人達が10人近くいた。
村へ入れる公道はひとつしかなく、村への入口には大きなアーチ状の門が建っていた。
門をくぐろうとしたとき、武装した1人に声をかけられた。
「身分を証明できる物はあるか?」
3人はその声に気づき、足を止めた。そしてガーノは喧嘩腰に聞き返した。
「あ?なんでんなもん…」
「あぁ…君、警察の警討課か」
ガーノの言葉を遮るようにして、マカが言った。
彼は警察の制服を身にまとい、被っていた帽子を深く被った。
「…確かに、私の身分を言わねばフェアではなかったか。そこの黒髪が言った通り、私は警討課の人間だ。」
「黒髪…」
マカはそう呟いた。初めてそんな風に呼ばれたのだ。
彼は警察手帳を見せながら名乗った。
「岩橋 圭と言う」
警討課
知ってのとおり、警察には元々各部署が存在する。警討課は22年前に初めて作られた。魔獣に対抗できる戦闘能力をもつ警察官である。
「岩橋圭…」
再び、マカは呟いた。
その声を掻き消すようにガーノがめんどくさそうな顔をして言った。
「巡査部長かよ」
「すごいの?」
スイは聞き馴染みの無い言葉について、聞き返した。
「下から3番目」
「んー?」
ガーノの端的かつ、ちょっとよく分からない、なんなら貶していそうな説明にスイは首を傾けた。
「僕らはフェアリーサンの者です」
そんなふたりを無視して、身分証を提示する。
「話なら、そちらの“警部補”に許可とってると思うんで」
「アカネ警部補か?」
「はい」
マカはまるで作り物のような笑顔を浮かべた。
「確かに報告は受けている。立ち入りを許可しよう」
「ありがとうございます」
マカは一礼した後、すぐに門を潜ろうとした。が、その行為を止めるように、ガーノが口を開いた。
「一応ひとつ。いやふたつ聞かせてくれ」
その目は、確実に岩橋を見ていた。
「なんだ」
「まず、この討伐情報を流したのは誰だかわかるか?」
「いや、匿名の通報だ」
「じゃあ次…」
案外すんなりと教えてくれたため、ガーノはあまり躊躇をせず、次の質問をした。
「あんたの加護はなんだ?」
岩橋は少し黙った。マカも、スイも黙っていた。ガーノはまっすぐ、岩橋の目を見ている。岩橋はゆっくりと目を閉じ、覚悟を決めたように目を開けた。
「決断の加護だ」
「そうか。ありがとうな」
彼らは門を潜り、村の宿まで歩いた。
彼に声が聞こえないぐらいまで歩き、口を開いた。
「内容は?」
ガーノはマカを横目で見た。
「ある行動について、正しいか正しくないかわかる」
「なるほど。今俺らに言ったのは、正しいと“決断”したってことか」
「だろうね」
その様子を見ていたスイは、少し頬をふくらませた。
「ガーにぃも酷いよね。あの場で岩橋さんが答えても答えなくても、関係ないのに」
「本人が言えるかどうかも重要なことだろ?」
「そうなの?」
スイは首を傾けた。
「ああ、お前も大人になれば………」
「ちょっと、早く宿行こう?」
その言葉を遮るように、マカは2人を急かした。そこで、ガーノは自分の過ちに気がついた。
「…そうだな」
「うん」
3人は宿に向かった。
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『一部屋しか空いてない??』
村の宿で、2人の声が重なった。
「はい、討伐情報の影響で予約が殺到していて」
受付の女性は、何一つ顔色を変えずに、説明をした。
「…ボスからは?」
マカはガーノにしか聞こえないようにして言った。
「予約入れ忘れたっぽいな」
「はぁ……あの人も忙しいのはわかるけどさぁ〜」
マカは明らか嫌そうな顔をした。
「……この村に宿はここしかないんですか?」
スイが身を乗り出し、受付の女性に聞いた。
「はい」
女性は顔色ひとつ変えずに、平然と返事をした。
「…じゃあ、仕方ないんじゃない?」
マカは、スイを見つめ、その後、ガーノを見た。そして、ひとつため息をついた。
「……わかった、泊まります。いいよね?ガーノちゃん」
「…あぁ」
ガーノは自分に話が振られるとは思わず、ギョッとした。
「かしこまりました。鍵をどうぞ」
「ありがとう」
マカは女性から鍵を受け取り、歩き出した。
「行くよ」
「うん」
スイはそれに返事をし、あとを追ったが、ガーノは無言で後ろを歩いた。
なぜなら、ガーノは緊迫していたからだ。
(バレてねぇ……よな?)
彼はマカの顔色を伺った。しかし、特に変わっている様子はない。いつも通りのマカだ。
(あえてボスに、“今回は予約とんなくていい”って言っておいてよかったぜ)
どうやら、ガーノの計らいだったようだ。
(マカが気になることがあるって言う時は、大ッ体、スイでも歯止めが効かなくなるからな)
それは、彼女と長年一緒に過ごした、理解者ならではの思考だろう。他の人だったら、彼女の第六感に全てを委ねていただろうから。
(なら、力ずくでも俺が…)
“止める”。そう彼は思った。しかし、その思考は、誰かの呼びかけによって遮られた。
「ガーにぃ」
ガーノは驚いたが、すぐに、反応をした。
「…なんだ?スイ」
スイはとても小さな声でガーノに向けて言った。
「演技、上手くなったね」
「お、おう」
ガーノは驚いた。そして、ひとつの疑問を浮かべた。
(スイ……だよな…?)
圭くーん!!
かっこいいよ〜!!
どうも、岩橋圭愛好家(?)、根来琴葉です。
今回も要素の説明をいたします。どうぞ。
加護
この世界で能力に当たるもの。所有者は少ない。加護を得るのにも条件が3つあり、岩橋圭の場合、その条件の中のひとつ、『和名(漢字表記の名前)があること』に当てはまり、加護を得た。加護は無数にあり、その全ての加護を扱える特例も存在すると言われている。加護はレベルに反映されないため、岩橋圭のレベルは3である。
加護を持っているキャラは今後も登場します。ちなみに、逆に言うと漢字表記がある人は皆、加護を持っているということになります。
25年前、世界に扉ができた時、世界の加護という現象が地球にも反映し、日本人は加護を持ち、扱うことに苦難を強いられたと言います。それこそ、魔獣の襲撃とはまた異なる混沌を生み出したのでしょうね。
ちなみに、マカちゃんは当時から地球にいるので、彼女に聞いてみるのも一つの手かと…
なんなら聞いてみるか?
「は?」
え?
「いやいやいや、勝手に僕を巻き込むなよ。」
なんやかんやで来てくれるマカちゃん好き。てか、呼んでないし。
まあ、ここに来たってことは教えてくれるってことだよね?
「…あの時は全部が全部ぐちゃぐちゃだったからね。魔獣の異常な暴走と、加護を得た日本人達の暴走……色々と対処すべきものが多くて…」
大変そうっすね。
「それにアイツも……」
マカちゃん?
「………もういい?」
おん。ありがと。
貴重な話が聞けたということで、以上。おつコレ〜!




