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☾ 08:もう一つの家族

◤ さてさて、地球でのリリア゠セリュージュは、その後どうなっていたのでしょうか……? 赤い服の男性を倒した直後、彼女に向けられていたモノとは……? ◢


 なっ、なんだ……!?


 地球人たちは、何を私に向けている……?


 ケンカの現場から立ち去ろうとする私に、皆が一様に手のひら大の機器を私に向けていた。


「リ、リクス、あれは何なの……?」


「スマートフォン、一般的にはスマホと呼ばれているようです。——とりあえず、この場を去りましょう梨里杏様」


 リクスに言われるがまま、急いでその場から立ち去った。背中から聞こえた、「かっこいい!」という言葉は、私に向けてのものだったのだろうか。



「——で? そのスマホってやつは何なの」


「簡単に言えば、私の下位互換のようなものです」


 下位互換……? リクスみたいなものまであるなんて、ますます地球はエルデリアと変わらないのでは……? 本当は地球の方が進んでるんじゃないかと、思い始めている私。


「で、アンタの下位互換は何をしてたのよ。ずっと私の方を向いてたけど」


「梨里杏様を撮影していたようですね。エルデリアでいう、録視術(ろくしじゅつ)のようなものです」


「わっ、私を撮影してたっていうの!? 私なんて撮ってどうするのよ!?」


「私もまだ、その辺りの地球人の考え・行動心理は分かりません。現在、Wi-Fiとやらに接続して、こちらの情報を集めている最中ですので」


「——って言うかさ。アンタ、録視術なんて使えないじゃん。スマホはアンタの下位互換どころか、上位互換なんじゃないの?」


 そう言うと、リクスはスピンで私の指を締め上げてきた。


 こ、こいつ……いつか、古本屋に売り飛ばしてやろうか……



***



「のど乾いたね。——もう、そろそろ? お母様の家は」


「はい。ここから二つ目の角を右に曲がった先が、お母様のご自宅になります」


 宿場の近くと違って、パタリと人通りが少なくなった。だが、この辺りの建物は大きなものばかりだ。もしかして、お母様の家も同じような造りなのかもしれない。



「梨里杏様、こちらがお母様のご自宅になります」


 おお……


 お母様の家も、少々古めかしいとはいえ豪邸だった。その豪邸をゆっくりと見上げる。1,2,3,4……5階建てなのか。貴族だった私の家でも、3階建てだったというのに。


「梨里杏様。先に言っておきますが、こちらは集合住宅といって、お母様のご自宅は3階にある3号室になりま——」


「しっ、知ってるわよ! そんな事!!」


 私は閉じたリクスと共に、3階へと階段を上がっていった。




 「SAKURAI」と書かれたプレートが吊り下げられているドア。こっちでの私の名前は桜井梨里杏。きっとここが、お母様のご自宅だ。


 今日は土曜日。多分、お母様は家にいるはず。曜日や時間、季節に至るまで、地球とエルデリアはリンクしているとお父様は言っていた。


 目の前にあるインターホンとやらのボタンを押せば、私が来たことをお母様に知らせることが出来るという。


 なのに私はそれを押せず、ずっと突っ立っていた。


「梨里杏様……押さないと、何も始まりませんよ」


 分かってる……でも、私が来るっていうことは、今までいた梨里杏がいないとお母様は気付くはずだ。


 きっと、悲しむだろう。いや、怒られるかもしれない……



 ピンポーン——


「リッ、リクス!」


 リクスがスピンを使って、インターホンを押してしまった。ドアの向こう側から、歩いてくる音が聞こえる……お、お母様が来てしまう……


「——どちらさまですか?」


「リ……リリアです……」


「もう、何で自分で開けて入ってこない——」


 お母様はドアを半分開けた所で止まってしまった。瞬きを忘れたかのように、私を見ている。


「リ、リリア……? もしかして、リリア゠セリュージュなの……?」


 私は目を伏せたまま、コクリと頭を下げた。



***



「リアノスは元気?」


「は、はい、お母様。お父様も元気です」


「リリア、私はあなたのお母さんよ。敬語なんて使わなくていい。それと、お母様って呼ばれるのもくすぐったいわ。私は普通に、お母さんでいい」


「は、はい……あっ」


 お母さんはフフッと笑うと、「コーヒーは飲める?」と聞いて、キッチンへと立った。私は今、リビングの椅子に掛けている。


 とても小さなリビング。だけどとても清潔で、品の良い雑貨が散りばめられている。


「どうぞ……リアノスは猫舌だったけど、あなたは大丈夫?」


「うん、私は大丈夫。熱いものは平気。——それより、お母さん。私がここに来ることは知っていたの?」


「もちろん、知らないわよ。——でもね。いつかは、そうなるかもしれないとは思ってた。あなたと違って、こっちにいた梨里杏は魔法を使えたから。リアノスがなんとかして、いつか2人を入れ替えるんじゃないかって。——まさか、大人になってからだとは思わなかったけどね」


 隣に座ったお母さんは、そう言って小さく笑った。


 お父様が勝手にやったこと、お母さんは怒っていないのだろうか。ここにいた梨里杏がいなくなって、寂しくないのだろうか。


「お、お母さん……私がここに来たってことは、梨里杏がいなくなったってことは分かってるんだよね? 次はいつ会えるか分からないよ? もしかしたら、ずっと会えないかもしれない。——怒ってないの? 私やお父様に?」


「あなたは……リリアは望んでここにやってきたの?」


 まだお母さんには言ってないけど、私と梨里杏が入れ替わらなきゃいけなかった理由はちゃんとある。でも、もしそれが無ければ……私だって……


「わっ、分からない……」


「——そうでしょ。あなたが気を使う必要なんて、少しもないの。あとね。深い理由もなく、こんなタイミングであなたちを入れ替えるなんて、あの人がするわけがないもの。——そうよね、リリア?」


 涙が溢れ出した私は、返事が出来ずコクコクと頭を下げる。


「私やリアノスは、親戚だって友人だって近くにいるじゃない。今この世で、一番寂しい思いをしているのは、あなたと梨里杏。そうじゃない? ——そんなあなたたちを、誰が怒れるって言うんですか」


 声を上げて泣き出した私を、お母さんはそっと抱きしめてくれた。

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