⚜️ 06:残るは、あと一人
「だっ、大丈夫!?」
目の前で倒れてしまったジルハートの肩を掴んで、私は叫んだ。
「しゅ、瞬間移動なんて使ったら、こうなるって分かるだろ……それよりさっさと棄権しろ……また来るぞアイツは」
「なっ、なんで!? 魔力の強い人から襲ってくるんじゃなかったの?」
「いや……アルフィナが何かしてやがる……多分、アイツ以外にノルドが向かうよう仕向けてるんだろ……」
「ア、アルフィナって、どの人!?」
「じょ、冗談はいい加減にしろ、リリア……それより、さっさとここを出ろ……」
何故だか分からないが、無性に腹が立ってきた。
なんで私は異世界に飛ばされて、どうして死ぬかもしれない試験なんて受けているんだ……しかも、合格してこいと言われたと思ったら、今度は逃げろって……
さっきまで感じていた恐怖より、腹立たしさが上回った。
「あなたは!? またノルドが来ても、大丈夫なの?」
「一応、策はある……最悪の事態になったときは、なんとか柵外に瞬間移動するよ……数日は動けなくなるだろうけどな……」
私はジルハートを置き去り、人が集まっている場所へと駆けだした。何の取り柄もない私だが、足だけは速い。体育祭でも陸上部の子に負けなかったくらいだ。
それはそうと、アルフィナっていう人がノルドを操れるなら、アルフィナの側にいれば私も襲われない可能性が高い。
どの人がアルフィナ……?
その間にもまた一人、血祭りに上げられた。残り人数は既に半分以下になっている。私がアルフィナの側にずっといられたなら、最後の3人に残れるかもしれない……
ノルドは再び、人集りの中へと突っ込んでゆく。次のターゲットは、紺色のローブを着た女の子。
あっ——
ノルドが彼女へ向かって駆け出した瞬間、ノルドは方向を変えた。
きっと、彼女がアルフィナだ。
「お前も気付いたのか、リリア」
アルフィナの側に行くと、ガタイの良い金髪の男が声をかけてきた。どうやら彼も、アルフィナのしている事に気付いているらしい。その彼の後ろには、小柄な銀髪の男子もいる。
「なっ、何よ、アンタたち! 金魚のフンみたいでイラつくわねっ! 特にリリアなんて、自分では何も出来ないクセに!!」
そう言ったアルフィナは、肩で息をしていた。ジルハートが瞬間移動で倒れてしまったように、魔法というのはかなりの体力を使うようだ。
アルフィナの代わりにターゲットとなった男子は、ノルドに対して激しい炎を浴びせかけた。だが、ノルドは火だるまになりながらも、彼の身体を宙に放り上げてしまった。
これで、残るは7人——
アルフィナ周りにいる私含む4人と、ジルハート、そして残りの2人。ジルハートは棄権扱いにならないようにか、片膝を付けてなんとか体を起こしている。そして、残る2人もアルフィナの魔法に気付いたのか、こちらへと駆けてきた。
「くっ、くそっ! 何も出来ないくせに、そういう事だけは頭が回るんだな、アンタたちは!!」
そう叫ぶアルフィナに、またしてもノルドが突進してきた。
「アルフィナさん、あなたは魔力を抑えることが出来ないのか!?」
「ど、どういう意味だ、エイルッ!?」
「この中で、今はあなたの魔力が一番高いってことです。ジルハートさんは既に、自身の魔力を抑えている」
小柄な銀髪の男子、エイルとやらはそう言った。
魔力を抑える……? 一体、どういう意味……?
「そっ、そういうことは、もっと早く言えよ!!」
アルフィナはそう叫びながら、ノルドに対し両手を向けた。だが、既に魔力の限界だったのか、ノルドの進行方向を少しずらすだけにとどまってしまった。
アルフィナはノルドの鉤爪をギリギリ躱すことが出来たものの、返す手の甲で激しく殴り飛ばされた。
「アルフィナさんっ!!」
エイルがアルフィナの元へと駆けていく。エイルはまだ、アルフィナの魔法に期待しているのだろうか。私はどうしていいのか分からず、気づけばエイルの後を追っていた。その間にも、ノルドは金髪の男子へと鉤爪を振りかざしている。
「エ、エイル……どうして……」
エイルは倒れたアルフィナの胸に手を当て、その手の平から青白い光を発していた。
「今まであなたのお陰で、魔力を使わず逃げ切っていたのです。これくらいはお返ししないと。——もちろん分かってるとは思いますが、治るのは身体だけです。体力は、わずかしか回復しませんよ」
そう言われたアルフィナは、よろよろと立ち上がった。金髪の男子を倒したノルドは、残った2人に襲いかかっている。彼らもきっと、何も出来ず倒されてしまうことだろう。
残るは4人——
そして、脱落者となるのは、あと1人——