⚜️ 44:告白
とっぷりと日は暮れ、満天の星空が輝いている。ピエトラの村民たちによる歓迎会を終えた今、アーシェルを除いた4人で卓を囲んでいる。ちなみにアーシェルは、別の卓でピエトラの村長と話をしているようだ。
「それにしても、こんな小さな村に青目を倒せる人がいたなんてな……」
「ホントそう。——どうして、その人たちは選律の儀を受けなかったのかしら」
「それは流石に人それぞれだ、アルフィナ。——しかしまあ、世の中には凄い人がまだまだいるんだな。俺なんて所詮、井の中の蛙だったってことだ」
ジルハートはそう言って、大きなため息をついた。
「何を言うんです、ジルハートさん。アルクさんとイリスさんは私が知っている中でも、飛び抜けて実力を持っていた方たちです。あんな方々、そうそういるわけじゃありません」
「ありがとう、エイル。ところで、その……彼らはどうやって青目を倒したのだろう。イリスさんが亡くなっていることもあって、聞けずじまいになっていたんだが」
「彼らはペアになって、魔法を使うことが常でした。例えばイリスさんがターゲットを動けなくし、アルクさんが圧迫させる、もしくは引きちぎるなどです。アルクさんは見た目通りのパワー系の魔法、逆にイリスさんは技巧派でした。イリスさんに回復系の魔法を教えたのは私だったのですが、とても飲み込みが早かったのを覚えています」
そう言ったエイルの隣に、一人の男がドカッと腰を下ろした。40歳前後だろうか、少々酔っているように見える。
「すまんが今の話、小耳に挟ませてもらったよ。彼らのことをよく知っているようだね……服装からして白祈院の方かい?」
「は、はい……白祈院のエイルと申します」
「ああ、やはりそうか。——それで、彼らがどうやってマナトゥムを倒したかということだが、まさにあなたが言っていたとおりだ。イリスがマナトゥムの動きを封じ込め、アルクが圧迫するという形だ。——だが、アルクがどれだけ力を加えようが、マナトゥムの破壊には至らなかった。破壊どころか、奴は彼らを煽りだした。『お前たちの魔法はそんなものか』と」
いかにも青目が言いそうなことだ。どうやら、彼らの性格は共通しているらしい。
「——それでは、別の方法で倒されたのですか?」
「いや……イリスはその時すでに、気付いていたと思う。奴への魔法を一度解いてしまうと、二度と動きを封じ込めることは出来ないと。だから彼女は叫んだんだ——」
そう言った男性が言葉に詰まる。その口元が、ワナワナと震えだした。
「アルク、全力で押しつぶして、と。アルクの力が足りないんじゃない。全力を出すと、向かいにいるイリスも潰れてしまうことをアルクは分かっていたんだ」
私たち全員が言葉を失った。私たちはただ、彼の言葉の続きを待つ。
「もちろん、アルクにそんなことが出来るはずはない。そんな緊張状態が続く中、再びイリスが叫んだんだ。ここで倒さないと、全員が死ぬことになると。私一人の命と、ピエトラの人たちの命。比べるまでもないじゃないかと。——確か、そんな事を言ったよ、彼女は」
彼の話に、皆が泣いていた。今まで涙を見せなかったジルハートとエイルの頬にも涙が伝っている。
「イリスの腕は遠目に見てもガタガタと震えていて、限界はすぐそこにまで迫っていた。アルクは最後、大声で何かを叫びながらマナトゥムを押しつぶしたよ……イリスと一緒に……」
我慢の限界だったのか、アルフィナは声を上げて泣き始めた。
「アタシ……アタシたちが、もっ、もっと早く来ていたら、少しは違ったかもしれないのに……」
ヒックヒックとしゃくりあげるアルフィナの背中を、ジルハートが優しくさする。
「あなたたちは、無傷であのマナトゥムを倒したそうじゃないか。次の犠牲者を出さないためにも、こうやって他の村にも訪れてやってくれないか。そうすればきっと、イリスも喜んでくれると思う」
その男性の言葉に、私たちは涙ながらに頷いた。
***
「そんなことがあったのですね、リリア様……」
私は一人、川のほとりに腰を掛けリルスと話をしている。ピエトラ村を横切るこの川には、満天の星空が映り込んでいた。
「私……もしかして、こっちの世界で死んじゃったりするのかな……」
「リ、リリア様……滅相なことを仰らないでください……リリア様の強力な魔力はもちろん、お仲間だって相当なものです。そう簡単に——」
「ここにいたのか、リリア」
その声に振り返ると、アーシェルが立っていた。私は慌ててリルスを閉じると、ギュッと胸にかかえた。
「ア、アーシェル……村長さんとのお話は終わったの?」
「ああ、たった今ね。——隣に座ってもいいかい?」
私は「もちろん」と言って、少しだけ背筋を伸ばした。
隣りに座ったアーシェル——
どれくらいの時間が経ったのだろう……そう思った時、彼はポツリポツリと話し始めた。
「フィオリ村での出来事なんだが……僕はあの日初めて、死ぬかもしれないと恐怖したんだ」
アーシェルに顔を向けると、彼もゆっくりと私に視線を向けた。そして軽く微笑むと、また前を見て話しだした。
「だから……予定を繰り上げて、早めにキミに伝えておきたいと思う。——選律の儀で用意した、マナトゥムのノルド。奴が何故、あんな仕様になっていたか分かるかい?」
ノルドの仕様……人型じゃなかったってこと……? いやきっと、そんなことじゃないはずだ。
私が首を横に振ると、アーシェルは「そうか」と微笑んだ。
「ノルドが魔力を感知して、攻撃をしていたことはキミも憶えていると思う。——つまり、キミには絶対に最後まで残ってもらうつもりだったんだ。だが驚いたことに、キミは予想もしなかった残り方をしたけどね」
アーシェルは川面を見つめながら、そう言った。




