☾ 30:地球はどう?
◤ 大学のボクシングサークルで、凛太郎に勝利した梨里杏。しかし梨里杏の心は、決して晴れやかなものでは無かった…… ◢
「ただいま」
「おかえり、梨里杏。見たわよ、ボクシングの試合!」
ああ……そう言えば萌が、お母さんにも送っておいたって言ってたっけ。お母さんにも凛太郎の左目は、殆ど見えていないことを話した。
「そうだったんだ……」
お母さんはそう言って間を置くと、大学はどうだったかと聞いてきた。
「お母さんが心配してくれてたのがよく分かった。ビックリするくらい、ついていけなかった」
「だよね……まあ、仕方ないよ。——時間はたっぷりあるし、辞めるも辞めないも、じっくり考えたらいいんじゃないかな」
お母さんはそう言って席を立った。きっと、コーヒーを入れてくれるんだと思う。
「お母さん……話変わっちゃうんだけど、ちょっと聞いていい?」
「どうしたの、改まって。当たり前じゃない、なあに?」
「こっち……地球で何か、おかしなことって起き出したりしてる? 具体的に言うと、ここ二十年くらいで」
私がそう言うと、お母さんは腕を組んで首を傾げた。
「その前に、どうしてあなたがそんな質問をするのか聞かせてくれる? どうせ、リアノスが関係してるんでしょ?」
さすがお母さん、すぐに分かっちゃうんだ——
本当は地球に着いてすぐ、聞かなきゃと思っていたことだ。だが、地球はあまりにも平和で、ついつい先延ばしにしてしまっていた。
「うん……実はエルデリアではここ最近、少しずつおかしな事が起きていて。——お母さんは、マナトゥムって聞いたことある?」
「マナトゥム……? ああ、前世界のエルデリアを滅ぼしたっていうロボットだっけ? まるで、映画やアニメのお話みたいだねって、リアノスに言ったのを憶えてるわ。——もしかして、それが出てきたの?」
「うん……遠く離れた場所の話なんで、まだハッキリとは分かってないんだけど。特徴からして、マナトゥムじゃないかって」
「エルデリアって、通信に関しては全然遅れてるって話だったもんね……それより、リアノスはあの子にそれを倒させようと思ってるのかしら……」
お母さんの表情が険しくなった。急にエルデリアに飛ばされて、そんな大役を押し付けられたとしたら、お母さんが怒るのも無理はない。
「い……一応、前にも言ったけど、私たちを入れ替えた理由は、地球とエルデリアの接近を防ぐためで……」
「あ。ごめんね梨里杏、気にさせてしまったみたいで。——あ、そうそう。最初の質問に答えなきゃね。ここ二十年ほどで、地球で悪くなってきたことか……」
お母さんは「うーん」と考え込んでしまった。すぐに思い当たらないのであれば、これといったトラブルはないのかもしれない。
「あ! あったあった、少し不思議なことが。ちょうど二十年前くらいからなのよ、オリンピックなんかの記録が伸びなくなったのは。スポーツの技術も格段に進化してるってのに、何故伸びないんだろう、不思議だよねって話で」
お母さんが言うには、伸びなくなっているのは特定の競技だけではないという。陸上や水泳、どの分野に至っても、一様に記録が伸びなくなっているらしい。
その後、気になってネットで色々と調べてみた。
やはりお母さんが言うように、ちょうど二十年程前から記録が伸びなくなっているようだ。それに関連して、平均身長が下がってきていたり、寿命が頭打ちしているというような記事も出てきた。
お父様が地球へのゲートを開けたのが、二十二年ほど前。そこから全てが、悪い方向へ進んでいるのかもしれない。
***
お風呂から上がってスマホを見ると、いくつかメッセージが届いていた。
大学の楓と、ボクシングサークルの村瀬、そして凛太郎からも届いている。凛太郎とはID交換してなかったはずだけど……村瀬が教えたのだろうか。
楓は「SNSでボクシング見たよ!」という、連絡だった。適当なスタンプを返しておいた。
村瀬からは「焼肉いつがいい?」というメッセージ。ある程度、凛太郎と日にちを決めてくれればいいとも書いてある。だから、凛太郎に私のIDを教えたのだろう。
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藤森凛太郎です。
俺もいつかはSNSでバズってみたいとは思ってたけど、想定外のバズり方して戸惑ってます。友達からは、めちゃくちゃ連絡くるし……
で、村瀬さんから焼肉の日聞かれてたんで、メッセージしました。
俺は大体ヒマなんで、そっちがいい日教えてくれたら。
あと、ここの焼肉めっちゃ美味いから、腹減らして来たほうがいいよ。
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焼肉か……
こっちに来てから外食なんて、お母さんと萌としか行ったことがない。少し楽しみでもあり、ちょっと緊張しそうでもある。
それにしても、エルデリアでは緊張が高まりつつあるなか、私はこんなフワフワとした生活をしていていいのだろうか——
そっ、そうだ! 大学の件、萌に連絡入れなきゃ!




