⚜️ 29:モエという仲間
私たちは新たな仲間、“モエ”と共に馬車の元へと移動している。誰もがモエに興味津々だったが、中でもアーシェルはモエの側から離れようとしなかった。
「モエ、可動部などに問題はないか?」
「動イテイナイ時間ガ長カッタノデ、ヤハリ各関節ガ、キシムヨウデス。ソレ以外ハ、ホボホボ正常ダト思ワレマス」
「やはりそうか。馬車に戻ったら、一度メンテナンスしてやろう。マナトゥムの整備工具はあらかた積んであるからな。——あと、どうして今回に限ってキミは動いたんだ? 僕は何度か訪れていたが、こんなことは今までになかった」
そんな具合に、アーシェルはモエを質問攻めにした——
◆ モエへの質問と回答はこんな感じだ。
◇ なぜ、今回に限って動いた?:私のマナに反応した
◇ 他のマナトゥムの生死は?:生きていればマナに反応したはず
◇ モエがいた場所はどこ?:出荷前の倉庫だと思われる
◇ モエは旧型のマナトゥム?:モエ自身は最新型だと思っている
◇ マナトゥムの反乱を知っている?:そんな事は絶対にありえない
◇ モエは戦闘も可能?:マナトゥムには攻撃という概念がない
◇ モエが生まれてきた理由は?:主人の手となり、足となること
◇ マナ満充填での稼働時間は?:約2週間
「マナの満充填で、2週間も動けるのか……流石にオリジナルは違うな。僕が作るマナトゥムは2日が限界だ」
「ちょ、ちょっといい? アーシェル」
「あ、ああ、すまんな、モエを独り占めしてしまって。僕は先に戻って、メンテナンスの準備をしておく」
アーシェルはそう言うと、足早に馬車へと駆けていった。アーシェルを一人には出来ないのだろう、エイルが後を追う。
「ねえ、モエ。あなたに性別はあるの?」
「イイエ。私ニ性別ハ アリマセン。モシ、ドチラカデ生キルホウガ良イナラ、リリア様ノ仰セノ トオリニ」
「ううん、それならいいの。あと、あなた身体の一部がむき出しだけど、服は着ても大丈夫? 熱がこもっちゃったりしない?」
「イエ、服ヲ着ルコトハ全ク問題ゴザイマセン。本来ナラ私ハ、軟性樹脂ノ カバーヲ着ケタ形ガ正常ナ姿ナノデス。実ハ私モ、心許ナイト思ッテイタ所デス」
「そうか、心許なかったのか! 人間で言ったら、裸でいるようなもんだからな!!」
ジルハートのセリフに、私たちは笑った。
「……ってことで、モエに服を貸してあげてくれない?」
私はアルフィナに向かって、そう言った。
「わっ、私の服!? な、なんで私なのよ」
「モエとアルフィナは背格好同じくらいだし、きっと衣装も沢山持ってると思って」
「な、何言ってんのよ。私が持ってきた衣装に、無駄なものなんて一つもないんだけど!?」
「まあまあ、アルフィナ。馬車の荷物スペース、ダントツで場所取ってんだから、それくらい協力してやれよ。モエもきっと感謝してくれると思うぜ」
「わ、分かったわよ。ちゃんと感謝してよね、モエとやら」
モエはアルフィナではなく、私に対して深々と頭を下げた。
***
「どうだ、モエ。手足を動かしてみろ」
馬車に戻ってきてすぐ、アーシェルはモエのメンテナンスを始めた。時間が掛かるかと思われたが、アーシェルの手際が良いのか、あっさりと終わってしまった。
「オオオ……コレハ素晴ラシイ。摩擦抵抗ガ限リナク0ニ近ヅキマシタ。アリガトウゴザイマス、アーシェルサン」
「ハハハ、あくまで“様”を付けるのはリリアだけなんだな。なんか新鮮でいいぞ」
「——アーシェル様、少しいいでしょうか?」
「もちろんだ。——どうした? エイル」
「モエは旧型といえど、正真正銘のマナトゥムです。史実では、モエの末裔にあたるものが、世界を滅ぼしたと言われています。もう少し、慎重になられた方がいいのではないでしょうか……」
そう言われたアーシェルは、腕を組んで空を見上げた。
「確かにな。エイルの意見、もっともだと思う。だが、少しだけ聞いてほしい。さっきも言ったと思うが、城の安置所に、こいつと同型のマナトゥムを保管してある。僕はそいつの腕をバラし、脚をバラし、そして組み立て、またバラす。そんな毎日を過ごしてきた。こいつがどこの筋を動かせば、どの部分が可動するのかも知っている。最後まで把握できていないのは、ココ。ココだけなんだ」
そう言って、アーシェルは自分の頭を指さした。
「まあ、ここが一番のブラックボックスではあるんだがな。——確かに、こいつはマナトゥムだ。明るい時間は良い子を装って、深夜に寝首を搔きにくる可能性だってある。エイルの言う通り、僕は浮かれすぎていたのかもしれない」
「アーシェルサン、私ノ身体ハ マナヲ注入スルダケデハナク、取リ除クコトモ可能デス。モシ、リリア様ガ オ手数デナケレバ、就寝前ニ 私カラ マナヲ抜キ取ッテイタダケレバ」
「そうなのか、モエ! エイル、これならどうだろうか?」
「ええ、それで充分だと思います。——それと、アーシェル様のマナトゥムへの知見の深さ、私は侮っていたようです。申し訳ございません……」
「よしてくれ、エイル。僕のとなりにいる者が、あまりに楽観的でも逆に困る。時にはそうやって、僕に釘を差してくれ。——ついでと言ってはなんだが、いい時間になったな。昼食にするか」
馬車の中には調理器具はもちろん、冷蔵庫に冷凍庫まである。仕組み自体はアーシェルが作り、その中にジルハートが氷塊などを閉じ込めているそうだ。
「リリア様。私デ ヨケレバ、調理ヲ担当サセテ イタダキマスガ、イカガデショウカ」
モエの一言に、全員が一斉に振り向いた。
***
モエは短時間で3品もの料理を用意した。どの料理も冷めないよう、同時に仕上げる念の入れようだ。片腕に3枚ずつ皿を乗せ、器用に私たちの元へと運んでくる。アルフィナが貸してくれた、深いグリーンのワンピースがよく似合っていた。
「うっ、うめえ!!」
「もう下品ね、ジルハートは。——でも、この料理は私でも食べたことがないわ。名のあるレストランには殆ど足を運んだアタシだけど、これは本当に極上……素晴らしいわ……」
「キミたちの言う通りだ……宮廷料理さえ足元にも及ばんぞ、これは……」
確かに、モエの作った料理は最高だった。エルデリアの料理も不味くはないが、現代人の私にとっては何かが足りなかった。きっと、旨味などの類だと思う。
「あ、あの……」
「ドウサレマシタカ、エイルサン?」
「も、もし、お代わりを貰えるなら……」
エイルはそう言って、キレイになった皿をモエに見せた。
「モチロンデス! オ代ワリ ゴ希望ノ方ハ 挙手ヲ!」
モエのその言葉に、私たち全員が手を上げた。




