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⚜️ 28:私のマナ

 マナトゥムにマナを与えたアーシェルは、急いで私たちの元へと戻ってきた。もしも暴れ出すようなら、私が始末しないといけない。


 だが、30秒待っても、1分待ってもマナトゥムは動き出す気配を見せない。


「——おかしいな」


「待て、アーシェル。俺がいく」


 マナトゥムを確認しに行こうとしたアーシェルを制止して、ジルハートがマナトゥムの元へと歩いていく。この国の皇子を危険な目には遭わせない、ジルハートのそんな強い気持ちが垣間見えた。


 マナトゥムの前でかがみ込むジルハート。胸などに手を当てているが、動き出す気配はないようだ。


「アーシェル、見てくれ。これのせいじゃないのか?」


 アーシェルと共に、私たちもマナトゥムの元へと歩み寄る。


「ああ、これが理由か……僕のマナが弾かれているな……」


 骨格がむき出しのマナトゥムの胸の隙間に、アーシェルが放出したマナが淡い光を放って挟まっていた。


「僕の魔力では足りないということなのか……? となると……」


 次の瞬間、全員の視線が私に向けられた。


「わ、私がやるの!?」


「ああ、一度やってみてくれ。ただこの魔法は、かなり複雑な魔法式で成り立っている。今から僕が言う呪文を——」


「待て、アーシェル」


 ジルハートがアーシェルの話を遮った。 


「驚くだろうが、リリアに呪文は必要ない」


 アーシェルとエイルが驚いた顔で私を見る。


「ど、どういう意味だ……?」


「言った通りだ。今日の花火も、先日ノルドを倒した光弾も、リリアは呪文を使っちゃいない。イメージだけで放っている」

 

「じょ、冗談はよせ! 仮にも僕は、アークランド魔導院を首席で卒業した男だぞ。何年、魔法について学んできたと思っている!」


「じゃあ、一度やらせてみれば? 私も信じていいのかどうか、半信半疑だったから。——知らないんでしょ? この呪文はアーシェル以外?」


「も、もちろんだ。じゃあ、やってみてくれるかリリア」


 私はマナトゥムの身体を覗き込んだ。顔はマネキンのようにツルッとしているが、身体は鉄製のフレームがむき出しになっている。身体の中心にある、こぶし大程の球体が心臓にあたるものだろうか。


「アーシェル、この丸いところにマナを送り込めばいいの?」


「ああ、そうだ。その部分がコアと言って、動力の源となっている」


 私がそのコアの部分に手を乗せると、念の為、私以外はマナトゥムから距離を取った。


 マナを送り込むか……やったことはもちろん、こんなことが出来るってことも知らなかった。


「まだ生きているなら、動いて。マナトゥムさん——」


 私がコアにマナを送り込んだ瞬間、マナトゥムの目が光を帯びた。ごくごく小さな、「キュルルルルルル……」という音が聞こえてくる。マナトゥムの起動音なのだろうか。


「きっ、起動したのか!? 下がれ、リリア!!」


 ジルハートの叫び声が響く。


 いや……きっとこの子は、酷いことはしない。何故か私はそう確信していた。


「……オッ……オハ……オ、オハヨウゴザイマス。アナ……貴方ガ、ゴ主人様デスネ。貴方ノ、オ名前ヲ 教エテクダサイマスカ」


「わっ、私のこと……?」


「ハイ、アナタ様ノコトデス」


「私は、リリア……リリア゠セリュージュ」


「リリア様……リリア゠セリュージュ様デスネ。シカト、承リマシタ」



「ほ……本当に、呪文無しで起動させたのか……リリア、キミってやつは……」


 私の周りにみんなが集まってきた。起動したばかりのマナトゥムを、全員が驚いた表情で見下ろしている。


「横ニナッタママデ失礼イタシマス……シバラクデ各部ヘノ、マナガ充当イタシマス。シバラク、オ時間ヲ クダサイ……」


「キ、キミの名前は何と言うんだ?」


「ワタシノ名前ハ、リリア様ガ オ決メニナラレマス。ドウゾ、ゴ命名クダサイマセ、リリア様」



***



「ワタシノ名前ハ、モエ……モエデスネ、リリア様。ワタシハ トテモ気ニ入リマシタ、コノ名前ヲ」


 立ち上がったばかりのマナトゥムに、私はモエという名前を付けた。マナトゥムに表情はないが、淡く光る緑の双眸が喜びを伝えてきた。


「おい、モエ。どうして僕のマナは受け取れなかったんだ? 魔力が小さすぎたのか?」


「ソレハ起動前ノコトデショウカ? ソレデアレバ、モウ一度見セテイタダケマスカ、アーシェルサンノ放出スルマナヲ」


 アーシェルはモエが差し出した手の平に、さっきと同じ紫色のマナを発生させた。


「コレハ、ワタシガ受ケ取レル マナノ種類デハ ゴザイマセン。ヨッテ、魔力ノ大小モ測リカネマス。申シ訳ゴザイマセン」


「じゃ、じゃあ、私のも見てみてよ」


 アーシェルに続き、アルフィナ、そしてジルハートとエイルもモエにマナを見てもらった。


「ドウヤラ、リリア様以外ノマナハ、ワタシハ受ケ取レナイヨウデス。キット、マナノ成分自体ガ違ウヨウニ思ワレマス」


「そっ、そういうことか……」


「そういうこととは、何だ? エイル」


「選律の儀の際に、ノルドがリリアさんをすぐに見つけられなかった件です。きっと、ノルドが検知出来る種類のマナではなかったのだと思います」


 ああ、確かに……


 だからノルドは、私を見つけるのに時間がかかったんだ……

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