☾ 24:初めてのキャンパス
◤ こちら地球でも、梨里杏とリリアが入れ替わって、二週間の時が過ぎようとしていた…… ◢
「どう、お母さん? これ可愛くない?」
「あら、いいじゃない。やっぱり下着くらいは、自分の新しいやつが欲しいもんね」
先日、萌といっしょに買い物に行った際、下着を新調したのだ。可愛い柄が多くて、迷いに迷ったけど。
「ん……? お母さん、どうかした?」
「いや……梨里杏は鍛えてる割に、あまり筋肉質じゃないんだなって思って。身体だけ見ると、ただのスマートなお嬢さんって感じだし」
「あー……そうなの。大会の上位で当たる相手って、割とみんなゴツゴツしてるんだけどね。——体質なのかな」
「まあ、それはそれとして、私の前以外で簡単に下着姿なんて見せちゃダメよ」
「わ、分かってる! 今日は新しい下着を見てもらいたかっただけだから!」
笑うお母さんを背に、私は自分の部屋へと戻っていった。
***
「じゃ、仕事行ってくるね。昨日も言ったけど、頑張って勉強しなきゃとか、無理しなくていいから。いつ辞めちゃってもいいんだからね。——あ! 戸締まりだけは忘れちゃダメよ!」
お母さんはそう言って、仕事に出ていった。
地球の梨里杏と入れ替わって、今日で二週間。今日は、長い間休んでいた大学に顔を出すことにしている。
「フフッ。勉強頑張らなくていいだなんて、変なの」
「きっと、こちらの勉強についていけないからだと思います。気を使われてるんですよ、梨奈様は」
「うん……分かってる。まあ、学費も免除されてたみたいだから、本当に辞めちゃってもいいってことなんだろうけどね。——こっちの梨里杏が頑張ってたことを、私が投げ出しちゃうのは申し訳ない気もするけど」
「梨里杏様は、梨里杏様。こちらでの生活は、これからも続くんです。梨里杏様らしく生きていきましょう」
「そうだね……ありがと、リクス」
私はリクスを閉じると、戸締まりをして家を出た。
***
「えーと、大学の友だちと思われる子で、メッセージアプリで繋がってるのは何人だっけ?」
「やりとりの多い順で言いますと、平井様、福間様、片桐様になります。この御三方は、先日のSNSがバズった時にも連絡をくださっています」
「——メッセージ見返したけどさ。そこまで仲良くない感じだよね、この人たちは」
「こちらにいた梨里杏様のやりとりを見るに、自分からは積極的に距離を縮めない方だと思われます。その代わり、萌様みたいに相手からのアプローチが強い場合は親密になる傾向が強いようです」
まあ、知り合いは少ないほうが、今の私にとって楽ではあるんだけど。そんな会話をリクスと交わす内、大学の入口に辿り着いた。
今日受けるのは英語の講義。講義室を見つけるのに時間が掛かり、入った時には講義が始まるところだった。斜め前の席から、私に小さく手を振る女子がいる。私も同じような仕草を、彼女に返しておいた。
『いまのは誰?』
『彼女は福間楓様ですね。さきほどもお伝えした、御三方の内のお一人です』
リクスは本なだけあって、筆談も出来る。何ページ書いても埋まらない、不思議な本だ。
ところで、肝心の英語の講義は、全くと言っていいほどついていけなかった。講義開始から10分後には、睡魔との戦いになっていたほどだ。
「桜井さん、やっと出てきたんだね! あのSNSの後から出てきてなかったから、仕返しでもされたのかと心配しちゃったよ」
講義が終わると、楓が席までやってきた。
「う、うん……何かと色々忙しくて……まあ、また出てこなくなっちゃうかもだけど……」
「そっ、そうなの!? それにしても意外だったぁー。あの動画見た時、桜井さんだって最初は全然気づかなかったもん。——あれから何か無いの? テレビ局から連絡とか、そういうの」
「そうだね……私がアップした動画でもないし、SNSのアカウントは持ってるだけで、誰も知らないし」
「そうなんだー……今度、一緒に食事でも行こうよ。またメッセージ入れるから。——じゃ、今日はバイトだから! またね、桜井さん!」
楓はそう言って私の元を去っていった。
“桜井さん”か……その内、慣れるのかな……
***
なんとか次の講義にも出席したものの、こちらも全くついていけなかった。お母さんはきっと、こうなる事が分かっていたのだろう。大学は辞めて、まずはアルバイトで探してみるか……
「す、すみません……桜井さん……ですよね……?」
帰宅しようとキャンパスを歩いていると、長身の男に声をかけられた。ジルハートと同じくらいはありそうだ。
「そ、そうだけど……」
「やっぱり!! こないだ見ましたよ、SNSのあの動画!! いやあ、マジでカッケーなって思って! ——あ。俺、村瀬隼人っていって、ボクシングサークルの部長やってるんすよ。で、よかったらなんだけど、ウチのサークル覗いていってくれないかなーって。ホント、ちょっとの時間でも大丈夫なんで」
ボクシング……確か、グローブをはめて殴り合うスポーツだっけ。
「それって……本気で殴っちゃってもいいの?」
「もっ、もちろん! 今日は高校全国ベスト8の奴も顔出してるんで、今からでも是非!」
ベスト8が強いのかどうかなんて分かんないけど、行ってみるか。
久しぶりに動かしたかったんだよね、身体を——




