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☾ 10:地球の子

「なっ、なにこれ、美味しい……」


 並々と入ったスープの中に、細長い麺というものがたゆたっている。これは、ラーメンという食べ物らしい。


「ほんと? それは良かった。今日のお昼は私だけだと思っていたから、何も用意してなかったのよ。——ちなみにね。こうやって食べると、もっと美味しいわよ」


 お母さんはそう言うと、「ズズッ」と啜ってラーメンを食べた。


 お、音を立てて食べるの……!? そういう食べ方は下品だと、エルデリアでは子供の頃からずっと教えられてきた。 でも、今日から私は地球の子だ。お母さんがすすめてくれるのなら、やってみようと思う。


「ほっ、ホントだ! スープと麺を一緒に食べられるって感じ? なんかさっきとは違う!」


 お母さんのように上手くは啜れなかったけど、それでも随分と美味しくなったように感じる。少しだけ地球の子に近づけたのかもしれない。私はフフッと微笑んだ。



 ラーメンを食べ終え、元の梨里杏が使っていた部屋のベッドで横になっている。お母さんとリクスは、リビングで昔話に花を咲かせているようだ。


 それにしても、スマホって凄い——


 私が未だに知らない地球のことはもちろん、メッセージアプリってのを遡れば、交友関係だって分かってしまう。


 その中でも、親友の萌って子はとても良い子のようだ。会話を遡れば遡るほど、彼女に嘘をつきたくないという気持ちが強くなってくる。彼女とは、今後も会うことになると思うが、私は彼女を騙し通せるだろうか。自分で言うのもなんだけど、そんな自信はまったくない。うーん……後でお母さんに相談してみるか……


 その他は……梨里杏が通っていた、大学の友達からもちょこちょことメッセージが届いている。



 そんな感じでスマホ画面をスクロールしていると、萌から来た着信のボタンに思わず触れてしまった。


「もう、梨里杏! なんで全然返事してくれないのよ! 何度も何度もメッセージ送ってるっていうのに!」


「ごっ、ごめんね……えーと、色々とあって……」


「もう、色々って何!? ——で、どう? 今日は会えないの? 誕生日プレゼントも、まだ渡せてないし」


 あ。そう言えば『沖縄から帰ってきたから会おう!』と、萌からメッセージが入っていたっけ。


「わ、分かった! あ、会おう!」


 私はその場の勢いで、萌と会う約束をしてしまった。



***



「そんな格好をすると、あなたがリリア゠セリュージュだってこと忘れちゃいそうになるわね。当然だけど、よく似合ってる」


 私は地球にいた梨里杏の服を着てみた。驚くほど軽くて伸縮性もあり、とても着心地がいい。特に気に入ったのが、ブラジャーという下着だ。背中や肩が少しチクチクとするが、激しい動きでもしっかりと胸を守ってくれそうだ。


「ありがとう、お母さん。でさ、萌に本当のことは言わない方がいいよね……? 私はエルデリアからやってきた別人ってことは……」


 私がそう言うと、お母さんは「うーん」と考え込んでしまった。


「あなたたち本当に仲が良かったから、嘘を突き通せるとは思わないのよね……かと言って、エルデリアから来たなんて言われても萌ちゃんも困るだろうし……」


「そういやお母さんは、梨里杏に魔法を使わせなかったって言ったよね? ——一体、どうして?」


「どうしてって……梨里杏を見せ物にされたく無かったからかな……有名になってチヤホヤされたかもしれないけど、その反面、気持ち悪がられることもあっただろうから。出来るだけ、普通の子として育ってほしかったのよ」


 普通の子か……お母さんの言ってることも分かる気がする。


「じゃ、とりあえずは、今までの梨里杏として会うようにするよ。後は、萌に会ってから考えてみる。——じゃ、行くよリクス」


「——行くも行かないも、私に選択権はございません。どうぞご自由に、どこへでもお運びください」


 ん……? なんだ、このリクスの態度は。


「ハハハ、リクスったら、スマホにやきもち焼いてるんじゃない? 梨里杏、さっきからずっとスマホ触ってるから」


 ああ、なるほどそういうことか。スマホがリクスの上位互換って言ったことも、根に持っているのかもしれない。


 私は拗ねるリクスをバッグに入れ、家を出た。

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