鉢かつぎじゃねえよ‼
昔々のお話じゃった。
肋高校映画部では、間もなく開催される文化祭での映画の内容について、会議が行われている。
映画部室のホワイトボードには、あらゆる映画のストーリーが書かれてあるのだが、どのストーリーにするのか現在話し合い中だ。
今候補にあがっているストーリーは、以上のモノだ。
『桃太郎』『かぐや姫』『うさぎとかめ』『シンデレラ』『ネズミ小僧』『金太郎』『天女の羽衣』『アリババ』『人魚姫』『王子と乞食』……こんな感じのストーリーで、だいたいの作品なら粗筋くらいは知っているモノばかりだ。
顧問の聖は部員たちの顔を確かめるようにして、今の考えを言葉に変えた。
「候補にあがっている作品の中から、今回の文化祭に上映する映画内容を決めていくぞ。
他に何かあれば、意見してくれ!」
これだけの作品が上げられているのだから充分だと誰もが思うが、ここで部員の宮木余芽が新たに作品を口にしたのだ。
「誰もが知ってる内容なんてネタバレします!
そこでタイトルは有名だけど、粗筋を聞かれたら自信が無くなる作品を選ぶ方が新鮮です!」
部員が意識を高める意見だ。
全員その言葉に耳を傾ける。
「じゃあ、宮木はどんな作品が良いんだ?」
聖が尋ねる。
興味深そうな眼差しで。
余芽は実は去年の文化祭前から、映画の作品を考えていたのだ。
けれど認知度が低いであろうと思い、発言出来ずにいた。
余芽の性分、内弁慶。
家庭内ではトーク力は抜群、みずから進んで家事などを手伝う姉御はだタイプなのである。
「『鉢かつぎ姫』です!」
今までに無い意見に、部員たちは良い反応を示した。
ありがちな作品も良いが、やはり認知度が低いモノも
魅力的だと感じた。
聖は部員たちに確認する。
「『鉢かつぎ姫』が候補にあげられたが、皆の意見はどうだ?」
新鮮な意見には、全員考えは一致している。
「「「「「はあい、ソレがベストです」」」」」
そんなわけで映画の内容だが、『鉢かつぎ姫』に決定した。
早速物語の粗筋をネットで調べたのち、衣装の話し合いが始まる。
「主役の鉢ですけど、サイズが大きめなので普通には販売してないですよね」
そう云うのは、ひらめきキャラの庵賀歩だ。
歩は何かに気が付く事が多い性分。
「だな、作中に出てくるサイズの鉢を作るのなんて大変だよ」
「鉢……式場だったら大きめの盃あんじゃね?
俺、知り合いが勤めてる式場に電話してみる」
「ありがとう、手分けして衣装に小道具、手配するとして……配役なんかも決めていくね」
次々段階を進めていく部員たちに、新たな案が浮かんでくる。
「タイトルが、『鉢かつぎ姫』なんだけどさ、実際鉢……担いでないよな。
てか、被ってるな」
「『鉢かぶり姫』だわね」
「どうする?
基でいくか、変更するか」
「タイトルが『鉢かつぎ姫』だからな、担がないと文法が変だな」
「話だとヒロインは容姿に難が有って、鉢を被る羽目になってるのよね?」
「顔を隠さないと物語から大きく外れる……顔を何かで隠そう」
「なら、キャスティングの容姿はどっちでも突き通せるわね」
「担ぐ鉢と被る盃の用意して、衣装はレンタル衣装店から……」
色々バタバタ準備をして、文化祭当日、『鉢かつぎ姫』の上映時間となった。
ホールにスクリーンを設置し、映画が始まる。
『昔々、ある地域に鉢を被ったかわいそうな娘がおりました』
スクリーン全面、ヒロインである鉢かつぎ姫が登場した……が、どこか変。
鉢かつぎ姫の背中に巨大な植木鉢が装着され頭からは、これまた巨大な盃が被せられている。
観客たちは凍りつき、スクリーンの鉢かつぎ姫に釘付けとなった。
(何あれ?
背中に……甲羅、亀?)
(僕の知ってる『鉢かつぎ姫』じゃあ無い)
(これ……人面亀……顔、見えないけど?)
心のざわめきがホールに漂ってきた。
部員の意見を全て取り入れた結果、見るも無惨な仕上がりとなってしまった。
今年の文化祭での映画上映伝説……忘れられないイベントになってしまったのだ。
めでたしめでたし。
(『鉢かつぎ姫』じゃねえよ‼)
観客たちが全面、心で叫んだ。
角野卓造じゃねえよ‼