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勇者一行の騎士


古今東西、勇者とは庶民と決まっている。

屋外の演習場の一つで模造剣を振り回す15歳の少年が典型的な勇者なのである。太陽の光を集めたような金髪に、若葉色の瞳。なんとなく昔飼っていた犬を思い出すのだが、本人には言えていない。

勇者の魔法は勇者の剣を通してしか使えない。

しかしその勇者と聖女しか使えない光の属性の魔法が魔王には有効なのだ。

今は模造剣なのでもちろん、魔法は使えない。単純に剣の稽古に励んでいる。

これが物語ならば、勇者と分かった時点で剣も使えて勝ちは確定するのだが、なんせ、剣より鍬のほうが持ち慣れている農場の三男坊である。

家畜の世話をしていただけあって馬は乗り慣れているし、畑を耕したり重労働で力仕事で身体は出来上がっているが、剣はまだまだである。

鍛錬は厳しいかもしれないが、魔王復活の前になんとか仕上げなければならない。隙をつくことも今のままなら不可能だ。

侯爵で騎士で第三王子の護衛を務めているオリヴァー・シュヴァルツほど勇者の条件に当てはまらないものはいない。渾身の力で振りかかってきた勇者の一撃を片手で持った模造剣で受け流し、続けて弾き飛ばした。

先日、勇者と共に魔王を倒す旅に出る者が選ばれた。剣術指南役として、護衛として、戦いをよく知る騎士として・・・つまりは便利使いである。



午後の鍛錬を終え、湯浴みと夕食を終えたあと、最近の出来事と他愛ないことを手紙に書き始めた。

ここ1年ほど続けている日課である。

相手は妻だ。


婚約した時も結婚してからも一度も帰れていない。

そのため、一度も顔を見たことはない。

ベテランの執事と共にシュヴァルツ領を盛り立ててくれいる大変ありがたい妻だ。大切にしなければならないだろう。


この戦いが無事に終わればだ。


海に面した故郷を思い出す。

早朝から港は漁船で賑わい、山側は林檎がよく実る。年間を通して涼しく、冬は大雪が降る。


王都も季節は冬だ。きっと故郷も雪が降っていることだろう。幼い時、オリヴァーは雪の夜が嫌いだった。まるで世界から切り離されるようなそんな気持ちになった。

それなのに、朝日に照らされた見渡す限りの銀世界は大好きな景色だった。


手の中に魔力を溜めていくようにして、使い魔を生み出す。オリヴァーの黒髪と同じ羽色のツバメだ。手紙を送り始めた時、カラスにする予定だったが少々怖いかと思い、ツバメにしたのだ。

ツバメに手紙を預けると勢いよく飛び立っていく。

窓から入ってくる風は、故郷よりも冷たくはなかった。


と、階下から声が聞こえる。

「オリヴァーさん!今の光る鳥なんですか!」

見れば勇者がそこにいた。上着無しでは寒いはずなのに上着もなしに元気に手を振る様は、やはり尻尾を振った元気な犬のように思える。見かねて手招きすると、少ししてから部屋の扉を叩く音が聞こえた。

扉を開けてやるとお礼を言って、そろりと部屋に入ってくる。

王城の一角、勇者一行に与えられた宮殿の一室である。

備え付けの家具は丈夫さが取り柄の飾り気のないもので、ベッドは丈夫で大きい。

庶民の勇者と神殿育ちの聖女が豪華な家具に萎縮したため、全体を入れ替えたのだ。いない間に綺麗に入れ替えられていたのを見て、さらに恐縮していたが、それ以上何を言っても無駄だとわかったのか、素直にあるもので生活をしている。

「オリヴァーさんも俺と同じような家具で暮らしているんですね」

「勇者の家具より豪華なものは使えませんよ。今勇者は国王陛下の次に尊いお方なのですから。すぐにお茶を入れますから、おかけください。」

「勇者はやめてほしいって言っているじゃないですか。敬語も」

「・・・リヒト。それなら私にも同じように。悪いが公の場は諦めてくれ」

部屋に置いている大きめのポットに水差しで水を入れ、短い呪文を唱えるとそのうち沸騰を告げる音がする。ティーポットに茶葉を入れて入れ、沸いたばかりのお湯を注げば、良い香りが部屋に漂う。

不思議そうに様子を見ている勇者は余計に幼く見える。

「お茶を淹れるなんて、珍しくも何ともないだろう。何度か外での訓練でも使っている」

「呪文の魔法はほとんど使わないと魔法の講師が言っていたけど、オリヴァーはたまに使ってるなと思って」

オリヴァーはティーカップを勇者に渡す。

「呪文は唱える時間はかかるが、魔力が制御しやすい。」

実のところ、同じく勇者一行の魔法師コニーより魔力は強いため、呪文があったほうが楽なのだ。一定量の魔力がこめやすい。

「先ほどの伝書用の鳥なら、呪文なしのほうが形は変えやすい。完全に魔力を練って作る・・・粘土のようなものだから」

言いながら手のひらを合わせ、中を膨らませていき、一羽の白い鳩を出してみせる。

「全然知らなかった。魔法詳しいんだね」

「制御するためには知識は必要だ。さあ、もう寝る時間だろ」

茶菓子で出したものを包んで渡す準備をし始めると、勇者は意を決したように叫んだ。

「待って!さっきの手紙は誰に送ったんだ」


「妻だ」


勇者はポカンと口を開けて、黙りこんだ。

そして、次の瞬間発した絶叫に魔法師と聖女までオリヴァーの部屋に集まる事態になってしまったのは言うまでもない。

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