風とかさね
高校生活に何か実りを覚えたことはなくって、程々にクラスに馴染んで、取り留めないという言葉を体現している。
気付くのが滅茶苦茶に遅れたけれど、きっと私は感情の起伏が乏しいんだと思う。
何かを貰ったら嬉しい……んだと思う。
その程度で、どうも自分の事なのに客観視してしまう。
だからか、友達は居る(薄っぺらい薄氷のような友情の)が、さらに深い関係性と言うやつは未だ知らない。
「かさね!」
私の名前を呼ぶ。その女の子は風。
天真爛漫を描いたような子だ。
だからだろうか。
私にもよく話しかけてくる。
別に迷惑とは思はないし、楽しいんだとも思うけど、心の影で「またか」と暗い部分が顔を出すこともある。
弾んだ声、まるで好きな人を目の前にしたような高揚した顔で私を見つめる。
「んー、どした」
目を合わせて会話するのが苦手で、返事をするも、横や下を向いてしまう。
影を見れば、と言うよりも気配でグッと私に近づいているのがわかる。
今正面を向けば風の瞳にきっと吸い込まれてしまうだろう。
「教科書忘れちゃった!」
「そう、頑張ってね」
元気いっぱいに自分の失態を報告されても困る。
呆れてため息がついてしまう。
正面をむくと、素っ気ない私の返答のせいか、態度のせいか、しょんぼりとしている。
早送りした植物の生涯の様に萎れて私の机につっ伏す。
次の授業の準備を机の上に置いていたから、ノートやら、風が望んでいる教科書やらが私の膝に落ちてくる。
コイツ。
「えぇ、貸してよ」
物凄く不満げに言ってくる。どうしようか。ここまで馬鹿なのか。
どうして私が風の為に気力を多少なりとも使わなきゃいかんのか。
感情の起伏が乏しいと思ったが、あれは嘘のようだ。
だってこんなにもイライラしている☆
「うん。あのね。私と風は同じクラスでしょ?」
「そうだね!」
何も分かってない顔で元気よく返事をされても困る。
噛み合わない。
私も大概焼きが回ったのかもしれない。
風の頭をポムポムと叩いて園児に説明するように、話す。
本当に何やってんだか。
これで風は成績は学年1と来たものだから、世の中は不公平だと思う。
いや、公平か。
容姿も良くて頭脳明晰だけど馬鹿。
いいアンパイにバランスが取れている、のか?
「で、席は離れてるじゃない」
「ねー、隣が良かった!」
今いる私の席は教室の左端の後ろ。大して風は右端の前。対角線上に位置している。なんなら、どの席よりもいちばん遠いかもしれない。
指さしながら言うといちいち指の向く方に顔を向けながら、そんなことをぼやく。
思わぬ言葉に、声が詰まる。
「ん……。つまりね私も教科書使うんだ。知らなかったと思うけど」
「うん。あ、そっかぁ……」
「隣の人に見せてもらいな」
至極当然の提案をすると納得のいかない顔をしておられる。
気持ちが顔に出すぎだろう。
私に執着をしているようにも思えるけど、ペットに近い気がする。
散歩と期待していた犬が、お留守番を喰らったような。そんな感じ。
「隣に来ない?」
風は諦めずそんなことを言う。
わがままが全て通ったら、この世は無謀になるでしょうに。
無理無理と首を横に振る。
「私と風以外の全ての人に許可とったらいいよ」
「分かったぁ!!!」
軽口で言ったことに本気になったしまった。
目を輝かせて、颯爽と教室を出ていった。
「えぇ……行っちゃった……」
冗談なのに。その言葉すら聞かぬまま、都合のいい言葉を都合よくとらえて。
「あの子の前では軽口すら迂闊に言えないな……」
しーらね。
私はこの休憩時間の事は忘れることにした。
なんて、綺麗な空だろう。
濁っていて、木々が風に振り回されて、空も今に泣きそうだ。