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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第二章:懐疑と優越感
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☆9. 私を置いて行くなんて

今回だけは語り手が変わって、妹視点になります。

 私の名前はアリレウ。お金持ちの両親を持って裕福な家に生まれただけど、病弱で体が上手く動けなくていつも自分の部屋で寝込んでいる、不幸な女の子だ。


 お父さんもお母さんは私が欲しいものがあれば与えてくれるけど、いつも忙しくてあまり私のところに来てくれなくて、会えない日の方が多い。


 そんな私を、ミウリラお姉ちゃんはいつもそばにいてお世話してくれている。


 ミウリラお姉ちゃんはお父さんに人取られてメイドとして雇われたメイドだけど、私にとって彼女は実の姉みたいな存在で実際に姉だと思っている。


 初めて会った時に、(おさな)かった私は兄弟姉妹の存在の(ぬく)もりを求めて、この人が姉だったらいいなと思ってつい『お姉ちゃん』と呼んで無理やりお姉ちゃんになって欲しいと頼んでしまった。


 そんな無茶(むちゃ)な願いを聞いて受け取って私の我儘(わがまま)をミウリラお姉ちゃんは付き合って最高の姉をやってくれた。私が悪いことをしたら(いまし)めて真面目(まじめ)に正しいことを教えてくれた。


 それでも立場上ミウリラお姉ちゃんはこの屋敷のメイドで、実際にいつも可愛らしいメイド服を着ているし。体が弱くてあまり部屋から出られない私のそばにいて、面倒を見て私の代わりにいろいろやってくれた。


 しかし私たちの平和な日常は長く続かない。ある日突然巨人の女が現れて町で現れて全てを壊そうとしたのだ。


 幸いお父さんとお母さんは今日ちょうど町の外に出かけていると聞いた。屋敷の人はみんな巨人が怖くてすぐ逃げてしまったが、ミウリラお姉ちゃんだけは私のそばに残ってくれて必死に私を守ろうとしてくれた。


 私がこんな病弱な体でなければ他の人と一緒に逃げていけるはずなのに。私が逃亡できずここにいることしかできない所為(せい)でミウリラお姉ちゃんまで一緒にいて避難できないことになってしまった。


 実は『私のことは心配しないで、逃げて』とカッコつけて言ってみたけど、もしそんなこと言ってミウリラお姉ちゃんが本当に私を捨てて一人で逃げてしまったらと思ったらやっぱり怖くて言えなくなった。


 でも私はミウリラお姉ちゃんが私を見捨てないと信じているよ。実際に巨人が屋敷までやってきて天井を破って巨大な手で迫ってきた時にミウリラお姉ちゃんでも私の前に立って必死に(かば)おうとした。そんな彼女はすごくかっこよくて、あんな最悪な状況でも少しだけ私に安心感と希望を与えてくれた。


 だけど巨人は巨大な手でミウリラお姉ちゃんの体を(つか)んで、無理くりメイド服を脱がして、そして容赦なく(まる)()みしてしまった。私はミウリラお姉ちゃんが巨人の口の中に落ちて消えていくところを泣きながら見ることしかできなかった。


 ただ、その後なんかいろいろおかしいことがあった。ミウリラお姉ちゃんを食べた後の巨人の態度はなぜか一変してしまった。


 巨人はまるで変なものでも見ているような顔で自分の体のあっちこっちや周りを調べ始めた。こんな行動の意味は私には全然わけわからない。


 そして彼女はじっと私を見つめて、こっちへ手を伸ばそうとした。その時私はすごく怖くて嫌だった。だってこれはさっきミウリラお姉ちゃんを連れていった手で、しかも今まで何人の命を奪った汚らわしい手だから。


 やだよ! 触られたくない。(つか)まれたくない。汚されたくない。ぐちゃぐちゃにされたくない。そう考えて私は震えて縮こまって……。


 だけどなぜかその手は私に触れる前に突然止まって引き返した。その時巨人はなぜかものすごく苦しくて悲しそうな顔の用に見えた。なんか変。さっきまであんなに楽しく笑いながら私たちを苦しめていたのに。


 そして巨人は何か(あきら)めたような顔をして、私を放っておいて、屋敷から離れて、町から去っていった。


 彼女は私から(そむ)けて離れていく時なぜか私は心が痛くて……。まるで大切なものが遠くなっていくような……。もしかしたらおミウリラ姉ちゃんが彼女の()に入っているから? だったらやっぱり私もその()に入りたい。またミウリラお姉ちゃんに会いたい。行かないで! ミウリラお姉ちゃんから離れたくない。行くなら私も一緒に……。




 その後巨人この町から姿を消して、これで私たち生き残った人々はもう助かったようだ。


 後で聞いた話によると、ミウリラお姉ちゃんが()み込まれた後、犠牲者はもう一人しか出なかったらしい。その人はこの町で『最強の変態』呼ばれよく知られて、私も彼の(うわさ)を聞いたことがある。とても強い人だそうだ。そんな彼は勇敢に巨人に挑戦して命を落としたと聞いた。


 ただ、どうやら「実はあいつはただ巨人のスカートの中を(のぞ)きに行っただけで、自業自得(じごうじとく)だ」という(うわさ)も聞いた。そんなことあるのか? だってスカートの中を見てどうするの? わけわからないよね。


 それはさておき、どれにせよ私とは関係ない話だよね。


 巨人が去った後、逃げていった人々がどんどん戻ってきて、屋敷も片付けてもらって、壊された部分を修理してもらった。


 その時屋敷の庭の中でミウリラお姉ちゃんの着ていたメイド服と指輪を見つけた。その指輪ってのはいつもミウリラお姉ちゃんが指につけていたもので、父の形見だと聞いた。


 そういえばこの指輪は「困った時に奇跡を起こしてくれるお守り」と、ミウリラお姉ちゃんは言ったことがあるね。でも結局奇跡なんて起きなかったんじゃないか。だってミウリラお姉ちゃんは巨人にやられてしまったし。


 それとも巨人が突然態度を変えたのはその『奇跡』ということ? だとしたらなんでもっと早く奇跡が起きなかったの? なんでミウリラお姉ちゃんが犠牲になった後なの? 誰かを見捨てて起きる奇跡なんて……。


 私はこの指輪を拾って、自分の指に()めた。今からこれはミウリラお姉ちゃんの形見となる。彼女と一緒に過ごしていた時間と最期(さいご)の犠牲を忘れないように。


 お別れは寂しいけど、せっかく助かった命だから私は精いっぱい強く生きていく。ミウリラお姉ちゃんもそう望んでいるはずだ。


 「今までありがとう。よく休んでね。ミウリラお姉ちゃん……」


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