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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第二章:懐疑と優越感
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#8. 生まれたままの姿で

 「人は死んだ? 私の手で?」


 一瞬の出来事で、今でもまだよく納得できていない。


 今私は生身の人間を地面に投げ込んで、命を奪った。


 確かに私はこの人のことが嫌なやつだと思っている。それでも殺したいとは思ったことがない。私は人を殺したことないし。そもそも何の力も持ってないただのいたいけな女の子だし。


 それなのにたった今私は……。


 でもこれは私の体ではないし。殺したのは私ではなく、この巨人だ。どうせ今まで彼女は数人殺したし。この手と足だってとっくに血で汚れている。今更一人くらいで何ともないよ。そうだよね?


 それに今回あの変態男が悪いんだよね? 私のスカートの中を(のぞ)こうとしたし。いきなり体に登ってきたし。自業自得(じごうじとく)ってことよ? 万死(ばんし)に値する行動だよね? あのような女の敵でクズ人間は死んでも当然の報い。だから私が悪くないよね?


 そのように自分に言い聞かせたけど、やっぱり心の中で自分を責めている自分がいて、罪悪感はどうしても消えない。


 最悪ね。やっぱり人の命は重いものだ。


 そういえばあの変態男と一緒にやってきた3人と馬車は? 気付いたらもうそばにいないみたい。彼らはすで逃げて姿を消したようだ。これは彼らにとって正しい判断だろう。まだここにいて変なことをやらかしたらこいつみたいな目に遭うかもしれないからね。


 この巨体はいつまた暴走するかわからない。たった少し手を振っただけで人の命を奪えるなんて。私だって自分のことを恐ろしい。






 その後私は町から出て、今森の中を歩いている。目的地は? 特にないよね。どこに行くべきだろう? わからないけど、とりあえず町から遠くて、誰にも見つけられないような場所でいい。


 「(みずうみ)だ」


 この体は森の中のどの木よりも高いから簡単に上から眺望できる。今あっちに湖が見えたからとりあえずこれを目指す。


 湖に着いたら私はここで休憩することになった。


 この湖は今の私から見ても随分広いから、ここで体を洗っても大丈夫だろう。


 体はいっぱい汚れているから。特に人間の血で……。


 着替(きが)えは……あるはずがないよね。


 汚れた服はこのまま着用し続けるしかないのか? でもせめて体だけは洗っておきたい。


 とりあえず全部服を脱いで湖に入ろうか。


 誰か見てないかな? まあ、こんな巨大な女の子の裸を見たいと思う人なんて……いるかも。さっきの4人みたいにね……。思い出すなんかトラウマになった。


 とにかく随分町から離れたしね。今できるだけ早く体を洗って楽になりたい気分だ。もう余計なことを考えずに私は服を脱ぎ始めた。


 「あー、生き返った……!」


 服と靴を脱ぎ捨てて湖のそばにおいて生まれたままの姿になった私は湖に飛び込んだ。服はこう見えて実はどれも巨大サイズだから風によって吹き飛ばされる心配はなくてこのまま置いても大丈夫だろう。


 湖の中で私はやっと自由に動けるスペースができて(くつろ)いだ感じだ。町の中では何か踏んでしまわないかと心配しながら歩かなければならないし。町を出てからずっと森で、木がいっぱいあって私が座って足と手を広げるほどの広い場所がなかった。


 やっぱり世界は広い。探せばこんな大きな女の子でも住める場所があるはず。


 それにしても綺麗な体だ。白くて傷一つもないすべすべの柔肌。汚れを洗った今ははっきり見えてはっきり感じた。この手は私みたいな使用人の手と違ってアリレウみたいなお嬢様の手だ。実際にどこかのお嬢様かな?


 私は綺麗に洗ったこの手をじっと見つめながら思いを()せている。自分があの時この手の中に入れられたのね。なんかこの手の中に小さな自分の姿がいると想像したら不思議な感じだ。


 「ね、あなたはいったい何者なの?」


 私は湖の水面に映っている女の子を見つめながら(つぶや)いた。答えが来るはずがないとわかっているのに。だって今この女の子は自分だから。


 「なんで酷いことするの? 人の命は何だと思うの?」


 整った可愛い女の子の顔を見てそう訊きたくなってきた。だってこんな美少女はあんな残酷なことをするとは誰も思わないだろう。私がただ一人を()っただけであんなに苦しんだのに。だから彼女の行動は私にはあまり理解できない。


 しばらく(みず)()びをした後、私は湖から上がって、ついにタオルがないことに気づいた。まあ、そんなものあるはずがないよね。


 拭けるものは何もないからこのまま座って乾くまで待つしかない。このまま風邪(かぜ)ひいちゃうかな、と心配したけど、そもそもこの体って風邪(かぜ)もひくのかな? と疑問もした。風邪(かぜ)だけでなく、病気になったらどうするの? 今考えても仕方ないか。


 誰もいないはずだと思うけど、一応私は腕でできるだけ自分の大事な部分を隠そうとしている。ここは外でしかも昼だから裸で堂々とするのは女の子としてどうかと思うから。森の中だけど、私のこの巨体を隠せるほどの高い木は周りにはないし。


 体が乾いたらさっきと同じ服を着た。汚れたままの服だけど着替えがないから仕方がない。服も洗いたいけど、乾くまでずっと裸のままだと考えたらやっぱりやめておこう。


 こんな大きな服装、どこで手に入れたのかな? こんなものを作る仕立て屋さんあるの?


 シャツもリボンもスカートも下着も皮靴(かわぐつ)も靴下も、どれも巨人のサイズに合わせるように作くられたものなのか?


 大体これはどの国の服装? この巨人は私の知らない国から来たってのは間違いないと思うけど、具体的にどこなのかさっぱり。それにあの国の人間ってみんなこんなに大きいの? つまり巨人の国? あんな場所聞いたことはないけれど、この巨大な女の子は普通の人間サイズの町に住んでいるとは思えない。


 「行こうか」


 確かな目標があるわけではないけど、ずっとここにいてくよくよ考えてもどうしようもない。やっぱり私はこのまま旅に出ようかなと思っている。


 ずっとセサウキティウ町で住んでいてどこにも行ったことない私にとって、実は旅に出ることも(あこが)れの一つだ。世界が広いと聞いたことがある。父も冒険者で、昔いろんな国に行ったことがあって私にいろいろ教えてくれた。もっとも、父だって元々この国の人ではなく、遠い国から来た人間だと聞いた。(しゃべ)り方も時々(なまり)があって、町の人と()み合わない場合もある。そんな父はこのセサウキティウ町で母と出会って結婚して子供が生まれた。それが私。しかし母は早くも病気で他界してしまった。だから5年前まで私は父と二人暮らしになった。


 話はちょっと脱線してしまったが、要するに私は父みたいに冒険に出てみたいと思ったことがある。


 だけど町の外では危険な怪獣がうじゃうじゃいて外に行くことは危険だから戦闘能力のある冒険者たちにとってもリスクがあるのに、私みたいな普通のか弱い女の子は尚更だ。父だって立派な冒険者だったはずなのに、結局怪獣に殺された。


 でも今の私のこの体なら話は全然違うはずだ。見た目は変わらずいたいけな女の子だけど、体の大きさだけは自信がある。モンスターでもドラゴンでも誰にも負ける気はしないくらい大きくて無敵だ。


 私は戦闘の訓練を受けたことがあるわけではないから、戦うとなると、どうするかわかるわけではない。でもこの体はただ軽く手足を動くだけで周りにダメージを与えられるからそれだけでいいと思う。


 正に便利だな。この体。


 これは私の体ではなく、ただ(かり)()めの力かもしれないとわかっているけど、もらったからには有利に使ってもらう。私だって生きていきたい。世界のいろんなところを見回ってみたい。


 私は歩き出した。こうやって大きな私の長い旅は幕を開けたのだ。


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