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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第二章:懐疑と優越感
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#7. 変態は命取りだが

 さて、どうしたらいいかな?


 私は屋敷から離れたけど、どこに向かうかまだわからない。


 とりあえずさっき巨人が最初に現れた方へ向かっている。この辺は巨人が通った所為(せい)ですでに建物が大分(だいぶ)壊れて廃墟(はいきょ)になっていて、歩き回っている人ももういないから、もう誰かを踏んだり()ったり怖がらせたりすることはないだろう。


 それにしても視線は高いよね。屋敷の4階より2倍以上の高さだ。こんな(ふう)に高いところから町を俯瞰(ふかん)するのは初めてだ。町並みは目の前に広がっている。こうやって見るとこんな町って意外とちっちゃいな。


 私はこの町にしか住んだことないから、私にとってこの町はほとんど全ての世界だった。まさかこの世界がこんなに小さく見える日が来るなんて。


 まあ、実際この町が小さいのではなく、私は大きい所為(せい)だろう。今何を見ても小さく感じてしまう。不思議な感覚だ。今でもまだこんな遠近感に慣れていない。踏むところを間違えて転びそうになってしまったところもある。


 しかしこの体は意外と動きやすい。こんな大きい体なのに元のサイズの感覚みたいに動かせている。


 だから自分が大きいのではなく、周りが小さくなっただけだという幻覚さえ感じる。ミニチュアの町に入ったみたいね。


 しかもこの巨人の体は私と同じくらいの年頃の女の子で、体格も私とはほとんど変わらないみたい。スケール差を解消すれば身長は私と同じ150センチくらいだろう? だからまるで自分の体のままで巨大化したような感覚もしてしまう。


 しばらく歩いていくとなんかどんどん慣れてきた。それでもどこか間違って何かを壊すことが怖いから足に気をつけながら歩いている。


 この町でこんなでかい体を入れられる場所なんてあるはずがない。建物はほとんど膝より低いし。だから誰にも迷惑かけ無いようにこのまま歩いて町から出るしかないよね。


 この体を小さくさせることはできないのかな? 普通の人間と同じサイズになったらただの普通の女の子と変わらないはずだ。そしたら……。


 いや、そんなことができたとしてもこの町を壊してたくさん人の命を奪った女の子を町の人たちがこのまま活かせるとは思えない。拷問されて処刑されてもおかしくないだろう。全てやったのは私ではなかったのに……。でも説明しても信じてもらえるかどうかわからないよね。大体言葉が通じないから説明するすべすらないし。


 そもそもなんでこの体がこんなにでかいのか? それさえまだ不明のままだ。最初からこんな巨体なのか? それとも元々人間と同じサイズで巨大化したのか? 何かの魔法の効果かな? もしそうだとしたら小さくできる方法があるかもしれない。


 一応『小さくなれ』って念じてみたけど、やっぱり何も起こらなかった。まあ、そう簡単に小さくできるわけがないよね。


 わからないことが多すぎてどうしようもない。とにかくこの体のことをもっと知るためになんとかしなければならないと思う。


 でもどの道にしろまずはこの町を出てからにしよう。


 「あ……」


 ここで生き残っている人間がいないかと思っていたけど、一人動いている金髪の女の人を見つけた。年齢はわたしより上で20代くらいだろう。彼女の右腕は壊れた建物の瓦礫(がれき)(した)()きになっているようだ。ここから動けないから見捨てられただろう。なんか可哀想。でもこうやって生きているから何よりだ。すぐ助けないと。こんな瓦礫(がれき)は今私にとってただ砂利(じゃり)みたいで楽勝だ。


 「よし、これでもう大丈夫だよ」


 体が自由になったら彼女はすぐ走り出して、礼も言わずに私から逃げていく。私は追わずに彼女姿を見送った。


 「やっぱり、こうなるか」


 さっきまで暴れていた巨人はいきなり心を入れ替えて人を救っても、害がないとは思われないだろう。


 みんなこんな巨人の体を見たら怯えて誰も近づけようとしないから(ひと)りぼっち……。これは今私の置かれた現状だな。


 「え?」


 馬車の音が聞こえたと思えば、やっぱりこっちに向かって馬車が近づいてきている。なんで? 何のために来たの? 今の私に会いたいと思う人なんているはずないと思っていたのに……。


 振り向いて見下ろせばその馬車の中に4人が乗っている。みんな男性で、戦うための装備を整えている。そして馬車は私の目の前に()まった。私の足元からの距離は2メートルくらい……というのは今のわたしの感覚だけど、実際の距離は40メートルくらいだろう。馬車から降りたら彼らは武器を構ってこっちへ歩いて近づいてくる。


 まさか、この私を倒すために来た? そんな無茶(むちゃ)なこと……。


 もしこの体の元の持ち主の人格のままだったら、恐らくこの人たちはすぐ酷い目に遭わせられて苦しみながら潰されてしまうだろう。


 こんな巨大な女の子相手でも怖がらずに(みずか)らかかってくるような勇敢な人たちを犠牲にさせるなんてやっぱり気の毒だ。


 ここはやっぱり無視しよう。私はまったく戦う気なんてないし。


 とはいっても、彼らはもう私の足元の近くまで近づいてきたし。そして私の影の中に入って、こっちを見上げてきた……ってちょっと待って! この角度ならまさか……。


 私は反射的にすぐ後退(あとずさ)りして、ぺたんと座り込んでスカートを地面に押した。


 だって今の体勢だと(まる)()えじゃないか。私のパ……。いや、そもそも『私の』ではないよね。この巨人の女の子の……。そういえばその中身は私でもまだわからない。この体になったばかりで中を(のぞ)く機会はまだないから。でも感覚では確かにちゃんとパンツが履いていると思う。まあ、履いていてもいなくても人に……特に男の人に見られてはいけないということに変わりはないだろう。


 この体は私のものではないけど、今私は自分のように扱っているから、やっぱり見られたら恥ずかしい。


 「ໂມສຸໂກະຊິດັຕຕະໂນະນິ ມ່າ ເດະໂມະຄົນນະຮັນໂນງະມິເອະເຕະ ວະຣຸກຸໄນ」

 「ໂຄະເຣະດະເກະເດະໂມະງັມປຸກຸດະ ວະຮະຮະ」

 「ຢັປປະຣິ ເດະໄກໂອະເນຈັງງະສຸບະຣະຊີ ຟຸໂຕະໂມະໂມະໄຊໂກ」


 彼らは何を言っているかわからないけれど、何となく私を嘲笑(あざわら)っているような気がする。不愉快。


 もしかしてこの男たちは私の……巨人のスカートの下が(ねら)い……? いやいや、そんなことないよね? きっと巨人(私)を討伐に来たのだ。そうだよね? だってただ女の子のスカートの中を(のぞ)くためだけに命をかけるほど馬鹿な人間がいるとは思えない。……いや、もしかしたらいるかも? 実際に男の変態ぶりは時々私の想像を超えているから。


 それにこの4人の中で一番図体(ずうたい)が大きい赤髪の男はなんか見覚えがある。やっぱり間違いなくあれね。町中で『最強の変態』と呼ばれている有名な男だ。彼は身長190センチ以上の巨漢で力強くてこの町で誰にも喧嘩(けんか)で負けたことないけど、女癖(おんなぐせ)が悪くてよくスケベな行動をして、(うった)えられたこともあるらしい。本名は……やっぱり知らない。みんなにあんな渾名(あだな)で呼ばれているから聞いたことない。


 とにかく、私はこの人のことがあまり好きではない。戦いは強いけど、いつも上から目線で女を()(くび)っている。こんな男は消えてしまえばいいのにと思ったこともある。


 そんな彼は今こんなにも小さく見えるのね。あんな大男(おおおとこ)は私の手のひらよりちっちゃい。なんか感じたことない優越感が湧いてきて少しドキドキした。もしかしたら私のこの手でこの男が簡単に……。


 いや、駄目(だめ)だよ。あんな考えは……。それに今はそんなことより、いつの間にか彼は私の(あし)に……(すね)に登り始めた。私がぺたんと座っているから。


 「ເນຈັງ ຢັປປະ ຢະວະຣະເກນາ ເອະເຮະເຮະ」


 彼は私の脹脛(ふくらはぎ)を触った。


 「……やだっ!!!」


 なんか(ねずみ)やゴキブリにでもやられているみたいな感覚で、すごく気持ち悪い。(けが)されちゃう!


 反射的に私は彼の体を鷲掴(わしづか)みにして、すぐ地面へ投げ込んで、その体が地面に散らかった瓦礫(がれき)にぶつかって……。


 『ぱちゃっ!』


 赤い……。でもケチャップなんかではない……。


 血塗(ちまみ)れになって、数秒苦しそうに転がった後、その体の動きは止まった。


 「そ、そんな……。今私は、人を……」


 今のは(ねずみ)なんかではなく、人間だと気付いた瞬間はもうすでに遅かったのだ。


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