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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第一章:絶望と恐怖感
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#4. 隣で女の子座り

 「ཀི་རེའི་ན་ཡ་ཤི་ཀི། ཤི་ཀ་མོ་ཀ་ཝ་འི་ར་ཤིའི་མེ་འི་དོ་ཆན་ད། ཡཔ་པ་རི་འོ་མོ་ཤི་རོ་འི།」


 巨人の女の子はこっちへ歩きながら言葉っぽい声を出している。拡声器を使ったみたいに響くような声だけど、女の子らしい綺麗で透き通った声だ。しかし私は全然それを聞き取れなかった。


 「ミウリラお姉ちゃん、巨人は何を言っているの?」

 「いや、私もわからない。聞いたことない言葉だ」


 どこかの国の言語? 少なくとも私の知っている言語ではない。そもそも私はこの町の公用語しか(しゃべ)ったことないし。


 実はさっきから彼女は時々(しゃべ)っているように見えたけど、距離が遠かったからよく聞こえなくて気にしなかった。でも彼女が100メートルくらいの距離にいる今はようやくよくはっきりと聞こえている。それでも聞き取れないのは言語の違いの所為(せい)だろう。


 彼女は違う国から来た人だという事実は外見から見ればすぐわかっていることだから、これは意外なことではない。


 でもやっぱりちゃんと理性を持っている『人間』だよね。いや、こんな30メートルの女の子は『人間』と呼べるかどうかまだわからないけど。


 理性を持ったとはいえ、言葉が違うと話にはならない。ううん、言葉が通じたとしてもわかり合えるとは限らない。むしろ彼女は私たちの言葉を聞く気があるとは思えない。


 そんなことより、今考えている間でも彼女の姿はこっちに近づいてきて、ようやく屋敷の前経って、そして(へい)()り壊して

屋敷の庭に入ってきた。


 わざわざ(へい)を壊さなくても彼女が足を上げただけで簡単にこっちまで入れるのに。やっぱり彼女は本当にものを壊すことが好きだ。さっきこの屋敷に向かっている途中でも通った道の周りの建物をいっぱい()り壊しまくってきたし。


 こんな近距離で見るとサイズの圧倒的さははっきりと実感した。彼女の足が下ろされるたびに起きた震動もさっきより大きく感じて、部屋の中のテーブルや棚からたくさんものが落ちてきてしまった。


 4階にいる私は真っ正面見たら彼女のスカートしか見えなくて、少し見上げたらスカートとシャツの間の(わず)かな隙間も(のぞ)けてその中の白い肌が見える……、ってそんなことはどうでもいいし。そして彼女の顔を見るためにもっと大きい角度で見上げなければならない。


 接近してきた巨人は屋敷の庭でぺたんと座り込んできた。この姿勢、いわゆる『女の子座り』だ。やっぱりサイズのわりに彼女の体は等身大サイズの女の子みたいに柔らかくできているらしい。


 そんな女の子の姿勢を見て、私はつい可愛くて素敵だと思ってしまった。自分の命を奪うかもしれない相手に対してまだそんなことを。そんな気分ではないはずなのに。私ったらなんか変だ。


 地面にぺたんと座っている彼女だが、それでも頭の高さは私たちのいる屋敷の4階よりも高い。そんな巨大な女の子はこっちを(のぞ)き込んできて、つい視線が合った。


 私は怖くてアリレウを連れてバルコニーから寝室に逃げ込んで扉を閉じたが、その扉はすぐに(せま)ってきた女の子の巨大な指によってあっさりと壊されて、その指は寝室の中へ侵入してきた。


 幸いこの寝室は十分長いおかげか、奥まで入ったらその指の長さが足りなくて追ってくるのをやめた。


 「ནི་གེ་ཏེ་མོ་མུ་ད་ན་ནོ་ནི་ནེ། མའ་འིའི་ཀ། གེང་ཀའི་མ་དེ་ནི་གེ་ཏེ་མི་སེ་རོ་ཡོ།」


 また何か言った。私たちを嘲笑(あざわら)っているのだろう。


 しばらく止まった巨人の指だけど、次に上へ、天井の方へ向かって、下から力を入れて押した。


 「まさか天井を壊すつもり?」


 そして寝室の壁に(ひび)が現れて、その(ひび)の上にある部分は天井とともに空へと浮かんでいく。もう天井がない部屋の中に日差(ひざ)しが注いできた。


 この部屋はもう駄目(だめ)だ。ううん、最早(もはや)この屋敷全体も壊されていくのだろう。私の居場所はもう……。


 でも今は建物のことよりも、人のことだ。自分の身を庇う天井がないから、今私たちは巨人の視線を直接浴びている。もう覚悟するしかないよね。


 私はアリレウの前に立って、体で後ろの彼女を(かば)おうとするという体勢になっている。


 「ミウリラお姉ちゃん」

 「アリレウ」


 二人はお互いの名前を呼ぶことしかできない。


 「གོ་ཤུ་ཇིན་འོ་ཧིཤ་ཤི་ནི་མ་མོ་རོའུ་ཏོ་སུ་རུ་མེའི་དོ་སན་ ཧོན་ཏོའུ་ནི་སུ་བ་ར་ཤིའི། ཀན་དོའུ་སུ་རུ།」


 私たちを見て巨人はニコニコ笑いながら何か(つぶや)いた。この言葉は私に向かって言っているようには見えるけど、どうせ聞き取れないんだから無視してもいいだろう。


 次に彼女の巨大な手はどんどんこっちに(せま)ってきて、手のひらを広く開いてこっちに向かっているという形で。やっぱりでかい。私の身長より2倍くらい長い。それにこの距離で手相(てそう)や指紋までついくっきり見えて、更に戦慄(せんりつ)を感じた。最早(もはや)この白い手のひらは私の視界に全てになる。


 そして私の体はその巨大な手に鷲掴(わしづか)みにされた。どうやらこの手のひらの(ねら)いは私だけで、アリレウはまだ無事みたい。


 「行かないで!」


 空へと浮かんで離れていく私を見つめながらアリレウは苦しそうに叫んだ。


 「この化け物! ミウリラお姉ちゃんを返して! あんたなんか***」


 今までアリレウから聞こえたことないくらい罵詈雑言(ばりぞうごん)の言葉が響いてきた。誰がそんな言葉使いを彼女に教えたのだろう? 駄目(だめ)だよ。女の子はあんな乱暴な言葉を使うなんて。気持ちはわかっているけど。心配してくれてありがとうね。


 「死んだら許さないよ! ミウリラお姉ちゃん……!」


 これは私がアリレウから聞こえた最後の言葉だった。ほとんど死亡確定なのに皮肉(ひにく)だよね。ごめんね。アリレウ。どうやら私はもうここまでみたい。先に行くね。元気でいてね。


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