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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第一章:絶望と恐怖感
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#3. 屋敷のバルコニーから

 私の住んでいる屋敷は4階建てで、今私たちが立っているのは4階にあるアリレウの寝室だ。この部屋にはバルコニーがあって、ここの見晴らしがよくて、私とアリレウはいつもここから周りの町並みを(なが)めている。


 それで私は巨人の女の子の動きを観測している場所もこのバルコニーだ。ここは町の中でも比較的に高い建物だから邪魔なく遠くまで眺望(ちょうぼう)できる。巨人が遠くにいる時から私はその姿を見えている。


 この屋敷の屋上は12メートルほど高い。この屋敷より高い場所があるとすれば、教会の鐘楼くらいだろう。


 「嘘だろ……」


 ちょうど今、巨人が教会の鐘楼の隣まで歩いてきた。その姿は鐘楼より2倍くらい高いということは判明した。


 あの鐘楼はこの町で一番高い場所で、15メートルほどあると聞いた。それなのに巨人の半分の高さしかないだなんて。


 最初から目算で大体わかっていたけど、やっぱりこの巨人の身長は30メートルくらいあるのだ。大体人間の20倍くらい。


 巨獣よりも、ドラゴンよりも、恐らく私の常識の中のあらゆる生き物よりもでかい。


 巨人は興味深そうにしゃがんで教会と鐘楼を見つめて堪能(たんのう)しているみたい。観光気分? 確かにこの教会はこの町の観光地としても有名だし。


 ただし普通の観光客と違うのは、彼女は見るだけでなく、その巨体であっちこっち触りまくって、教会の本堂を椅子みたいに座り込んだというところだ。確かにこの本堂の高さは巨人の膝くらいだから椅子としてちょうどいい。しかし……。


 『ガシャン!』


 やがて本堂は巨人の体重に耐えられなくて崩れてしまった。そして巨人は自分の尻の所為(せい)で壊れてしまった建物を見て満足そうにニヤニヤした。


 次に彼女は両手で鐘楼を(つか)んだ。その鐘楼の太さと同じくらい長い2本の手で、左右違う方向へ力を入れたら……。


 『バチン!』


 鐘楼の真ん中に(ひび)が現れてやがて2つに折れた。上の方の部分は今巨人の手に持っている。


 彼女は鐘楼を持ち上げて、満足そうに笑いながら鑑賞した後、周りを見回し始めた。何をするつもり? もしかしたら……。


 そしてなぜか巨人の視線はこっちに……私のいる方向に止まっている。なんで?


 彼女はこっちを(にら)んで笑った。気の所為(せい)かもしれないが、その時私は彼女と視線が合った気がする。まさか私を見ている? そんなまさか……。


 だけど次の瞬間彼女は鐘楼を持っている手を高く上げて……。


 「まさか……!」


 考える間もなく、その鐘楼は彼女の手から離れてこっちへ向かってくる。間違いなくこっちを(なら)って投げてきている。


 鐘楼からこの屋敷までの距離は300メートルくらいで、あんな大きい鐘楼がこんな距離で飛ぶことなんてあまりにも想像しにくいが、この巨人ならそんなことができてもおかしくない気がする。


 逃げなくちゃ……。と思ってもこれは一瞬の出来事で、逃げる時間さえ与えられなくて、私はただ目を閉じて当たらないように願うことしかできない。


 その後、建物が壊れたような大きな音と同時に地面が激しく揺れると感じたが、すぐに(おさ)まった。


 また目を開けて見てみたら、鐘楼は屋敷の前の大通りに落ちてその辺りの建物とぶつかったが、ここまで届いていないらしい。破片も一部屋敷のゲートまで飛んできたが、屋敷自体はまだ健在だ。


 とりあえず(ひと)安心ってことかな?


 「もうやだ!」


 私の隣にいるアリレウはしくしく泣いて(わめ)いている。彼女も私と一緒に同じ光景を見ているはずだから、今は辛い思いしているだろう。


 「アリレウ……」


 私は彼女の名前を呼んで返すことしかできない。『大丈夫よ』という言葉さえ与えられない。だって今鐘楼から助かったとしても、これはただもう少し生き延びることしかないってことくらいわかっているから。


 「ミウリラお姉ちゃん、やっぱり私の所為(せい)だよね?」

 「え? 何を言っているの? アリレウ」


 なんでこんな時にこのようなことを?


 「みんなは逃げているのに、私がここにいるからミウリラお姉ちゃんは……」


 そんな言葉で、私は嬉しいか悲しいかわからないという感情になった。まさか私の方が心配されるとは……。


 「アリレウ……」

 「(あし)()(まと)いでごめんね」

 「そんな寂しいこと言わないで!」


 大事な妹を見捨てるなんて、私はそんなことできるわけない。


 でもやっぱりアリレウもよくわかっているみたいだ。自分が私の足を引っ張っているってこと。私はこんな酷い言い方を口に出すわけがないけど、心の中それは事実と認めている。不本意だけど、ここにアリレウがいなければ私もとっくに逃げているはずだ。


 それでも私はアリレウを責めるつもりはない。私はあくまで自分の意思でここに残っているのだから。


 それに逆に考えたら、彼女は私に勇気をくれたのだ。逃げないための勇気。


 だって逃げるだけの人生なんてやっぱり虚しいものだと思うから。


 父が自分の犠牲になって御主人様を守ったのと同じように、私も自分の命でアリレウを守りたいと思っているけど、そもそも私は冒険者の父と違ってそんなことする力なんてない。


 私なんかここにいても何もできるはずがないんじゃないかな。


 「ごめんね。アリレウ」


 私は不意に謝罪の言葉を口に出してしまった。


 「なんでミウリラお姉ちゃんは謝るの?」

 「だって、こんな時結局私は何もしてあげられないから」

 「そんな……。私のそばに残ってこうして話してくれるだけで私にとっての救いだよ」

 「でも……」

 「謝るべきなのは私の方なのに」

 「いや、そんなことないよ。アリレウ」

 「それにこういう時私は、『私を見捨てて逃げて』と言えるくらいの勇気すらなかった」

 「え? いや、たとえそう言われたとしても、たとえそれが命令でも従う気はないし」


 確かに英雄譚とかでこのような話は聞いたことがある。負傷して逃げ場がなくなった一人の仲間は自分を見捨てて他のみんなで進んでいけ、って言うシーン。アリレウはこれを自分と重ねているのか?


 アリレウはまだ12歳の子供だからそんなことを言うほどの度胸はないはずだけど、それでもこんな状況で私のことを心配してくれるだけでも随分立派だと思う。


 こんないい子に育ってくれてお姉ちゃんはとても嬉しい。一緒にいた時間は無駄なんかないとわからせてもらった。


 でもそんな幸せな時間はもうすぐ終わりに向かうかもしれないね。


 今巨人がこっちに向かって歩いてきている。大通りを通ってこの屋敷の方へ、まっすぐに……。


 どうやらようやく立ち向かう時か……。


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