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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第五章:憧憬と親近感
28/30

✧28. 二人だけの巨大な遊び(挿絵あり)

今回挿絵が入っています。AIで描かれたもので、イメージと違うところもあるので、参考程度に。

 「すごい! よくできたミニチュアみたい!」


 あたしは目の前の光景を見て感嘆した。


挿絵(By みてみん)


 麻理味(まりみ)の誘いを受けて、あたしも一緒に仮想世界に入り込むことになった。そして今ここで何もかもが小さいという世界が広がっている。


 「ミニチュアじゃないよ。全部本物だ」

 「うん、わかってる。でもこんなにちっちゃく見えるから」


 今あたしたちがいるのは町の中で、いっぱい小さな建物が並んでいる。


 「まあ、私たちはこんなにも大きいからね」


 麻理味の言った通り、全てが小さいのではなく……今のあたしと麻理味はでかいのだ! 巨人だよ! だってここにログインする時にスケールを『30倍』に設定したのだから。つまり本来身長144センチしかないあたしは今43メートルだよ。すごくでかいよね! 麻理味も同じスケールで45メートルになっている。


 ちなみにあたしの服はいつも着ている桃色で花柄の和服で、麻理味は水色の薄いワンピース服だ。これは現実世界で着ている服そのまま。実はログインする時に服の設定もできるけど、今回は初めてで体に関する設定はほとんど(いじ)らなくて元のままで、ただし体の『スケール』だけは設定を変えている。これは一番大事だからね。


 今あたしたちは『小人』の町を歩いている。中世っぽい世界だからあたしたちより高い建物なんて存在しない。一番高そうな塔もあたしの腰よりやや高いくらいだ。


 そして周りには小人がうじゃうじゃいる。みんな巨大なあたしたちを見て様々な反応している。ほとんどは怖くて逃げてしまうけど、逃げずに好奇心であたしたちを見上げて観察している小人もいる。


 「でも『本物』と言っても実際にただのVRだよね?」

 「まあ、そうだけど、全てはすごくリアルだよ。最先端な技術だから。ここにいる間これが本物だと思ってもいいよ」

 「確かにそうね。本当にすごい」


 今の感覚ではVRであることを忘れてしまうくらいリアルだ。自分は実際にここでこの体で立って動いているみたい。


 「この世界の人間はどうなの?」


 あたしは周りの小人たちに目を通してみた。ちっちゃいけどみんな本物の人間みたいに動いている。


 「確認してみてもいいよ」


 そう言って麻理味はしゃがんで近くにいる男女2人の小人を一気に右手で鷲掴(わしづか)みにして持ち上げて立ち上がってきた。今のサイズ差では小人2人を手のひらの中に収めるのは余裕のようだ。


 「ほら、よく見て」


 (にぎ)った手を緩めて小人2人が手のひらの上に乗るという体勢にさせて、麻理味はその右手をあたしに見せた。よく見ると2人共はあたしたちみたいにアジア人っぽい顔立ちだけど髪の毛は薄い赤と青で、アニメみたいに色とりどりね。年齢は多分20代くらいで、あたしたちより年上だろうね。


 「すごく怯えているみたいね」


 小さいからさっき地面に歩いている小人を見ても顔がよく見えなくて表情はわかりにくかったけど、今こうやって持ち上げて近距離で見るとやっとよく見えた。確かにこの反応は本当にリアルだ。あたしももし突然巨人が現れて(つか)まれたらこんな反応するだろうね。


 「ຄິມິຕະຈິວະນັນນະໂນະ ວະຕະຊິຕະຈິນິນະນິໂອະສຸຣຸຕສຶໂມະຣິ」

 「え? 何を言ってる?」


 女の人はこっちに向かって何か叫んでいるようだけど、全然聞き取れない。何語かな?


 「これはこの世界の言語みたい。私にも理解できない」

 「やっぱりそうか」


 ここは異世界みたいなものだから、言語も違うのは当たり前か。言語チートとかもないらしい。


 「言っていることはどうせ私たちは何者とか、何をするつもりとか、殺さないでとか、そんなところだろう。言語は通じないけど、思考はきっと本物の人間と同じだから」

 「でも本当に人間ではないよね?」

 「これはちょっと難しい質問ね。考え方次第答えは違うけど。もしここは本当に異世界だとすればこの小人たちは間違いなく人間と呼べる存在だろう。でも私たちから見れば『人工知能』……AIってことね。まあ、ゲームでいうとNPCというものね」

 「NPCか……」


 あたしもネトゲやったことがあるからNPCの意味は大体知っている。何の略か覚えていないけど。


 「実際にここはゲームではないけど、まあゲームみたいなものだよね。私たちは遊びに来たのだから」

 「そうね」


 つまりゲームをやっているみたいな感覚で、何の責任感を持たなくていいってことね。ここの人間なんてただあたしたちの遊びのために作られた存在だということだから。


 「さ、遊びを始めよう」


 そう言って麻理味は右手のひらを閉じて、その中にいる2人の小人を握り潰した。同時に足も動かして近くにある建物を()って、彼女の巨大な足の攻撃を受けたミニチュアみたいな小さな家は簡単に崩壊して廃墟(はいきょ)に変わっていく。


 「ほら、こうやって。楽しいよね」

 「そうね」

 「存分に遊ぼうよ」

 「ではあたしも遠慮なく」


 そしてこっちも暴れ始めた。まず近くの建物を踏んで……あら、本当に容易(たやす)く壊されるようだね。そして小人を踏んで()(つぶ)してみた。いつも地面を歩く蚯蚓(ミミズ)やゴキブリにやったのと同じようにね。


 あたしたちが暴れ始めてから町の雰囲気が変わってきた。最初に好奇心であたしたちから逃げずに観察していた小人も今逃げ始めた。あたしたちは(まぎ)れもなく有害な進撃の巨人だと確定したからだろう。


 だけど逃げると言っても小人の動きなんて本当に遅いものね。必死に走っているように見えるけど、あまり進んでいないね。あたしが数歩歩くだけで追いついちゃうから、逃げても無駄だ。ゴキブリみたいな虫の方が速くて追いにくい。だからこの小人たちはゴキブリ以下だな。無数のゴキブリを駆除していたあたしにとってこんなゴキブリ以下の小人なんて操作もない。


 「つっかまえた~」


 あたしは男性の小人を1匹手で(つか)んで持ち上げてきた。踏み潰す方が簡単だけど、そればかりではなく、手で遊ぶことも楽しい。


 「ໂອະເນະໄງດະກະຣະ ໂຄະໂຣະສະໄນເດະ」

 「やっぱり何言ってるか全然わからないね」


 顔の近くまで持ち上げたら、やっぱり小人の叫び声が小さいながらも聞こえちゃうよね。言語はわからないけど口調や表情からすれば命乞(いのちご)いしているってことは何となくわかる。本当にいい気分だ。もっと大きく苦しく叫んでよ。


 「ອ້າກ ຄຸຣຸຊີ ໂອະເນະໄງ ໂບະກຸໂອະຮະນະຊິເຕະ ນັນເດະໂມະສຸຣຸກະຣະ」


 あたしがただちょっぴり手に力を入れただけでこの小人は苦しそうな声でいっぱい叫んだ。本当に弱っちい虫螻(むしけら)なのね。


 男の人間ってこんなに弱いの? ううん、ただ今のあたしが強すぎるだけだな。この小人だって体格から見れば実は身長180センチくらいで比較的に大きい男だろう。今のあたしから見ればただの6センチで虫とあまり変わらないサイズで弱くてあたしにこれっぽっちも抵抗できない存在だけどね。こんなことになるなんて本当に最高な気分だ!


 「あら?」


 あたしがもう少し力を入れたらいつの間にか小人は動かなくなった。気絶した? それとももう死んだ? わからないけどどうでもいいか。どうやら今のはちょっとやりすぎみたいね。


 いつも虫と遊ぶ時みたいな力加減のつもりだけど、同じサイズの虫ならこれくらい平気なはずなのに。やっぱり同じくらいのサイズだと人間は虫より弱いのね。確かにこれは当然かも。あたしももし自分と同じサイズの虫と向き合うことになったら恐らく全く勝てる気はしない。


 虫より潰れやすくてもっと用心に扱わなければならないようだけど、小人の方が表情豊かでいっぱい面白い反応してくれるからやっぱり虫と遊ぶ時より更に快感だ。


 どうしよう……。今あたしはすごく楽しくてたまらない!


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