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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
25/30

#25. 食わないの

 「あんた、さっき何をするつもり?」


 私は恵美沙(えみさ)ともう一度ちゃんと話すために彼女に近づこうとしたら、先に彼女から質問された。


 どうやら私のさっきの行動の意味を理解できなくてイライラしているようで、さっきより不貞腐(ふてくさ)れているような顔だな。


 「それは……」

 「まさかあたしにあのNPCを食わせる気? 正気(しょうき)を失ったのか?」

 「これについては理由があるというか……」


 自分がやったのは矛盾しているとはわかっているから、上手(うま)く言い返すことはできない。


 「ね、やっぱりちゃんと話し合おうよ。お願いだから」


 私はあえて真剣な顔で彼女を見上げて視線を合わせた。


 「は? なるほど、あたしに力で勝てないとわかったから今回は話す気になった?」

 「そ、それは……」


 確かにそうかもしれない。でもそれだけではない。そもそも私が自分のことさえわからなくてどうしたらいいかわからないし、NPCに対する恵美沙の軽蔑も気に食わなくてわかり合えるはずがないと思って話すことを避けていた。でもやっぱりちゃんと話し合わなかったのは間違いだった。


 「とにかく私の話を聞いて。まずは自己紹介だな。私の名前はミウリラ。元々この世界に住人。つまりあなたがNPCと呼ぶ存在だった」


 彼女は聞く気になったかわからないけど、私勝手に話を進めていく。


 「は? あんたがNPC? それってどういうこと?」


 私の話が気になったのか、恵美沙は手足の動きを止めて、耳を貸す気になってくれたようでよかった。


 「実はさっきあなたが(おそ)った町は私の生まれ育った故郷だ。この前麻理味(まりみ)は私の町を(おそ)って私を食べた。そのおかげで麻理味のこの体は私の人格に書き換えられて、今この体は私のものになっている」

 「麻理味があんたを食ったって? 何わけわからないこと言ってるの?」

 「本当だよ。この体は偽物なんかではなく本当に麻理味だったものだ。どうしてこうなったか私だってわけわからないよ。彼女はいきなり私を(つか)まえて、口に入れた。私はすごく怖かったよ。もうあの時のことは今でも思い出したら最悪な気分だ。人を食うなんて気色(きしょく)悪いよね。そもそもこの体は食事なんて必要ないのに、あなたたちは何のために人間を捕食する?」

 「捕食? なんであたしに訊くのよ? 別に人間……NPCなんて食わねぇよ。あんなの食うわけがないだろう。モンスターじゃあるまいし」


 どうやら彼女は麻理味と違って(ひと)()いはしないみたい。


 「てか、まさかさっきあんたがあたしにNPCを食わせようとしたのは……」

 「そう。あなたの体を乗っ取らせるためだよ」

 「は? 正気か? NPCなんかに乗っ取られるって、そんなのあり得るわけないだろう。馬鹿馬鹿しい!」


 やっぱりそう思われだろうね。私も無茶だという自覚があるから。それでも……。


 「私だってあまり信じたくないけど、実際に私は食べられてこの体を乗っ取った」

 「そんなことは……。大体『乗っ取った』ってどういう意味よ? 麻理味は今どこにいるって言うの?」

 「さっきも言ったけど、私も全然わからない。でも彼女は乗っ取られたのだから恐らく今はもう存在自体は消えたのでは?」


 本当に消えたかどうかわからない。実際にまだこの体に眠っているという可能性も考えられるけど、そうだとしても今証明する方法はわからない。


 「消えたって……。あんた、巫山戯(ふざけ)てんのか?」

 「巫山戯(ふざけ)てないし。本当だよ」

 「でもここは仮想世界だよ。たとえ消えたって、ログアウトしたら……」

 「ううん。残念だけど、ログアウトしてもこの私のままだ」

 「は? あんた自分がNPCだと言っただろう? NPCが現実世界へ出られるって言いたいの?」

 「まあ、そういうことだろうね」


 恵美沙は化け物でも見ているような顔をしている。無理はないか。これは普通に考えるとあり得ないことだから。


 「そんなのどう考えても出鱈目(でたらめ)だ。(でっ)ち上げたいならもっと理屈の通ることにしたら?」

 「(でっ)ち上げじゃないし。私は本当に現実世界に出ていった。そして麻理味のお母さんとも会えたし」

 「おばさんと?」


 その反応だと、この子はどうやら麻理味のお母さんとも面識があるようだ。


 「そう。お母さんに訊いてもいいよ。彼女はちゃんと私の話を聞いて私の存在を信じてくれて、いろいろ相談に乗ってくれた。病院に連れていってもらったし」

 「病院? だから今日学校に来なかったのか?」

 「そうだよ。信じてくれた?」

 「いや、そんなことやっぱり絶対おかしい」


 恵美沙は煮えきらない顔をして、どうやらまだ信じてくれていないみたいだけど、全否定はしていないようだ。


 「まだ信じないなら現実世界で対面してみないか? そうしたら私がリアルでも本当に麻理味の体になっているとわかるだろう」


 今この世界では他人に偽ることもできるようだから私のこの姿を見ても『捏造(ねつぞう)かもしれない』と思われて信じてくれないだろう。


 「そんなこと言って、あたしを(だま)してログアウトさせて攻撃をやめさせるつもりだろう?」

 「いや、そんなつもりは……」


 確かにその手もあるか。でも今のはそのつもりではないし。もっとも本来私がここに来たのはこの町を助けるためで間違いないけど。


 「とりあえず、やっぱりリアルで会おうよ。会って面と向かってゆっくり話し合いたい」

 「NPC風情(ふぜい)でどうしてあたしが会話しなければならないのよ」

 「そんな言い方だと、私の言ったこと信じてくれたってこと?」

 「え?」

 「だって今『NPC』って言ったね。私がNPCだったってことが真実だと認めてくれたってことだよね」

 「うっ……」


 実は『NPC風情(ふぜい)』っていう(いや)しめた言い方はあまり気に食わないけど、今更大目(おおめ)に見ておこう。


 「わかったよ。でも今はもう夜だから直接会うのはちょっとね。ラインのビデオ通話にしよう。これでいいな?」

 「うん」

 「じゃ、もうログアウトする」


 そう言って彼女の姿が消えた。


 これでやっと終わったみたい。この町はもう助かった。


 「よかった……」


 その後私はさっきからポケットの中に入れていた女性を安全な場所に置いて生き残りの救出に尽くした。とりあえずできるだけ恵美沙の尻拭(しりぬぐ)いをしようとした。時間はかかるけど、どうせ時間の差でここで一時間くらい(つい)やしても現実世界では10秒くらいだから全然大丈夫だろうね。


 全部終わって町がある程度落ち着いたら私もログアウトして現実世界に戻る。


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