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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
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#24. まさかの形勢逆転

 「やめなさい! 恵美沙(えみさ)!」


 私がログインしたらすぐ町の中で暴れている巨大な女の子を目撃した。さっきの画面からわかったばかりだが、彼女の名前は『恵美沙』だ。そうわかったから今回彼女のことをちゃんと名前で呼んでいる。


 「また邪魔しにきやがったか。麻理味(まりみ)……を(いつわ)った偽物め」

 「何その呼び方! 私は別に(いつわ)りたいわけではないし……。って、でかい!」


 恵美沙を止めようと近づいてきたら、今の彼女はとんでもなく大きいということに気づいてしまった。さっきまで私の半分くらいの身長しかなかったのに。今私の方が彼女の腰にも届かない。


 「うふふ、油断したな。今のあたしの体は50倍サイズに設定しているんだ。さっきより5倍もでかくなったぞ。形勢は逆転したな」

 「50倍……」


 私は設定を変えずに慌ててすぐログインしてきたからさっきの20倍のままだから当然今の彼女と比べると小さく見えてしまう。


 「今あたしの方がでかいから、あんたなんかの邪魔なんてもう効かないぞ」

 「……」


 彼女はドヤ顔でくすりと笑いながら近くにある大きな建物を一気に踏み潰した。その通りだ。こんな大きさではさっきみたいに無理やり彼女を抱き上げて町から連れ出すことはできない。


 言葉を交わしている今でも、彼女は足を動いて町が壊されていく。しかも今回サイズ差ではさっきよりずっと圧倒的で破壊の速度が早い。このサイズ差では彼女が一発足を振るだけで一気に数人の命が落とされるし、数軒の家は破壊される。


 私も最初からもっと大きいように設定したらよかったのに……。いや、そもそも彼女はこんなとんでもないサイズでログインするなんて予想していなかった。本当に的外(まとはず)れだ。


 今私がログアウトして自分のスケールの設定を『100倍』に変更してまたログインするという手もあるけど、時間の差の問題もあるからもう一度ここに戻った時に町がすでに全滅しているかもしれない。


 それに体が大きいのは侵略者としては有利かもしれないけど、守る側としてはむしろ不便で逆効果だ。大きすぎて巨体を少し動くだけで町や人々に大きなダメージを与えてしまうから。守るつもりで結局被害を拡大させてしまう。状況はどう考えても私の不利しかない。


 だから無理だとわかっていても今の体のままで何とかしなければならないだろう。


 「やめろって! うわっ!」


 私は恵美沙に飛び込んで彼女を止めようとしたが、やっぱり力で負けて逆に彼女の巨大な足によって()り飛ばされた。


 「痛っ……」


 私の体が落ちた先にも建物があって、私の下敷(したじ)きになった建物がすぐ壊された。結局逆に私の所為(せい)で被害が増えてしまった。


 その時地面に倒れている私の方へとある小さな(私から見ればだけど)女性が走ってきた。なんでわざわざこっちに来るの? ここは危険なのに。


 「ຄຽວຈິນຈັງ ມະຕະອະເອະຕະເນະ ອະຕະຊິຕະຈິໂອະທະສຸເກະນິຄິຕະໂນະກະ ອຸເຣະຊີ」


 彼女は私に何かを言っているようだけど全然わからない。でもこの声と(しゃべ)り方は……。それに彼女の顔はなんか見覚えがある。


 「え? あなたは……」


 そうだ。忘れるはずがない。この世界では一年も経って彼女は少し変わって髪型も服装もあの時とは違うけど、間違いなくあの時私が助けた女性だ。やっぱりこの町に住んでいるのか。まだ無事でよかった。助けに来てよかった。


 でもまた危険な状況になっているね。何という運が悪い女だ。私が恵美沙を止められなければ結局みんな助からないだろう。だけど今の私は力で恵美沙に勝てるはずがない。あの時みたいに彼女を救うことはできそうにない。


 そうだ……。


 「ごめんね!」

 「ເອະ ນະນິໂອະສຸຣຸໂນະ ຄຽວຈິນຈັງ」


 その場の思い付きで魔が差した私は、(いきお)いで女性を鷲掴(わしづか)みにして立ち上がった。そして彼女の身に(まと)っているドレスを無理やり脱がして、翼を羽搏(はばた)いて恵美沙の方へ飛び込んで、手を伸ばして彼女の口に向けて……。


 『巨人に()み込まれたらその巨人の体に乗っ取る』


 それは単に私の仮説で、実際に正しい考え方かどうかわからないけど、少なくとも私はそうだったから試す価値があるんじゃないかなと。もし上手(うま)くできたら恵美沙という人格も消えて、代わりにこの女性の人格に書き換えられるんだ。そうしたら町が助かるし、私もやっと彼女とお話ができて友達になれるかもしれない。これは一石二鳥(いっせきにちょう)ね。


 自分に(もっと)もらしい理屈を並べてそう短絡的な判断した私はつい(じき)に行動に移ってしまった。


 しかし私の手が恵美沙の口に辿(たど)り着く直前に彼女の口はギュッと閉じてしまって、女性の体が恵美沙の唇とキスするみたいなことになったけど、結局口には入れられなかった。


 作戦大失敗だ!


 そして次の瞬間私はビンタを食らって、飛ばされて地面に落ちた。


 「痛っ……。あ、大丈夫か?」


 私は慌てて自分の手の中にいる女性の様子を見た。彼女はものすごく怯えているように見えるけど体は全然大丈夫みたい。さっき私が落ちて転んでいる間にも、彼女の体をちゃんと手に収めて、落としたり潰したりしないようにちゃんと手の力加減に気をつけていたから。


 よかった。(あや)うく私の所為(せい)で彼女が危険な目に遭うと思ったらさっきの自分の行動を後悔してしまった。


 よく冷静になって考えてみれば今私はすごく無茶なことしてしまったな。


 そもそもたとえ口に入れられたとしても次にどうしたら乗っ取れるかもわからない。本当にできるという保証もないし。ただ食われて無駄で死んでしまうだけかもしれない。


 「本当にごめんね。辛い思いさせたな。もうこんなことしないから」


 私は自分の手のひらの上で怯えて縮こまっている彼女を見つめて謝罪の言葉を言った。


 「ເອະ ອິມະໂດອິອຸໂຄະໂຕະ ຄຽວຈິນຈັງ ນັນເດະໄນເຕະຣຸໂນະ ເນະ」


 彼女は何を言っているかわからないけど、どうせわけわからなくて困るとか、私のこと失望しているだろうね。


 そういえばさっき彼女の服を無理やり脱がせて今全裸になっている。あの時の私みたいに町の中で裸を(さら)して恥ずかしい目になってしまっている。自分の嫌なことを人にやってしまって罪悪感がえげつない。


 「ここに隠れてね」


 とりあえず私は彼女をポケットの中に入れた。今私が着ているネグリジェはポケット付きでよかった。この中には安全とは言えないかもしれないけど、やっぱり今このまま手放した方が不安だ。しばらくここにいて我慢してね。


 「さてと……」


 そして私はもう一度立ち上がって、また恵美沙と立ち向かう。


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