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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
23/30

#23. 平等なんて綺麗事

 「よし、ここでいいだろう」


 町を侵略しようとした巨大な少女(今の私より小さいけど)を連れて飛んで、町が見えないほどの距離まで来たら私は着陸した。


 「いつまで抱いているの? 自分の方が大きいからって私を子供扱いするな!」


 さっきからずっと抱っこされたままの少女は恥ずかしそうで不満そうに文句を言った。


 「あ、ごめん」


 私は彼女を地面に降ろした。ここは森で周りは木ばかりで人がいなさそうなので、ゆっくりお話をすることができるだろう。


 「で、結局どうしたの? なんであたしの楽しい時間を邪魔するの? ちゃんと説明してもらうよ」

 「楽しいって……」


 そう聞いて私の方はなんかまたイライラしてきた。麻理味(まりみ)もこの子も、なんでこんなことをやって『楽しい』と言えるのだろう? 理解できない。


 「人はいっぱい死ぬんだぞ? 本当に何とも思わないのか?」

 「は? 何言ってんの? ただのNPCだろう?」

 「それは……」


 やっぱり、この人こんなこと考えているんだな。NPCだから人間だと思わないって。みんなちゃんと知能も感情も持っているのに。


 「それに、何よ今更。今まで何度も一緒にやっていただろう。普通は小人を殺しまくって笑ってたのに」

 「小人って……」


 今言った『小人』ってもしかしなくてもこの町の人間のことだろう。確かに今の彼女から見れば10分の1サイズで手のひらサイズの小人に見えるかもしれないけど、みんな間違いなく普通の人間だ。それにそれを言うなら今の彼女も私から見れば2分の1サイズの小人だ。

 

 「今の麻理味、なんからしくない。絶対おかしい」

 「おかしいのはそっちの方でしょう!」


 私は彼女の態度をムカついてつい怒鳴(どな)ってしまった。


 「あんた、本当に麻理味なのか?」

 「あっ……」


 やっぱり、私が本当の麻理味じゃないことがバレたようだ。まあ、別に最初から隠し通せるとは思っていないし。


 大体この世界の姿はログインする時に他人の姿も使えるから、彼女は私が勝手に麻理味の姿を使っているとでも思っているだろう。


 「さっきからおかしいと思っていた。あんたいったい何者?」

 「それは……」


 本当のことを言えばいいのか? でも彼女はこの世界の人間を(かろ)んじているようだから、私の正体をわかったらどんな反応から考えたら怖くなってきて躊躇(ためら)う。


 「答えられないのか?」

 「えーと……何というか、その……名乗るほどのものではないし」

 「何ヒーローっぽい台詞(せりふ)言ってんのよ? いや、名前なんてどうでもいい。あんたは麻理味とどういう関係? なんで麻理味の姿をしてんの?」

 「なんでって、まあ成り行きでっていうか……」

 「何それ? わけわかんない」

 「私だって、わけわからないよ」

 「あんたもしかして麻理味に何をしたのか?」

 「いや、違う。私が何もしていない。私は悪くないはずだ」


 そもそもやられたのは私の方だし。悪いのは麻理味だ。


 「どういう意味よ? 麻理味に何かあったら絶対許さない!」

 「だから私は何も……」


 この子ってどれだけ麻理味のことを心配しているのかよ?


 「こんなに麻理味のことを思っているのに、ここの人たちを何も躊躇(ためら)いもなく殺すなんて……」

 「はっ? 麻理味のことをNPCと同等に並べるなんて、あんたどれだけ麻理味のこと侮辱するのよ?」

 「……っ!」


 何それ? 私が悪いみたいな言い方だ。侮辱するのはそっちの方なのに……。


 ただ、不本意だけど私も彼女の言い分を理解しなくもない。この世界の人間と現実世界の人間の違いを、今になって私でも痛いほどわかっている。それでも簡単には納得いかない。数日前まで私もただのこの世界の普通の人間だったから。


 やっぱり価値観は違いすぎてもう話にならない。


 「とにかく、あんたの考えなんてどうでもいい。NPCのことを議論するのも時間の無駄だ。本物の麻理味はどこに?」

 「どこって……それは私もわからない」


 この質問だけは別に誤魔化(ごまか)すのではなく、本当に知らないのだ。彼女はどこに消えてしまったか私も知りたいくらい。


 「馬鹿にしてんの? 何も答えられないし。麻理味のこと知らないならもう話す必要がないね」


 そう言って少女はまた町の方へ向かおうとした。


 「待って!」


 私は彼女の腕を(つか)んで、また無理やり抱き上げてきた。


 「ちょっと、子供みたいにするなってば!」


 彼女は子供みたいに私の腕の中で足掻(あが)いて抵抗しようとしているが、サイズの差に逆らえないみたい。


 「話はまだ終わっていないし」

 「あんたが何も答えてくれなかったからだろうが!」

 「それは……」


 だってどう答えればいいかわからないし。


 「あんた、自分の方が少し大きいから調子になってんの?」

 「いや、別にそのつまりではないけど」


 実際に体の大きさは徹底的な力の差みたい。2倍の違いだけでもこんなに圧倒的だとはね。


 「とにかく、この町を(おそ)うことは絶対私が許さないからな!」

 「何それ? どうしてそこまでNPCなんかを守るのよ? 馬鹿みたい!」

 「は? あなたこそ、みんなを蹂躙(じゅうりん)して何が楽しいの? この人殺し!」

 「人ではない。NPCだってば! もう、あんたにはどう言っても理解してくれそうにないだろうね!」

 「あなたも私の事情を理解しそうにないみたいね」

 「そうね。ならどう話し続けてもわかり合えそうにないね」

 「確かに……」


 なんか言語が通じたとしても話は()み合わなくて結局お互い理解できないということもあるってことは実感した。


 「どうやら話しても時間の無駄だな。もうこんな町なんか好きにしろ! どうせほぼ半分壊したし。遊びはここまでにしておこう。これでいい?」

 「え? うん……」


 私はそう答えたら彼女の体は一瞬で姿を消した。まるで彼女のいた空間は最初から何もなかったようにあっさりと……。


 これは多分、『ログアウト』だな。こんな幽霊みたいな出没だとは。やっぱりこの世界におけるプレイヤーという存在は特別だ。そして今の私も彼女と同じだったのね。


 それはさておき、なんか意外とあっさりと終わったな? 本当にこれで終わりなの?


 とりあえず町のことはまだ心配だから町に戻ろう。


 まずは俯瞰(ふかん)して建物の瓦礫(がれき)の中で生存者を探して救出していく。この巨大な手と翼を利用して簡単に人を安全な場所まで運べて便利だ。


 屋敷とアリレウたちの安全を確認した後、私は町から飛び立って遠くまで行ったらログアウトした。


 さよならみんな。元気でね。






 結局町はまた全滅の危機から(のが)れたけど、一年おきに巨人の襲撃を受けるなんて災難だったね。


 しかし、そういえばなんであの子は私の町に来た? 暴れるならあの世界にはたくさん町があるはずなのに。これは偶然? あり得なくもないけど、そうではない気がする。


 もしかして私の所為(せい)? 私があそこにいたから? 彼女は麻理味の知り合い……というか友達みたいだし。麻理味を探しに来てもおかしくない。


 だとすれば彼女は麻理味の位置をわかる? 確かにパソコンを(いじ)ればあの世界の中のいろんな情報を調べることができるね。


 そう思って私も調べてみた。


 「これはフレンドリスト……?」


 見つけた。ここで同じプレイヤーの情報が入っている。恐らくあっちもここから私の情報を見ていただろう。この中に一人の名前が入っている。


 「恵美沙(えみさ)……」


 これは彼女の名前?


 状態のところを見れば『オフライン』と書いてある。つまりあっちの世界にログインしていない。さっきログアウトしたばかりだしね。


 「あ……」


 いきなり状態は『オンライン』に変わった。まさかまたログインした。


 ログインした場所も表示されている。どうやらセサウキティウ町ではないみたいでよかったけど、やっぱりどこか別の町だ。まさかあの子はこの町で暴れる気?


 「ここって……」


 彼女のログインした場所を詳しく見たらここってなんか見覚えがある。


 「まさか……」


 間違いなくこの町って、私が怪獣から救った商人の女性を送った大きな町だ!


 あの時一日中ずっと一緒に旅をしてきた。言葉は通じなかったけど、私にとって彼女は少しでも寂しさを(やわ)らげてくれた存在だ。彼女はその後どうかな? あの町に住んでいるのか? わからないけど、心配だな。助けに行かないと……。


 そう思って私は慌ててもう一度ログインをした。


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