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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
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☆22. 手のひらサイズの想い

今回はアリレウ視点。

 私はアリレウ。ミウリラお姉ちゃんが巨人に()み込まれたあの日からもう一年の月日(つきひ)が経った。今はもう13歳。


 あれから不思議なくらいに脆弱で病気がちだった私の体がなぜか元気になってきて、普通の女の子みたいに外に出て走ることができるようになった。


 原因はよくわからないけど、もしかしてこれはミウリラお姉ちゃんがくれた奇跡だと、私は思っている。


 こんな私の姿をミウリラお姉ちゃんにも見せたいな……。きっと喜ぶだろう。一緒に出掛けて外で肩を並べて歩いてみたい。最近背が早く伸びて今の私は多分ミウリラお姉ちゃんよりちょっと高いと思う。実際に比べてみたいな。


 でもそんなのあり得ないよね。だってミウリラお姉ちゃんはもう……。


 実はミウリラお姉ちゃんの代わりに、うちに新しいメイドが雇われたの。その子の名前はマリㇺ。私より2歳下だ。彼女は巨人の襲撃によって両親とはぐれて孤児になったそうだ。結構のショックを受けたようで、記憶の混乱もあって時々わけわからないことを言ったこともある。


 ミウリラお姉ちゃんの時もそうだけど、お父さんはこの子みたいな身寄りのない可哀想な子供を引き取って居場所を与えているようだ。


 マリㇺが屋敷に来たばかりの時の年齢も10歳でミウリラお姉ちゃんと同じだ。だからマリㇺがメイド服の姿で私のところに来た時にミウリラお姉ちゃんの時とデジャヴュって感じもして、面影を重ねてしまった。


 だから私の妹になって欲しいと彼女に頼んで、無理やり『お嬢様』ではなく『アリレウお姉ちゃん』と呼ばせたし。実際にそう呼ばれたら最初は私も照れたけど嬉しくて悪くないと思う。


 今までずっとミウリラお姉ちゃんの妹だった私は、実は自分の方が姉になることも(あこが)れていたよね。私だってもう子供ではないし。まあ、私なんかミウリラお姉ちゃんみたいに素敵な姉になれるかどうかあまり自信ないけれど。


 マリㇺが私のことを『お姉ちゃん』と呼ぶたびに、ついミウリラお姉ちゃんのことを頭の中に浮かべてしまう。だから1年経った今でもいつもミウリラお姉ちゃんのことを思い出している。


 そしてもちろん、ミウリラお姉ちゃんを奪ったあの巨人の女のことも……。


 それで今日私は買い物に出掛けて屋敷に戻った時に、つい妖精と出会った。あの妖精は小さくて可愛かったね。髪は水色でミウリラお姉ちゃんと同じで私はこの色が好き。彼女に声をかけてみたけど、どうやら言葉が通じないみたい。それでも彼女は私に笑顔を向けて、私に近寄ってきた。


 そして私はこの妖精を自分の手のひらの上に乗せたが、その時よく顔を見たらつい気づいてしまった。


 この妖精の顔、なんとあの時の巨人とそっくりだって……。


 確かに髪の色も、髪型も、服装も、何よりサイズも全然違うし。あんな大きな巨人が逆にちっちゃな妖精になるなんてとても考えられない。だから最初は私もただ偶然だと思っていた。


 しかし妖精が去った後、しばらく経ったらあれが現れたの。……もう一人の巨大な女。


 去年のあの巨人と比べて体が小さいようだけど、それでも私たち人間よりずっと大きくて圧倒的な力を持って余裕で建物を壊したり人間を虐殺したりしていくのはほぼ同じだ。


 せっかく去年の破壊から復興してきた町なのにまた壊されてしまうなんて……。なんでこんなことに? なぜ巨人は私たちの町を(おそ)ってくるの? 私たちは何か悪いことでもしたの? 本当にわけわからなくて理不尽ささえ感じてしまう。


 去年と同じように町はどんどん破壊されて、何人もの命が落とされていく。が、今回はなんと……途中で救世主が現れてきた。


 あの水色髪の妖精だ!


 ただしなぜか巨大化してあの巨人より2倍くらい大きい。さっき私の手のひらに乗った妖精と同じ人物だと言ったら頭おかしく感じてしまうけど、違うのはサイズだけで姿は確かに完全に同じだからやっぱりあの妖精で間違いないだろう。


 もしかしてこの妖精は本当に去年の巨人と同じ? そんなこと……。


 あんなサイズは最早(もはや)『妖精』と呼ぶべきかどうかわからない。だって『巨大妖精』って全然聞いたことがないんだもの。


 どうやって妖精があんなに巨大化できたのかわからないけど、彼女は私たち人間の味方で間違いないだろう。別に巨大妖精さんは巨人と戦って倒してくれたわけではないが、ただ抱き上げて空へと飛んで町から連れ出してくれた。襲撃者がいなくなったことで町の平和が戻った。


 暴力による解決でなくてよかった。もしあの巨大な2人が町の中でぶつかり合う……と考えたら……。やっぱりあまり想像したくない。


 あんな巨体でも飛べるなんてすごいね。空を飛んでいる巨大妖精さんの姿はなんか手のひらサイズの時とあまり変わらない。遠くへ飛んで小さくなっていく彼女の姿を見て私はつい手を伸ばして彼女を(つか)む素振りをしてしまった。もちろん実際に小さくないから、さっきみたいに自分の手に収まるわけがないとわかっている。


 でもあんな巨大な体は実際にさっきまで自分の手のひらの上に乗っていたってことを考えたらやっぱり不思議な感じで頭がおかしくなっちゃうよね。もし今のサイズの巨大妖精を手のひらに乗せられるなら私ってとんでもなく大巨人では? なんてね。


 それにしてもあの巨人の最後に見た姿は正直随分滑稽(こっけい)に見えたね。町を蹂躙(じゅうりん)した巨人がそれより2倍大きい妖精に抱き上げられるなんて。まるで『悪いことをしているところを大人に見つかって困った子供』みたい。


 結局その後2人はどこに行ってどうなっているのかな? そんなことは私たちは知るすべはないけど、とりあえず町はもう大丈夫みたいでそれでいい。


 こうやって私とこの町は二度も巨人に(おそ)われ、二度も助かったよね。


 なんでこの町はこんなに巨人に嫌われたのか? 2人の巨人の関係は? どこの言語で(しゃべ)っていたの? なんで去年町を(おそ)った巨人とそっくりの妖精が現れたのか? もしかしてあの妖精は本当に巨人と同じ人物? なんで今回の巨人を止めてくれたのか? これからまた別の巨人が現れて同じようなことが繰り返すのか?


 などなど、わからないことが多すぎて仕方がない。本当に滅茶苦茶(めちゃくちゃ)だ。私の小さな頭なんて最早(もはや)耐えきれないのでもうこの辺にしておこう。


 「ミウリラお姉ちゃん……」


 私はミウリラお姉ちゃんの形見である指輪を(にぎ)りながら(つぶや)いて、そして目から涙が(あふ)れた。


 「アリレウお姉ちゃん……? どこか具合悪い?」


 隣にいるマリㇺは心配そうに私の名前を呼んだ。


 「ううん、違うの。別になんでもない」


 根拠がないかもしれないけど、今までのことはミウリラお姉ちゃんが与えてくれた奇跡のような気がした。今でも見守ってくれているって感じている。


 そんなことあり得ないはずなのにね。


 それでも私は、奇跡を信じながら元気に生きていく。






 ちなみに、その後私の発案でお父さんの会社は巨大妖精そっくりの手のひらサイズ人形をこの町の特産品として製作して発売して人気を(はく)した。マリㇺもこの人形が気に入りのようだ。


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