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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
21/30

#21. もう怖くなんかない

 「そんな……」


 私がログインして元の場所に戻ったら周りはすでに廃墟(はいきょ)になっている。なんでこんなに破壊は早い? ……あ!


 そうだ。時間の差(・・・・)のことをすっかり忘れていた! ログアウトして現実世界にいたのはたった一瞬だけど、こっちではどれくらい時間が経ったのだろう?


 遠くに見渡せばまだ暴れているあの巨人の女の子の姿が見えた。彼女はとっくにいろんなところで破壊しまくって別のエリアまで歩いたけど、町の半分以上はまだダメージを受けていならしい。アリレウの屋敷のところもまだ(おそ)われていないようでよかった。だったらきっとアリレウたちはまだ無事だろうね。そう祈るしかない。


 とりあえず今はまだ遅すぎない。私が目の前にできることをちゃんとやらないと。


 「ちょっと! お願いだからやめて!」


 私は巨人の女の子に声をかけてみながら歩いて近づいていく。人間サイズから見たら随分距離があるだろうけど、今の私にとって走らなくても数秒で辿(たど)り着ける。今のサイズ感も昨日と同じですでに慣れている。昨日ぶりでなんかちょっと懐かしい感覚もするけど。


 ちなみにサイズ以外何の設定も変更しなかったから、外見も服装もさっき小さな妖精の時と同じだ。だから足は何も履いていない素足のままでこんな瓦礫(がれき)いっぱいの町で歩くと足が刺されてちょっと痛い。でも怪我(けが)はしないだろう。このサイズになるとすごく頑丈だから。


 あ、そういえば翼も生えているね。実は飛んだ方が速いし、町にダメージを与えることはないだろうね。でもそんな発想を思い付いた時にすでに目的地の近くまで着いたからもうそれでいいか。


 隣まで近づいたらやっぱりこの巨大な女の子が私の半分サイズしかないことはわかった。だから今私は彼女を見下ろすことになった。さっきとはまったく逆転だね。


 彼女はこの町の人間から見れば巨人なのに、私から見ればこんな小さくて子供みたい。なんか不思議な優越感が湧いてきた。さっきまでものすごく恐ろしい大巨人だったのに、今はもうこれっぽっちも怖くなんかない。やはりこの世にサイズは優劣を決めるものだな。


 最初の時からこの子が可愛いとは思っていたが、このサイズ差になると更に可愛く感じてつい抱き締めたくなっちゃう。だけど今彼女がやっていることは全然可愛くないし。むしろお尻ペンペンしてお仕置きするべきかも。いや、あれだけやってこんな可愛い罰じゃ済むわけないだろう。


 とりあえずまずは話し合おう。


 「麻理味(まりみ)? ここにいたのか」


 彼女は私を見て麻理味の名前を口に出した。やっぱり言葉が通じる。これは日本語だな。しかも知り合いだったんだね。そして私を見てもあまり驚く様子はないらしい。むしろ嬉しそうな顔だ。


 「体はどう? 大丈夫なのか?」


 彼女は私を見上げて心配そうな顔で言った。かなり優しく接してきたようで、なんか意外だ。


 「見ての通り元気だけど」


 さっき誰かの所為(せい)で死にかけたけど、今文句を言っても仕方がないか。


 「いや、この仮想世界の体のことではない。もちろんリアルでの体のことよ」


 あ、やっぱりそういうことか。確かにこの世界の体はただ作られたもので、現実世界の体は別々だ。たとえ現実では病気でもここでは元気な体になるだろう。


 「てか、でけぇな。ずっと見上げたら首痛いかも」

 「あ、そうか」


 身長は2倍だからね。やっぱり同じ尺度にしておいた方が話しやすかったかも。とりあえず私もずっと見下ろしたままで話しにくいと思って、幼い子供と話す時みたいにしゃがんで視線を合わせようとした。それでもやっぱり私の方が少し高い。彼女が見上げなければならないのは変わりないけど、さっきよりましになった。


 「今日麻理味が病院に行ったから学校休みって聞いたよ。どうしたの? もう大丈夫なのか?」


 どうやら麻理味の学校の友達で麻理味のことを心配しているみたい。病院に行ったことはお母さんから学校側に伝えておいたから。


 「それは……まあ……」


 どう答えればいいかわからない。彼女は私が麻理味だと思っているようだ。このまま誤魔化(ごまか)したらいいのかな?


 「本当にどうなったかと思って心配したよ。ラインを送っても全然読んでくれなかったし。普段ならすぐ『既読』なのに」

 「ライン……あ、スマホね」


 麻理味(このからだ)の中の知識で『ライン』は何なのか何となくわかった。スマホでメッセージを書いて会話するための手段らしい。今日私はスマホを少し(いじ)ってみたけどまだラインに触れていない。スマホの存在だって私はつい昨日知ったばかりだし。


 「やっぱり麻理味、どこか具合が悪いのか? 怪我(けが)や病気ではないの?」


 彼女はまた心配そうに私の顔を見上げてきた。いや、実際に私のことではなく彼女が心配しているのは友達である本物の麻理味のことだろうね。それくらいわかっているけど、それでも彼女が友達のことを心配する気持ちを持って、そこまで悪い人ではないと感じた。


 こうやって見るとやっぱり普通に優しそうな女の子で、あまり町を壊すなど酷いことをするような人間には見えない。


 「別に怪我(けが)でも病気でもないけど……」


 何というか。ちょっと複雑な事情で、どう説明したらいいか。いや、それより今は……。


 「とにかく暴れるのはやめよう。お願い。話があるなら町の外で」


 今話している間でも彼女の攻撃は完全に止まっているわけでなく、さっきより集中力が落ちたもののまだ建物を壊し続けている。


 「なんで? 別に町を破壊しながらお(しゃべ)りすればいいじゃん。今すごく楽しんであまり途中でやめたくないな」

 「そんな……」


 この人、暴れるのをやめる気はまったくなさそう。話したらわかってくれるはずだと思っていたのに。


 「麻理味も一緒に気持ちよく楽しもうよ」

 「気持ちよくって……。楽しむって……。巫山戯(ふざけ)るな!」

 「……え?」


 つい感情的になった私の表情を見て彼女はわけわからないような顔をした。なんで私が怒ったか全然理解できないようだな。


 「とにかく私と一緒に来てもらう」

 「……っ!」


 もうこのまま見てはいられないと思って、私は彼女に飛び込んで無理やり抱き上げた。今の体のサイズ差はちょうど大人と子供みたいな感じだから彼女は私に逆らうことはできないだろう。


 今余所(よそ)から見ればどんな絵になるのかな? さっきまで町を壊しまくった巨人の女の子が、より巨大な女の子に抱っこされて……。つい想像されてしまった。きっととんどもなくおかしな光景だろうね。


 「ちょっと! 放してよ! どうしちゃったんだよ、麻理味?」


 彼女の反抗を無視して、私はそのまま翼を広げて空へと飛んだ。今の私の体は巨人だけど、同時に妖精でもある。翼も付いていて、やっぱりこんなサイズでも羽撃(はばた)いたら空を飛ぶこともできるんだな。


 巨大な妖精か……。なんかおかしな感じだな。普通は人間の手のひらサイズのはずの妖精は逆に人間を手のひらに乗せるほどの巨人(巨妖精?)になるなんて誰も思わないだろう。


 それはさておき。とりあえず、これで町はもう心配ないだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大きさを利用して自由にやってる感じのシチュエーション良いですね! さっきまで怖く感じられた街を破壊していた子も、子どもサイズになって力関係が変わっている感じもサイズ差系のお話ならではですね…
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