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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第四章:期待と責任感
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#19. ちっちゃな妖精

 「すごい! 本当に飛べる!」


 私はやっと自分のいた『仮想世界』へログインすることができた。場所の設定はセサウキティウ町の近くの森の中。そして今回りを見たら木々いっぱいで、しかも何もかも大きく見える。ううん、私が小さい(・・・・・)のだ。だって私は今、手のひらサイズの妖精だからね。


 今私は蝶々(ちょうちょう)みたいな4枚の(はね)を広げて羽搏(はばた)いてあっちこっちの木の間に飛び回って楽しんでいる。いつも鳥たちを見て(うらや)ましく思ったこともあるが、まさか自分も空を飛べる日が来るなんて夢みたいだ。


 体のサイズに関しては巨人の時とは逆に、スケールを『1』以下に設定すれば普通の人間より小さいものになれる。例えば今みたいに『0.1倍』にしたら手のひらサイズね。


 だけど体が小さいといろいろ不便で、逆に人間に(つか)まえられて下手(へた)したら潰される心配もあるからこのままでは自殺行為だろうね。でも翼があって飛べれば何とかなる。


 まさか(はね)(つばさ)など人間が本来持っていない器官まで体に設定できるとはね。しかも不思議なことに、自然に動かせる。翼を動かせば本当に飛べるし。


 ちなみに獣耳(けもみみ)尻尾(しっぽ)とかもあるらしくて、もし獣人(じゅうじん)とかをやりたければできそうだね。


 でも私が目指したのは妖精みたいな姿だ。実は(あこが)れていたんだよね。小さくて可愛くて空が飛べる人間みたいな生き物、人々はそれを妖精と呼ぶ。


 地球では妖精はただ御伽話(おとぎばなし)に過ぎないけど、この世界では妖精が本当に存在しているらしい。ただ普通は森の中に住んでいるから、私も本物の妖精を見たことないね。


 この世界の妖精の実際の姿はわからないけど、本の中で書いたイメージなら正に今の私だと思う。水溜(みずたま)りに映っている自分の姿を見つめながら感想を浮かべた。


 今私が着ている服装は緑色のネグリジェ。これは今夜の寝間着(ねまき)そのままで、本来は寝る時に着る服のはずだけど、妖精みたいなイメージにピッタリだな。でも足は何も履いていない素足になっている。実は靴を履いた方がいいかもしれないが、飛べるから靴はあまり必要ないと思ってこのままにしておいた。


 髪の毛の色の設定は簡単に変えられるから、私の……ミウリラの本来の体と同様の水色にした。髪型も長さとか簡単に変えられるから脹脛(ふくらはぎ)まで長いロングにした。人間だったらこんなの長すぎて邪魔になりそうでそこまで伸ばす人はなかなかいなさそうだけど、今は妖精だからこれの方がいいかなと思って。


 「よし、行こうか」


 私は高い空へと飛んでいく。森の木よりも高く。近くにあるセサウキティウ町の姿が見えるまで。


 「やっと戻ってきたな」


 私は町を高いところから見下ろしている。こんな視線の高さでまるで自分がまた巨人に戻ったみたいな景色で不思議な感じだけど、やっぱり巨人の時との徹底的な違いは今足が地面に付いていないというところだな。


 「みんな今どうなっているだろうね」


 私が巨人の体になって町を出てから10日くらい冒険したからちょっと懐かしく感じるけど、これはあくまで私だけの感覚だ。


 実際に私が現実世界に出ていった後もこの世界の時間はまだ流れ続けていくみたい。しかも現実世界とここの時間の流れの速度は大きく違って、現実世界の1日(・・)はここの1年(・・)に相当するらしい。


 つまりこの町の人にとっては巨人襲撃事件からすでに1年以上経った。


 町は平和に戻って回復したようだ。死んだ命は元に戻れるはずはないけど、道路や建物とかは大分(だいぶ)建て直されたみたい。


 「いろいろ変わったね」


 私はセサウキティウ町へ飛び込んで、今はもう町の中にいる。この辺りはあの時巨人の麻理味(まりみ)に壊されたエリアのようで、見慣れない新しい建物ばかりだ。でも教会と鐘楼は復元されたらしい。よかったね。ここはこの町のシンボルみたいなものだから。


 「ໂຄະເຣຕເຕະ ໂຢເຊດະ」

 「ມະຈິໂນະນະກະເດະ ນັງກະເມະຊຸຣະຊີເນະ」

 「ຈິຈຈະກຸເຕະຄະວະອີ ໂອະໂມະຈິຄະເອະຣິຂິໄຕ」


 私の存在に気づいた人もいるらしくて、何か言って騒いだけど、やっぱり言葉は聞き取れない。


 こんなちっちゃい体なのに意外と目立つかな? 実際に町の中で飛び回る妖精は珍しいし。


 一応私は人間の手が届かないくらいの高さで飛んでいるから見られても(つか)まえられる心配はなさそうだけど油断は禁物ね。


 この翼で飛べる速度は意外と早くて、人間の歩く速度よりも早いらしい。だから安心で町を飛び回れる。


 いろいろ見てみたいけど、私の一番の目的はやっぱり……。


 ようやく屋敷の前まで来た。私がずっと住んでいた屋敷。アリレウと過ごしていた屋敷だ。


 「アリレウ、今どうなってるのかな?」


 外から見れば屋敷は完全に直されているようでよかった。


 「あれ? いない……」


 私は4階にあるアリレウの寝室のバルコニーまで来て、窓の外から部屋の中に(のぞ)いてみたけど、中には人の姿は誰もいない。


 アリレウがもうここに住んでいないかな……と不安に思ったけど、部屋の中を詳しく見たら以前とはそこまで変わりはなく、日常生活の用品も置いてあるので、今でもこの部屋には毎日アリレウが寝ているとわかった。だったら今お出掛け中?


 今までならアリレウは体が弱くてずっとこの部屋に()もっていたのに。だからいないのは珍しい。


 「あれは?」


 しばらく屋敷の周りで飛び回っていたら馬車が屋敷のゲートの前に止まったところを目撃した。その中から二人の女の子が降りてきた。先に降りてきたのはメイド服の女の子で、そしてもう一人は……。


 「アリレウだ!」


 まだ成長期で1年経って意外と背が伸びて随分印象変わったけど、間違いなく私の妹のアリレウだ。外出用の綺麗な桃色のドレスを着ている。なんか珍しいね。私と一緒にいた頃は普段外出しなくて寝間着(ねまき)姿ばかり見ていたから。


 どうやら体が普通の女の子のみたいに元気になったみたいね。こんな姿のアリレウが見られて私はすごく嬉しかった。


 アリレウのそばにいるメイドはまだ幼くて、アリレウと並んで立つと妹みたいな感じだ。彼女は私の変わりに雇われたメイドかな? そう考えるとなんか寂しい。でも私がもうアリレウのそばにいることはできないからもう仕方ないよね。


 だからアリレウのことよろしくね。小さなメイドちゃん。


 あ、今私の方はずっと小さいか……。


 「ອະ ໂຢເຊດະ ຈິຈຈະກຸເຕະຄະວະອີ」


 アリレウは私の姿を目撃したようで、不思議そうな顔でこっちに向いている。私が近くまで飛んでみたら彼女は微笑んで、手のひらを仰向けにした。


 「ຄົຈຈິນິຄິເຕະ」


 どうやら誘っているみたい。私はそのまま彼女の手のひらの上に乗った。素足(すあし)から感じた彼女の手の感触は柔らかくて温かい。


 今のアリレウって、なんかまるで巨人みたい。まさかこんな(ふう)に彼女を見上げる日が来るとはね。ちっちゃな妖精になったらただの小さな人間の女の子でも巨人に見えるのね。


 「ຈົຕໂຕະສະວັຕເຕະໂມະອີກະນະ」


 アリレウは私の乗っていないもう一本の手の人差し指を私に近づけてきた。そんな彼女の指を私は両手で受けた。その指はいっぱい私の視界に入っている。綺麗な指だな。指紋がくっきり見えてちょっとおっかない気もするけれど。


 「この指輪は……」


 その時私はその指に指輪が付いていると気づいた。私が以前自分の指に付けていた、父の形見(かたみ)の指輪だった。


 そういえばあの日からその指輪のことを忘れていた。私の体と一緒に巨人に呑み込まれたと思っていたけど、実はここに残ってアリレウに拾われたんだな。


 私は手のひらでこの指輪に()まっている石に触れながら考えた。結局あの時奇跡を起こしたのはこの石の力のおかげかもしれないね、って。でも実際はどうかな?


 奇跡なんて、原因や理屈がわからないから奇跡と呼ばれるんだよね。






 しばらくアリレウと触れ合ったら、私はまた翼を羽搏(はばた)いて、彼女の手のひらから飛び立った。


 もう一緒にいられないかもしれないけど、こうやってまた再会できて彼女が元気に生きているとわかっただけで私は満足した。


 「元気でね」


 そう言い残して、私は屋敷から去っていった。


第四章はこんな(ふう)にVRゲームみたいな感じになっています。


元々自分がいた世界なのに今外人という立場で戻ってくるなんてどんなに寂しい気持ちでしょうね。



今まで巨人の話だったが、今回は逆に小人になりますね。小さい女の子はやっぱりいいですね。


ちなみに私は新作を投稿しました。ほのぼの小人の女の子の話で、北海道が舞台です。小さい女の子に興味があってこの作品も読んでいただければ嬉しいです。

『手乗りコㇿポックㇽと可愛い魔女っ子と私』

https://ncode.syosetu.com/n2661ik/

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