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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第三章:安堵と罪悪感
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#18. また会える期待

 その後お母さんと一緒に私は病院に行って、医者に相談して事情を説明していろいろ体や脳の検査を受けさせてもらった。どうやら今日だけで終わることはできず、今後もまだいろいろ検査を受ける予定があるらしくて大変そう。


 病院以外にも、VRデバイスを開発した会社や、私が生まれた仮想世界を製作した会社にも連作してもらって、これから取り調べを受けることになるそうだ。私って実験体にされるの? 怖い。自分が特別な存在なのか? 今でもまだあまり信じられない。


 ちなみに今更だけど、病院での話などで私はついこの世界とこの体についていろいろ具体的にわかるようになってきた。


 今の私……つまりこの体の名前は廣實﨑(ひろみさき)麻理味(まりみ)、15歳で高校1年生。身長は150センチでやや小柄だ。


 そしてここは地球という星で、日本という国。今住んでいるのは石川県羽咋(はくい)市という町だが、病院は隣の金沢市にあるらしい。


 この国の共通語は日本語で、私がお母さんや病院の人と話しているのも日本語だ。そして今私が頭の中で考え事をしているのもそうみたい。元々話したことなかったはずなのに普通に(しゃべ)れる。むしろ今はこの言語しか口に出せなくなっている。文字だって漢字とひらがなとカタカナでいろいろあって難しくて複雑な言語なのに普通に読み書きできる。この体は普通の日本人だから、今の私もそういうことになっているんだな。


 そう。麻理味はどこにでもいそうな普通の黒髪日本人の女の子だ。(普通より可愛いとは思っているけど、それはこれとは関係ないだろう)


 もしこの体に私の人格が乗っ取ってしまわなければ麻理味は普通に普通な女子高生として普通な生活を送っていくのだろうか?


 私だってそもそもただ普通に平和に暮らしてきた普通の人間だったのに。今はもう……。


 人間……か? 結局それはどういう意味なのか? この概念について私はずっと悩んでいたみたいね。最初に麻理味の体になった時は、みんなと違ってこんな異常にでかい体で自分はもう人間ではなくなったと落ち込んでいた。そしてこっちに来てお母さんと話したら逆に中身が人口知能だと思える所為(せい)で人間ではないかもと動揺してしまった。


 だけど結局人間かどうか誰が決めるのだろう。それは見方次第で変わるらしいし。そんなこと(こだわ)っても意味ない気がしてきた。


 よく考えてみると、人間かどうかはそこまで大事ではなく、ただ私は『普通』ではなくなることを恐れているだけかもね。ただ普通に今までみたいに一人のメイドとしてアリレウのお世話をしていって、それだけで……。


 もしあの時私は巨人襲撃事件に巻き込まれなければあんなありふれた日常が続いておばあさんになるまでそのまま生きていくだろう。何も知らずに。自分の世界の真実のことも……。


 今はもうあんな日常には戻りたくてもできないだろうね。もう自分のいた世界を以前と同じ視線で見ることさえできなくなった。


 それでも私はもう一度あの世界に戻りたい。作り物だと知っても私の生まれた世界だから。少なくとも私の大切な人がまだあっちに残っているから、せめて会いに行きたい。


 そう考えて、今私は期待を込めてVRデバイスを被ってパソコンを(いじ)っている。


 今日の身体検査は終わって、私はやっとお母さんと一緒に家に戻れて自由になった。お風呂(ふろ)に入って寝室に戻った後、私はコンピュータとVRデバイスが置いてある机に飛び込んだ。


 コンピュータの操作や仮想世界に入るための知識は麻理味(まりみ)の体に残っているから大体問題ない。


 仮想世界へ飛び込む過程は『ログイン』と、そこから出て現実世界へ戻る過程は『ログアウト』と呼ばれるらしい。


 ログインする時はパソコンから操作する必要があるが、ログアウトする時はただ念じるだけでいいらしい。それともあっちの体が死んだり、非常事態になったり、決められた時間が過ぎたりしたら自動的にログインすることになるようだ。


 ログインする時にいろいろ設定ができるみたい。例えばスタートの場所とか。


 あの時巨人の麻理味は突然現れて気づいたらあそこに立っていたように見えた。それは恐らくログインしてすぐセサウキティウ町の近くにいたからだろう。だったら私も場所をセサウキティウの中やその近くに指定すればすぐ町に戻れるよね。


 そして体に関する設定。自分の体をそのまま使うのは一番簡単だけど、いろいろ設定を変えることもできる。ただし顔や体型は変えたければできなくもないようだけど、細かい調整が必要で扱いは難しくて、間違ったら変な形になって洒落(しゃれ)にならないのであまり初心者にはおすすめできないらしい。麻理味もあの時自分のこの姿のままでやってきたし。


 まあ、この体と顔みたいな可愛さなら何の不満がなくむしろ何も変えない方がいいだろう。今は自分の体だからそう考えるとナルシストっぽいかもしれないけど。


 ただし、体型と顔の調整が難しくてできなくても、体ごとのサイズの調整なら意外と簡単にできる。つまり巨人や小人になりたければスケールを変更するだけですぐなれる。


 なるほど。なんであっちの世界での麻理味は巨人だったかやっとわかった。


 あの時麻理味自分の体を『20倍』サイズに設定したからあんな巨人になったんだね。


 だとしたら、もしスケールを普通に『1倍』と設定したらあっちの人間と変わらない状態で入ることができる? よかった。巨人なんてもう嫌なんだから。確かに大きくて無双になったけど、普通に人間と接することはできなくて自分だけのけものにされるって感じだ。そんないや。


 いやしかし、問題はそれだけではないだろう。そう。たとえ同じサイズの人間になっても、『言葉が通じない』という問題はまだ残っている。


 お母さんによると、この世界の人間は自発的に文明を作ってきたから、言語も当然独特に形成してきた。地球のどの国の言語でもないから、理解することはできないし、自動翻訳とかも通用しない。


 私の人格は元々あっちの世界出身だけど、この体に乗っ取った所為(せい)で今もうあっちの言語も綺麗さっぱり忘れているらしい。まあ、そのおかげで代わりに日本語ができて現実世界で普通に暮らせるけどね。


 でもやっぱりそう考えると寂しい。故郷に戻っても、知り合いと会っても、お(しゃべ)りすることはできないなんて……。


 仕方ないよね。だって私はもう元の私ではない。姿も変わったし。


 実は自分の体以外にも他の人をモデルとした体を使うこともできるらしく、元の私の体と同じようなモデルを作れればあり得なくもないけど、目の前にいない人物のモデルを作るのは難しい。専門の知識が必要のようだ。しかも実際に私は自分の姿を細かく覚えているわけではない。時々鏡を見る程度で、むしろ知り合いの顔と姿の方がはっきりと覚えている。


 まあいい。元の自分として戻ることはどう考えても(あきら)めるしかない。


 しかしこの姿のまま普通のサイズで入るのは危険かもしれない。だって町を襲った巨人と同じ顔だから。たとえサイズが違っても覚えている人がいるだろう。バレたら捕まえられて処刑するとか……。まあ、殺されても死なないけど。


 ならいっそのこと、逆に小人やちっちゃな妖精にでもなってみようかな?


 そんな考えはつい頭に浮かんできた。うん。なんか面白いかも。


 「よし、これで……」


家が石川県羽咋(はくい)市という設定は特に意味ないが、ただ私の処女作である『いよひ 〜異世界幼女姫だったボクは日本美少女勇者の故郷で平和に暮らす~』(https://ncode.syosetu.com/n6329gr/)の舞台はここにあって、その後書いた他の作品も同じようにしているのです。

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