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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第三章:安堵と罪悪感
15/30

#15. 実は私は

 お風呂(ふろ)から上がって、寝間着(ねまき)に着替えて、ドライヤーで髪の毛を乾かした後、私はベッドに倒れて寝落ちした。


 久々の睡眠で気持ちよくて(くつろ)いだ。食事も、排泄も、睡眠も、やっといっぱい人間らしいことができて私は充実した。


 それで朝起きたら昨日着ていたのと同じ学校セーラー服に着替えて、寝室から出て食事室に入った。


 「おはよう。麻理味(まりみ)

 「おはよう。母さん」


 すでに食事室で私を待っている女性に朝の挨拶(あいさつ)をした。彼女はこの体の元持ち主である麻理味のお母さんだよね。


 昨日からの態度を見ればきっと彼女は『麻理味』の中身が変わったことに全然気づいていない。


 「今日ちょっと遅いよ。早くしないと学校に遅刻しちゃうよ」

 「学校……か……」


 そういえば今私が着ているのは学校の制服というもので、学校に通うための服だよね。さっき無意識に着替えたけど、実際に私は学校のこと何も知らない。


 「どうしたの? 昨日からなんか様子がおかしいのよね」

 「え? そう?」


 やっぱりお母さんは娘の異変に気づいているんだね。何かして誤魔化(ごまか)すべきか?


 ううん、やっぱり無理だろう。私には麻理味の記憶を持っているわけではない。ただ断片的に体で感覚を持っているだけ。このまま身を任せてある程度話の流れに付いていけるかもしれないけど、やがて限界があるはずだろう。


 学校のこともそうだ。このままではちゃんと学校に通える気はしない。これから家から出て学校に行くことになるよね。本当に学校まで行けるの? たとえ学校に辿(たど)り着いてもいろんな人と会ったら自然にお話できるのかな? やっぱり難しい。


 どうせ結局バレるのだから、それなら最初から打ち明けておいた方がいい。


 それに自分の置かれた状況を知らないまま生きていくなんてやっぱり不安だよね。お母さんはこうなっている原因について何か心当(こころあ)たりがあるかもしれない。その可能性に希望を持っていいよね。


 やっぱりちゃんと言わなければ。


 「あのね、母さん。話したいこと……ううん、どうしても話さなければならないことがあるの」


 食事が終わった後、私は覚悟してお母さんに話しかけた。


 「何? 今もう早くしないと遅刻よ」

 「それはそうだけど……」


 今は学校に行く場合ではないだろう。


 「こんな真剣な顔。大事なことなの?」

 「まあ」

 「もしかして昨日から様子が変になった原因に関するの?」

 「うん」

 「わかった。何があったの?」


 私は深呼吸して話を始めた。


 「実は私、『麻理味』ではありません」

 「え?」

 「私の名前はミウリラです。セサウキティウという町に住んでいました。ある日突然麻理味が現れて、町を襲って私を()み込んでしまって、気づいたら私は麻理味の体に入っています……。いや、入ったって言っても物理的に胃袋(いぶくろ)の中に入ったという意味でなく、人格が乗っ取ったっていうことです。それで私は麻理味になったというわけで……」

 「えーと……。()み込んだ? 乗っ取った? 何を言ってるの?」


 私は自分の身に起きたことについて順を追って解説していくつもりだけど、実際に語り始めたら上手(うま)くいかずにいろいろ省略して表現できないところが多い。


 「つまり、この体は麻理味のものかもしれないけど、人格は違います。私は本物あなたの娘ではありません」


 今私はついぶっきらぼうに言ってしまった。


 「そんな……。こんな冗談はあまりにも……」

 「変なこと言っているのはわかっています。でも本当です。私は元々この体ではなく、別人です」

 「そんなこと、あり得ない」


 お母さんはまだあまり信じられないような顔をしている。それは無理もないか。


 「本当のことです。信じてください」

 「そう言われてもね。何か証拠でもあるの?」

 「それは……」


 そう言われたら、やっぱり証拠なんて私は何も持っていないかもね。


 「でも私が昨日からおかしいってお母さんも気づいているはずですね。これは答えです」

 「確かにそうだけど、それはただの演じてるだけかもだろう」

 「そんな……。これは演じているように見えるのですか?」

 「確かにそうは見えないね。麻理味はそんなことをするような子でもないし」

 「でしょう」

 「それとももう一つの可能性……。麻理味自身の思い込みだ。つまり嘘のつもりはないけど、何かの原因で麻理味は自分が他の誰かだと思い込んでいるだけ」

 「え?」


 つまり私は『自分がミウリラ』だと思い込んでいる麻理味ってこと?


 「それって、『私』が最初から存在しないって言いたいのですか? いや、そのはずないです。私は私です。ミウリラというメイドの女の子。元の体だった時の記憶もちゃんとありますし」


 なんか自分の存在が否定されているようで、不本意だ。もっと自分のことを主張しておかないと。


 「ならその関連の話をもっと詳しく聞こう。例えば生まれ育ちや住んでいた環境とか。さっき言った町ってどこにあるの? どんな場所?」

 「あ、セサウキティウのことですね。そのことなら……」


 町とその辺のことをはじめとして、私は自分に関する情報をお母さんにいろいろ説明した。


 「確かに作り話のようには見えない」


 興味深く聞いてくれた後、お母さんはどんどんこれが本物だと信じてくれるようになってきたみたい。


 「でもあり得るのか? こんな話だと正に小説やアニメでよくあるファンタジー世界ね」

 「ファンタジー……」

 「なろう系小説によく出るような世界。それに魔法とか、魔導具とか、存在するはずのないものもあるとはな」

 「存在しないって……」


 今まで魔法が普通に存在するものだと認識していたのに。私には魔法の才能がないけど、町にはいっぱい魔法使いが生活している。日常生活にも魔導具が関わることが多い。


 「やっぱり、そういうところがあるとすればそれはいわゆる『異世界』ね」

 「異世界か……」


 異世界は、すなわち自分の今いるのとは違う別の世界のことらしい。この概念はこの体に身についている知識の中にある。そういうことか? 確かにここは私の住んでいたところと全然違うのだ。世界が違うと言われたら納得できるかも。


 つまり私は『異世界転移者』ってことかな?


 「でも異世界なんてあんなのただの小説やアニメで、実在するとは思えない」

 「そうですか……」

 「まあ、あるとすれば……あ、もしかして」


 話はここまで来たら、お母さんは何か思いついたみたい。


 「ね、そもそもあそこからどうやってここに来たの?」

 「え? それは……実は気づいたら部屋の中にいて……」


 そんなこと、私もまだよくわからないから上手(うま)く解説できない。


 「詳しく説明できるか?」

 「あまり自信はないけど、大体のことなら……」


 曖昧(あいまい)なところもあるけど、私はここに来た時の事情をわかる範囲だけ説明してみた。


 「なるほど。まだあまり信じられないとは思うけど、今までの話が本当だったら、結論から言うと……」


 私の話を聞いた後、お母さんが何かわかって納得したような顔をして結論を言い始めた。それはなんか嫌な予感……。これを聞いたら自分の中の何かが壊れてしまいそうな気がする。


 「その世界ってのは、もしかしたら『仮想世界』……。つまりコンピュータで、人工的に作られたもののことだね」

 「え?」

 「いわゆる『バーチャル・リアリティ』(VR)だ」


 その時私はついとんでもないことを聞いてしまった気がする。


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