#14. 食べて寝る
「どういうこと……? これ……?」
私は今の前の光景を見てわけわからなくて困惑している。
さっきまで森の中で歩いていたはずなのに、いつの間にか私は今とある部屋の中に……。しかも椅子に座っている。
「あり得ない……」
私って『巨人』だったよね? そんな私の巨大な体が入るほどの部屋なんて存在するとは……。しかも椅子も私から見れば普通のサイズに見えて、普通に座れる。
それだけでなく、周りを見ればベッドや机や本棚や箪笥など家具がいっぱい綺麗に並んでいる。誰かが毎日生活している家って感じだ。この部屋は寝室?
「これ……帽子?」
そういえば私の頭は帽子みたいなものを被っている。これを取って見たらどうやら何かの機械っぽいけど、外面がプラスチックでできているみたい。それに電線が付いていて、机に置いてあるパソコンと繋がっている。
「あれ?」
今私は何を? そもそも『プラスチック』って何? それに電線は? パソコンって?
その他にも、天井で光っているのは蛍光灯。涼しい空気を吹き出しているのはエアコン。机の上にスマホ、マウス、タブレットなど電子デバイスが……。そして窓の外の夕暮れの空にはちょうど黄色のお月様が浮かんでいる。
なぜ私の知らないはずのものは自然と認識できて普通に受けられているだろう? 不思議だな。
次に私は立ち上がって部屋の壁に掛けた姿見を眺めながら自分の体を調べ始めた。間違いなく巨人の女の子の体のままだ。元の私の体に戻っているわけではない。服装もそのままで……。そう、これは日本の高校のセーラー服というものだ。
しかし服も肌もなぜか全然汚れがなくて綺麗に見える。ずっと森の中で歩いて泥や埃が多少付いているはずなのに。
それにローファー……つまり今まで履いていた革靴は足に履いていない。まあ、寝室の中から当然だと思うけど、そもそも私はいつから靴を脱いだのか? 全然覚えはない。
「わけわからない……。もう……!」
頭の中がごちゃごちゃでどうしようもない私はベッドに身を投じて寝転がった。
「気持ちいい……」
久々の柔らかいベッドだ。この数日ずっと巨人だったから私が寝そべられる寝床なんて存在するはずがない。でも今何もかも等身大に見える。尺度の違和感などまったくない。なんでかわからないけど、今すごく寛いだ感じだ。
ここの全てが巨人サイズなの? それとも私は……この体がいつの間にか人間サイズにまで縮んだ? ならもう巨人をやり続ける必要がないのだな?
「ふん?」
数分後経ったら誰かの足音が聞こえて、その音はみるみると大きくなってきた。
どうやら誰かがここに……この部屋に向かっているようだ。やっぱり自分以外にもここは誰かがいるのか。音からすれば多分私と同じくらいサイズの人間だと推測できる。
私が今閉じている部屋の扉に視線を向けた。その時ちょうど足音が止まった。
「麻理味、まだゲームやってるのか?」
「……っ!」
扉の外から人の声だ。女性の。しかも私が普通に聞き取れる言語だ。自分の理解できる言葉が聞こえたのは久しぶりで懐かしくて安心感が与えられた気がする。
「ほら、聞こえてる? 麻理味」
「あ、うん……」
なぜか彼女が『麻理味』と言ったら私は無意識に反応してしまって、まるでそれが自分の名前みたいに感じて自然と返事した。
とりあえず私は扉に歩いて扉を開けた。そしたらある女性がそこに立っている。
彼女の目線の高さは私と……つまりこの体と同じくらいで、年齢は多分40歳くらいかな? この体と同じように黒髪で整った顔だ。綺麗な大人の女性って感じ。
「どうしたの? あんなに私をじっと見つめて」
「あ、ごめん」
つい見すぎて気づかれたようだ。
でも、この人は恐らく……。
「あの、母さん……」
「何?」
「ううん、何でもない」
やっぱり、この人は私の……いや、この女の子のお母さんだ。なんか頭の中でそうだと感じたし、今の喋り方もそれが自然だと感じて勝手に口から出た。
「とにかく、夕飯はとっくに冷めたよ。またゲームをやってて時間を忘れたの? 仕方ないな。温めて食卓に置いておくから、後早く食べに来てね」
「夕飯……食べ物……」
「どうしたの? 食べたくないの? どこか具合悪いの?」
「えーと……。ううん、別に。わかった」
私が返事したらお母さんは部屋から出ていった。
「ご飯か……」
そう言われると、なぜかお腹が空いてきた。この体になってからずっと食欲なくて食事が必要なかったはずなのに、今はすごく何か食べたくてたまらない気分だ。
やっぱりこの体はさっきまでとは少し違う。人間らしくなってきた。やっとご飯が食べられる。
でもその前に、なんか尿意が……。まずはトイレね。
どうやら食欲だけでなく、排泄機能も復活したようだ。なら恐らく睡眠のことも。
そして私がトイレに向かった。この家のことは記憶にないはずだけど、なんか身を任せれば行くべき場所まで行ける気がする。実際に私はすぐトイレを見つけて、中に入って扉を閉じて普通にウォシュレットに座って自然と用を足せた。こんなトイレは私が使ったことないはずなのに。
その後食事室に来たら夕飯はすでに食卓に置いてある。私はすぐ飛び込んで椅子に座って食べ始めた。美味しい。久しぶりの食事ですごく感動した。
ここでは『箸』で食事をするのね。食べ物を挟んで口に入れる。これも元々私が使ったことないはずなのに、今普通に扱えている。
「ご馳走様でした」
食べた後私は片づけて、そして寝室に戻って、寝間着を取り出して、お風呂に入った。
「やっぱ気持ちいい……。癒やされた」
温かい水の中って最高だよね。この体になってからずっと冷たい湖で水浴びをしていたし。
湯船に浸かりながら私はいろいろ考え始めた。
そういえばさっきからずっと自分が本来見たことも使ったこともないものばかりに囲まれたが、なぜか何も困ることなく、まるですでに馴染んでいるみたい。
もしかしたら体で覚えているとか? 今そうとしか考えられないよね。だとしたらとても助かった。
これは言葉のことと同じかも。この体になってから無意識にこの体の身につけている言語を自然と喋れることになったし。他のスキルや知識もそうだろうね。だからここにいてもそこまで違和感がない。
自分が巨人だったことももはや忘れてしまいそう。だってここは何もかもこの体から普通サイズに見えるから。
それにどうやらここはこの体の持ち主の……『麻理味』という女の子の家で、お母さんもいて、これらが彼女の日常らしい。
もしかしたら私、これからここで暮らしていけるの? いや、でも私は本当のこの家の娘ではないよ? 身体だけはそうかもしれないけど。
それでもずっと長い時間漂流していた後やっと自分の新しい居場所を見つけたかもしれないと思ったら……。
事情はまだよくわからないままだけど、今私はここにいてもいいよね?
美味しいご飯を食べて、寛いでお風呂に入って、そして気持ちよくベッドに寝る。




