✫13. 可愛い子に救われたよ
今回は別の視点となります。語り手はミウリラに救われた女性。
あたしの名前ロサㇻフィ、21歳で職業は商人。サウヒュデヌイという大きな町に住んでいるが、時々商売のためにいろんな町へ出掛けている。
町の外には怪獣がうじゃうじゃいて危険だから、安全を確保するためにいつも護衛を雇って一緒に同行させる。しかしある日あたしたちは『ナガキバシロトラ』というやばい怪獣の群れと遭遇してしまった。体長は3メートルくらいでただでさえ凶暴で手強いのに10匹出てくるなんて、ほぼ絶望的だった。
実際に護衛たちも手に負えなくて、一人ずつ犠牲になっていく。そしてやっと戦闘能力を持たないあたし一人だけ残されて、死の覚悟までできてしまったけど、その時つい現れた。巨人が……。巨大な女の子がね……。
彼女は華奢で10代半ばくらいの若い女の子のような姿だけど、尺度だけはおかしい。その体は異常にでかいのだ。彼女の手のひらだけでもあたしの体より大きい。
ナガキバシロトラに攻撃されそうになったあたしの体を、彼女は巨大な手で掴んで持ち上げてその窮地から救い出してくれた。そして彼女は巨大で強靭そうな足でそのナガキバシロトラを踏み潰した。あたしの同行者たちをたくさん殺したナガキバシロトラを彼女は一瞬で倒してしまった。なんか次元が違いすぎる。
そんな巨大で無敵そうな女の子を見て、あたしは今までないくらい恐怖を感じてしまった。
助けてもらったことは感謝に思うけど、結局彼女こそナガキバシロトラたちよりやばい存在だろうと、その時のあたしはそう思っていた。だってこの世界は弱肉強食だ。
それに巨人の伝説はあたしもどこかで聞いたことがある。『突然現れた巨大な人間(略して巨人)が町を滅ぼす』という。実際に本当かどうか疑わしいけど、こうやって実際に巨人が自分の目の前に現れてしまったら、身の危険を感じるのは当たり前のことだ。
「མོའུ་དའི་ཇོའུ་བུ་ད་ཡོ།」
手の中に怯えて動けないあたしに対して、彼女は嬉しそうな顔で何か喋ってきた。だけど全然聞いたことない言語のようなので、全然聞き取れなかった。
「きょ、巨人!? やだ! 来ないで!」
あたしは彼女にそう叫んだけど、やっぱりあたしの言葉は彼女も全然わからないみたい。
その後なぜか彼女は簡単にあたしの体を地面に置いてくれた。わけわからないけど、これが逃げるチャンスだと思ってあたしはすぐ逃げ出した。
しかし彼女はすぐ追ってきたし、あたしも普通はあまり走るのが得意ではないから、すぐ息切れがして途中で止まって逃げるのを諦めた。
もう煮るなり焼くなり勝手にしろという感情になって覚悟したけど、意外なことに、彼女はあたしに優しそうな笑顔を向けて手のひらのに乗らせてくれた。
もしかして本当に悪意がなくあたしを助けに来たの?
確かにとんでもなくでかい巨人だけど、外見は完全に普通の人間の女の子だ。しかもよく見たら結構可愛くてあたしの好みだ。
どうせあたしに逃げ場なんてあるはずないのだから、騙されたと思って付き合ってみようではないか。
たとえ最終的に死んでも、今こうやってこんな可愛い子と一緒にいられてあたしは幸せでもう思い残すことはないかもね。
彼女の名前はわからないけど、あたしより年下でまだ子供のようだから、これからとりあえず『巨人ちゃん』と呼ぼう。
こういう流れであたしは巨人ちゃんと同行することになった。とはいっても実際あたしは自分の足で歩くことはなく、ただのヒモのような状態だけだな。
彼女の目的地はよくわからないけど、どこまでも一緒に行くしかない。こんな森の中であたし一人ではどこにも行けないから。
時々あたしは巨人ちゃんの襟のところに乗せてもらった。彼女の心臓の音ははっきりと聞こえて、ちょっとうるさく感じてしまうけど、なんか少女の肌が柔らかくて暖かくて意外と気持ちよかった。彼女は子供らしい体型でそこに『谷間』と呼べるほどのものがないというのはちょっと残念だけどね。
夕方にあたしはお腹が空いて胃袋が勝手に大きな音を出して巨人に聞こえられてニヤニヤ笑われた。恥ずかしかったけど、その後いっぱい食べさせてもらった。
しかし巨人ちゃんはなぜか何も食べなかった。食事を摂る必要がないのかな? まあ、でもあんなでかい体はきっと胃袋も大きくて、本当に食べたいのならどれだけ食べても足りそうにないだろうね。
彼女は一度何か食べたそうに舌舐めずりをして、あたしは自分も捕食されちゃうかと思ってつい物怖じしてしまったけど、やっぱり彼女は別にあたしを食べる気はないみたいでよかった。
でも巨人ちゃんの口はあたしを丸呑みできるくらいでかいから、怖がるのも当然だよね。
夜になってあたしはいつの間にか眠りに就いてしまった。朝目覚めたら彼女まだ歩いていた。もしかしたら彼女は夜でも眠らずにずっと歩き続けてきたのかと疑問に思った。
その後湖を見つけて一緒に水浴びすることになった。服を脱ぐ時あたしはつい緊張して戸惑ってしまった。だってあんな可愛い子の前で裸になるなんて。
結局服を脱いで2人で生まれたままの姿で湖に入ったけど、彼女は時々巨大な目であたしをじっと見ていてすごく恥ずかしかった。
でもその代わりにあたしは素晴らしい光景が見えてしまった。巨大な全裸の美少女、それは正に絵になるわよね。傷一つなく完璧で白くて綺麗な柔肌だった。何という眼福だ。このままあたしの目に焼き付いてもう一生忘れないだろう。
水浴びの時いろいろじゃれ合って仲良くなってきたような気がした。一緒にいて楽しくてこんな時間が長く続けばいいかもね、と思ってしまった。
しかし湖から離れてしばらく歩き続けてきたらようやく町が見えた。偶然かどうかわからないが、それはあたしの住んでいるサウヒュデヌイ町だ。巨人ちゃんはあたしの命を救っただけでなく、わざわざあたしを町まで連れてきてくれたんだ。
あたしを町の入り口に置いたら彼女はすぐ踵を返した。
町の衛兵たちも巨人ちゃんを見てすごく警戒して、やっぱり彼女が町に入ることは許されないだろう。彼女が町に入りたいのなら衛兵を全滅させて壁を超えることもできそうだけど、そんなことはしなかった。やっぱり彼女がただあたしを送るためだけにここに来たんだね。
そこまで優しくしてくれて何かお礼をしたいけど、結局何もできずにお別れすることになった。
「あたしを助けてくれて本当にありがとうね! 名も知らない巨人ちゃん!」
町から遠くなっていく巨人ちゃんに向かってあたしは精いっぱいの声で叫んだ。彼女は聞こえるかどうかわからない。聞こえても理解できないとはわかっているけど、それでもせめて感謝の言葉を言っておきたい。
その後あたしは町に入って自分の身に起きたことを衛兵たちに伝えた。本来巨人のことなんて突拍子もないことだけど、巨人ちゃんが現れたところを町のみんなも目撃したからすぐあたしの話を信じて受け入れられた。
そしてあれから巨人の噂話が広まって、やがて新しい伝説となった。
これで第二章は終了です。ここから話はこれまでとは大きく変わってしまうので、楽しみにしてください。
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