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眩しき廣がる向こう側の現實  作者: 雛宇いはみ
第二章:懐疑と優越感
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#12. この世界での居場所なんて

 怪獣の群れの襲撃から女性を救ってから一日経ってまた新しい朝を迎えた。私が巨人になってからもう3日目。


 一人旅になると覚悟したけど、やっぱり誰かと一緒にいると心強い。言葉が通じないし、サイズも違いすぎて存在感が薄い気もするかもしれないけど、誰かがいて(ひと)りぼっちじゃないという意識は少しでも私の救いでもある。


 彼女の小さな体を手のひらの上に乗らせている時もあるけど、時々私のシャツの(えり)に置いたり、ポケットの中に入れたり、肩に乗せたりもしている。ずっと同じ体勢のままだとしんどそうだから。


 夕暮れになった時、つい彼女のお(なか)の音が聞こえて、随分お(なか)()いたとわかった。こんな小さい体なのにこんなに大きい音を出せるとは不思議だね。私はつい笑ってしまった。そしたら彼女も恥ずかしそうな表情を見せて、なんか可愛い。


 私はこの体になってから食欲はなくなったけど、やっぱり普通の人間は当然食事が必要だよね。


 そして私は彼女の狩りの手伝いをした。肉を獲得できて火を付けて焼いて美味しそうに食べている彼女を見て私はつい(うらや)ましく感じてしまった。同じサイズの肉を今の自分が食べても小さすぎて何も感じられないから。


 料理のことを考えてつい(した)()めずりをしたら、彼女は私を見てびっくりして怯えた。まさか自分が食べられるとでも思ったのか? 私はそんなことをするわけないのに。


 夜になると彼女は眠くなっていつの間にか寝落ちしてしまった。私は彼女を手のひらの上に乗せて寝かせた。気持ちよさそうに眠っている彼女を見て私も嬉しく感じた。私には眠気(ねむけ)がないから夜彼女が眠っている間でも歩き続けていく。


 朝になって彼女はやっと目が覚めた。その時私に何か言った。言葉わからないけど、こういう時だから朝の挨拶(あいさつ)かな? そう思って私は「おはよう」で返した。


 途中で大きな湖を見つけたので、ここで(みず)()びをすることにした。


 彼女は私の前で服を脱ぐのに躊躇(ためら)いを見せた。同じ女だから別に恥ずかしがることはないはずなのに。もしかして彼女にとって私は『女の子』というより、『巨人』だからかな?


 でも私も彼女の前に服を脱ぐのに抵抗感がないわけではない。だって彼女の大人っぽい体と比べて私の体がなんか子供っぽくて貧相に見えるから。この体は元々私の体ではないけど、実際にこの体型はほとんど私の体とあまり変わらないから自分の体を見せると同じような感覚だ。


 もちろん、まだ成長の見込みがあると思うよ? そうよね? いや、そんなこと今はどうでもいいけど。大体この体は普通の人間みたいに成長できるかどうかもわからないし。


 つい(はだか)で水浴びしている彼女をじっと見つめすぎたか、彼女はまた恥ずかしがって水掛けで私を攻撃しようとした。もちろん、こっちに全然届いていないが、こんな彼女の反応を見てなんか可愛く感じた。


 こうやって言葉が通じなくても私たちは水浴びしながら遊んで楽しんで笑っていた。






 「町だ!」


 水浴びしてスッキリしたら旅を続けて、ようやく町らしいものが見えた。


 私は自分の住んでいたセサウキティウ町を出てから2日間ずっと森の中だから、人が住むような場所なんて全然見かけていなかった。


 そもそも私は自分の町以外の町に行ったことがないから、他の町が見えるのは今初めてだ。


 まだ外から見ているだけではっきりと言えないかもしれないが、セサウキティウと比べてこの町の方が明らかに大きいみたい。それに町の周りに壁が建ててあるし。なんかすごい。


 私は自分の目で見たことないが、壁がある町って大体大きくて重要な町だそうだ。壁は侵略者から市民を守るために作られるものだから。


 この壁は大体8メートルくらい高くて、壁の上に衛兵が立っているようだ。確かに怪獣が来ても町に入ることはできるはずがないから、中にいる人たちは安全で暮らせそうだ。


 でもこの程度の高さなら今巨人の体になっている私は余裕で足を上げて越えられそうだ。もし私……というより、巨人がこの町を侵略しようとしたらこの壁は全然役に立ちそうにないね。


 私はこの町に危害を加える気なんて全然ないけど、やっぱり町に入るわけには行かないよね。


 実際に私が壁のゲートまで歩いてきたら壁の上で見守っている衛兵たちはこっちを見て怯えながら武器を構っている。もし私が壁を越えようとしたら攻撃してくるだろう。


 言葉も通じないから私は自分の事情を説明することはできないだろう。たとえ通じたとしても聞いて信じてくれるかどうかわからない。それに私が町の中に入れてもらえたとしても迷惑しかかけられないだろう。だったらそれでいい。


 私だってこんな大きな町に(あこが)れがあって、いつかこんなところを歩き回ってみたいけど、今の体では無理だろうね。でもこうやって上から見下(みお)ろせるだけでももう満足だ。町で生き生き暮らしている人々がいっぱいいて(にぎ)わっているところを上から見ているだけでも随分感動的だ。そこで私が入ったらこんな平和な人々の日常が変異してしまうだろう。


 「もうお別れだね。さよなら。今まで一緒にいてくれてありがとうね」


 私は昨日からここまで同行していた女性を地面に下ろして別れを告げてこの町から後ろを向いた。


 「ອະຕະຊິໂອະທະສຸເກະເຕະຄຸເຣະເຕະອະຣິງະໂຕເນະ ນະໂມະຊິຣະໄນຄຽວຈິນຈັງ」


 後ろから彼女の叫んだ声が響いてきて、私に対する言葉だろう? 意味がわからなくてもそれが感謝の言葉のように聞こえた。だけど私は振り向かずに聞き流してここから去っていった。


 せっかく出会って一緒に楽しそうに過ごしていたけど、やっぱりずっと一緒にはいられないよね。でも最初からそのつもりだったからそれでいい。私が彼女と同行してきたのはただ放っておけなくて、少なくとも安全な場所まで連れていきたいだけだ。そして今その目的は達成した。だからもうこれで終わり。


 どうせ言葉は通じないし、一緒にいてもお(しゃべ)りできなくて、できる楽しいことは限られている。


 彼女だって巨人の私なんかよりも、同じ普通の人間と一緒の方がいいに決まっている。


 同じ普通の人間……か。そういえば一昨日(おととい)まで私だって普通の人間だったはずなのにね。いつの間にか自分が普通の人間ではないと自然に納得してしまった。


 私はこんな巨人になんてなりたくてなったわけではないのに。


 こんな体になったおかげで人助けはできるようになったけど、結局私の居場所がなくなってどうするの?


 とにかく、私は旅を続ける。そしたらこの体の秘密や、普通の生活に戻る方法を見つけるかもしれない。






 その後は長い旅だった。森林、草原、砂漠、山地、いろんな場所を通ったね。大きな川や高い山も越えた。周りの地形や自然が変わっていく。歩きづらいところもあるけど、これを乗り越えてやっと見たことのないものが見えたら楽しくて来てよかったと思うようになった。


 時々新しい町を見つけたら、私は町の近くまで歩いてちょっと衛兵たちに挨拶(あいさつ)をしたけど、町の中まで入らなかった。面倒なことになりそうだから人と関わることは最低限にしている。それでもこんなにいろんな町があるとわかるだけでわくわくした。


 それにしてもやっぱり、どの町の人間でもサイズはあまり変わらない。どこに行っても私みたいな『巨人』は存在しないのね。それは当たり前だとわかっているけど。


 そしてあれから数日経った。もう10日以上だと思うけど、私は数えることを忘れてしまった。


 今日は何日? 町の外では(こよみ)も時計もない。しかもこの体は昼でも夜でもずっと歩き続けることができて、睡眠が必要としないのだから。こんな状態が続いたら時間という概念が鈍くなっていくのも無理はない。


 この旅って、いつまで続くのか? 一ヶ月? 一年? 数年? 終りが見えないと思うと気が沈んじゃう。


 そう考えて歩いていくはうちに、いつの間にか視界が真っ白になっていって……そして……。


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